0821

以前、祖母が残した手書きの文章をPCで入力して、それが完成したものをプリントアウトした。別の機会に、もう一人の祖母の姉妹が残した文集をPCで入力して、こちらも活字化した。ぼくがこれらの経験から得たのは、時代も性別も違う、二人の女性の人生のごく一部を追体験できたこと。それは本当に貴重なことだった。そしてそれは文章だからこそ可能だった部分もあるとおもう。二人ともぼくが大人になってそれをじっくり読むということをおそらく想定していなかった。でも、文章になっていたその言葉たちは、生きる時代も違うぼくの心に届いた。文章を書くというのは、ある種、孤独を引き受けることだとおもう。いろんな日常があり、家族や友人、知り合いたちと言葉を交わす時間はあっても、文章を紡ぐとき、そのとき、そのひとは、自分の心と対話している。その時間、たった一人だけの時間を引き受けている。でもだからこそそうやって紡がれた文章は、時代を超えて、書き手の意図を超えた形で、誰かに届くことがある。

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