第8話

 ――キーンコーンカーンコーン


「優! 大丈夫ですかっ!?」


「うわぁぁぁああ!?!?」


 優は突然大きな声で先生に起こされると弾かれるように体を起こした。


「び、びっくりしたぁ……。あー、心臓止まるかと思ったし」


 先生はごめんごめんと笑いながら謝った。


 優は激しく心臓が鼓動しているのを感じながら周りを見回した。


「え、他のみんなはどうしたんですか……?」


 教室の中には優と先生の2人しかいなかった。


「優、まだお昼の2時ですよ?」


「えぇ!?」


 じゃぁ昼寝!? まじで最悪。なんでこんな時に限って昼寝なんて……。


 あぁ、もう。早く起きて小論文書かないと……。


「勉強中に急に倒れるなんて先生びっくりしましたよ……体調は大丈夫なんですか? 倒れたときに頭とかぶつけませんでした?」


 ――え


「え、た、倒れたんですか!? 私が!? なんで……?」


 まだ4時間しか勉強していないのに倒れてしまった自分が信じられない。


「まぁ、普通に考えてストレス……かな?」


 先生がそう言うと優は自分の体の弱さに腹が立ってきた。


 早く戻らないともっとみんなに置いていかれてしまう。


「先生、これどうやったら帰れますかね?」


 優は切羽詰まった表情で先生に尋ねた。


「え、倒れたのにまだ勉強すんの? 死んじゃうよ?」


 先生は目を丸くして言った。


「はいはい。ご心配ありがとうございまーす。でも私、早く勉強しないと」


 優は一刻も早く勉強を再開したかった。


「どーせ今から戻って勉強したところで頭真っ白になってパニクるだけなのに」


 先生は呆れたような声で言った。


「は……? 何、馬鹿にしてんの?」


「どれだけ勉強しても頭に入らないときに勉強してなんか意味あんの? ただただ勉強できない自分にムカついてくるだけじゃん。睡眠時間1日4時間? そりゃ人間ぶっ倒れるわー。別に優が弱いわけじゃないのに自分を責めちゃうなんて可哀想〜」


 腹の底から湧いた優の怒りは止まることなく膨らみ始めた。


「みんなと同じくらい勉強しても置いていかれるから、みんなよりもっと勉強しないといけないじゃん!? 私、頭悪いからみんなの倍くらい努力しないといけないの! つべこべ言わずに早く私を帰して!!」


 目の前で優の怒りが爆発してるのにも関わらず先生は平然と喋り続けた。


「みんな優が焦って頭が真っ白になっているときに勉強してるんじゃないか? なんで自分はこんなに頭が悪いんだろうと責めているときに勉強してるんじゃないか? 今の現実が辛くて泣いているときに勉強してるんじゃないか? 違うか?」


「なっ……」


 優は言い返してやろうと思ったが言葉が出なかった。


「なぁ、優。人が苦しみから抜け出すためにまず最初にしないといけないことは何か分かるか?」


「ど、努力するとか……?」


「それはその次だな。まずは『肩の力を抜く』こと。優は辛い時も十分すぎるくらい頑張っていた。人生には休まないといけない時期がある。誰だってそう。その時期がきっと今なんだろう。休むことは止まることではない。回復することだ。心が落ち着くまで精一杯休もう。ぶっちゃけ人生健康だったらなんとかなるさ」


 先生はそう言うと優しい笑顔で頑張ったねと優の背中をさすった。



 優は歯の隙間から声が洩れると号泣することしかできなかった。


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