第20話 女達
「ハァ~気が重いわ」
マリ―の言うのも解かる。
なんで勇者パーティの私達が色仕掛け等しなくちゃならないんだ。
しかも、私達に「愛している」そう言ったガイアに頼まれてだ。
「解かるよ。壊れているって言うけど聖夜、今の方が幸せそうだよ!私としては放って置いてあげたいんだけど…駄目なのかな?」
ミルダの言う事は解かる。
今の聖夜の顔は幼い頃、私達を見ていた顔に近い。
あんな楽しそうな笑顔、どの位見ていなかったんだろうか…
昔は、優しそうに何時も微笑んでくれていた。
かなり嫌な事をさせた記憶も沢山あるし、剣の修行で怪我をさせた事もあった。
それでも、聖夜は笑っていた。
だけど、旅の途中から聖夜は笑わなくなった。
理由は解かる。
ただ一人除け者状態だったからだ。
私達四職は国からお金が支給される。
だが、聖夜にはそれは無い…だから自分で金を稼ぎながらついてきてくれた。
そんな自分で稼いだお金でも、誰かが困ると惜しげなく使っていた。
誕生日には豪華な食事やプレゼントも何時もくれた。
聖夜は今思えば、既に家族以上に扱ってくれていたのだ。
聖夜は魔王なんて関係ない。
四職でない以上戦う義務もない。
義務が無いから国からお金も貰えない。
それじゃ、なんで傍に居てくれたのか?
心配だから…それと好きだったから、それだけだ。
しかも、聖夜は男と女という愛情だけでなく、友情という意味でガイアをも支えていた。
それを…斬り捨てた。
ガイアの言う、色仕掛けなんかで戻るわけが無い。
「ミルダ、私だってそうしてあげたい、だけど戦力的に無理だ」
「ランゼの言う事は解かるよ…だけど聖夜が欲しい物を私達はあげられるのかな? ねぇ、よく考えて私達ゼロじゃないんだ…マイナスなんだよ? 解っているの? 心を傷つけてあんなに尽くしてくれた聖夜を斬り捨てた…もう関わらないであげるのが優しさだよ」
「ミルダ、それは解かるんだ、だがこれから先、必ず聖夜が必要になる。実際どうだ! ボロボロじゃないか!」
「聖夜の欲しい物を全部あげれば良いじゃない…」
「マリ―、それが出来るなら、私だって放って置くなんて言わないよ。無理でしょうが」
「ミルダ、それは覚悟の問題よ!幸いガイアが勇者という事もあり、最後の一線は超えてないわ。聖夜が欲しいのは『自分を認めて愛してくれる存在』なのよ…だったら全部捧げてしまえば良いのよ、心も体も全部ね」
「それはどう言う事だ」
「マリ―、頭が可笑しいの?」
「あんた達馬鹿なの? 貴方達の中で聖夜が嫌いな人はいるの?」
「そんな訳無いだろう…私は好きだ」
「私だって、ただもう手遅れなだけだよ」
「だから、この話はそもそも逆なのよ。聖夜が好きだったのは『元』。今はもう好きじゃないかも知れない。だったら聖夜が好きな私達がアタックすれば良いだけだわ。恋愛は自由なんだから、何時までも上から目線じゃ駄目なのよ。好きなのは聖夜じゃ無く私達なの。その意識を持って行動しなくちゃ! 聖夜を見習わないと駄目なの!『好きになって貰える』その確証が無くても聖夜は尽くしてくれた。同じ事をしなくちゃ始まらないよ」
「そうか…確かにそうだな」
「そこから頑張らないと駄目なんだね」
「そうよ…それで覚悟はあるの?」
「「覚悟?」」
「そう…今回の場合は前とは違う。聖夜を好きになるって事はガイアを好きにならないと言う事よ。前の時はガイアをとって聖夜を追放した。もし聖夜を今回取るなら、ガイアに今後指一本触らせない。その覚悟が必要よ…二人とも大丈夫なの? 両方好きっていうなら…多分無理だわ」
「そう割り切れるのか?」
「難しいよ…」
「そう…だけど、もう私は割り切れたわ。ガイアじゃ無くて聖夜をとる。ここ暫くの態度で決めた。幾ら聖夜を取り戻したいからって、ガイアは『色仕掛け』しろとまで言ったわ。考えてみて、聖夜とはいえ、私が他の男に抱かれても良いって事でしょう。ふざけるな!って感じよ。そこ迄馬鹿じゃないわ。もう決めたわ」
「ハァ~ そこから目を離そうとしたんだが…そうだよな、うんそうで無ければ駄目だ」
「そういう事だよね…ガイアは元からそんなに私達が好きで無かった…うん認めたく無いけど、そうじゃないかな」
「それでね…私はもう場合によってはこの旅を辞めても良いと思う。だって、ガイアはアホみたいな事を言っているけど、人の心を取り戻すなんて時間が掛かる事だもん。場合によっては年単位掛る事だよ」
「そんなに掛かるのか?」
「あの…それで良いのかな」
「聖夜が尽くしてくれた期間は10年越えているのよ…あくまで心の問題よ」
「もうどうして良いか解らないが、聖夜を望むと言う事はそういう事だな」
「ねぇ、そこ迄考えるならもう放って置いてあげた方が良いんじゃないのかな」
「それは無い…ガイアが本気で私を好きでないなら、聖夜しか居ないもの…だから私は聖夜がどう思っているかじゃないわ、私が好きなのよ」
「そうか…私も腹を括るべきだな…解った。ガイアは私を本気で好きでは無い。それを認めたうえで聖夜を狙う、そういう事だな」
「いい加減にしてあげて、もう聖夜はもう自由にしてあげようよ」
「それじゃミルダはもう聖夜は良いの」
「ううっ…」
「なら頑張るべきね」
話しているうちにガイアへの想いが無くなっているのが何となく解かった。
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