ホラーな屋敷に閉じ込められたので古流武術で対抗する俺の末路

西基央

第1話 怪奇ホテルの血塗れウサギ

 古流武術と銘打ってますが、実際には気を操るオリジナル厨二武術によるホラー要素アリ異能バトルです。

 ご注意ください


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 都市伝説だ。

 A県N市の郊外には古びたレジャーホテル『バークレイ』がある。

 昭和のバブル期に建てられたはいいが、交通の便が悪く流行らなかった。

 その上、ホテルの経営者の娘が怪死を遂げ、それが噂になるとすっかり廃れてしまった。

 経緯が経緯だけに売却もできず、放置されて廃墟となった建物である。

そこに俺達が足を踏み入れたのは部活動の一環だった。


 流行ることなく捨て置かれた建物。

 そんな場所が脚光を浴びたのは、一つの噂のせいだ。

 なんでもこのレジャーホテルでは頻繁に怪奇現象が起こるらしく、幽霊を見たという話がSNS上で後を絶たない。

 俺達は、その幽霊を見るためにこの場所へ来た。


 俺が所属するのは映像研究部。

 うちの高校では映研はもともと自作映画の撮影を活動内容としていたが、近年の動画投稿サイトに影響を受けて、今では配信用動画の作成がメインの活動となっていた。

 今回このレジャーホテルに来たのも【噂の心霊ホテルに来たったw】という動画を撮るためである。


「わぁ、すっごい。雰囲気あるじゃん」

 

 映像研究部一年生、会田華夜(あいだ・かや)は薄暗いホテル内を見回してはしゃいでいる。

 派手で露出多めの服装を好むギャルっぽい女の子で、部ではいつも率先して動く反面、勢い任せで問題を起こすこともしばしば。


「か、華夜さん。あまり先に進み過ぎては、いけません……」

「咲子センパイ、ビビり過ぎー。別にこんなん大したことないって」

「で、ですが……」


 その後をついていく長い黒髪の少女は二年生で映研部の部長、久地咲子(くち・さきこ)という。

 清楚な雰囲気を持つ彼女は級友相手でも敬語で喋る。いいところのお嬢様だからしつけが厳しかったらしい。

 廃墟に連れてこられたものの彼女はホラー系が苦手でびくびくしながら周囲を警戒していた。


「咲子、なんなら俺が手を繋いでやってもいいぜ?」

「い、いえ、それは、その。大丈夫です」

「遠慮すんなよ。なにがあっても俺が守ってやるからさぁ」


 そんな久地部長にキメ顔をする文城貞夫(ふみぎ・さだお)、高校三年生だ。 

 文城先輩は最高学年だが特に役職を持たない。それどころか活動もまともにしていない。

 もともとは単なる幽霊部員だったのだが、久地先輩や華夜のように見目麗しい女の子たちが所属したことを知り、後から活動に参加してきたのだ。


「だいじょぶ、たっちゃん? こういうの苦手でしょ?」

 

 隣で俺の心配してくれるのは幼馴染の比良坂暦(ひらさか・こよみ)。

 小学校からずっと一緒。高校になった今では、セミロングの美少女かつ明るい性格でクラスの男子からの人気も高い。トップカーストにだってなれるだろうに、変わらず俺の傍に居てくれる。

 

「お、おう。大丈夫。大丈夫だから傍に居てくださいお願いします」

「ふふ、仕方ないなぁ。ほら、腕組んでぎゅーっ」

「うう……いつもなら照れるとこだけど、今はヨミの存在が凄く安心する……」

「もう、たっちゃんってば。もっと言ってもっと言って」


 そして俺、寺島辰巳。

 久地先輩と同じレベルでホラーが嫌いな高校一年生。

 映像研究部に入ったのも、単にヨミに誘われただけ。にもかかわらずこんな場所まで連れてこられて泣きそうになっておりまする。


 ぶっちゃけると俺と久地部長は最後の最後まで今回の企画に反対した。

 心霊スポットに遊び半分で入るなんてよろしくないと。

 ただ残る部員は大賛成。というのも、映研の動画配信はある程度の収益化に成功しており、今回の企画はイケると判断したのだ。その筆頭が文城先輩と会田であることは言うまでもない。

 そして多数決で負けた俺達反対派も従った。

 怖がりの久地部長は、納得いかない企画であっても部を取りまとめる立場である以上は、と参加を表明。ヒラ部員である俺も逆らえずに、という流れである。


「ごめんな、ヨミ」

「いっつも私を助けてくれるんだら、こういう時くらいはね。私達の仲良し度合いを見たら幽霊なんて寄ってこないって」


 ちなみに俺とヨミはこれくらいの接し方が普通。

 もともと一緒にお昼寝したりお風呂入ったりが普通だったので、距離感がバグっているのだ。

 恋愛感情は、どうなんだろう。俺はヨミが好きだし、向こうも間違いなく俺を好いてくれている。

 ただそれは友達恋人通り越して家族愛に近い感情になってしまっており、男女の嬉し恥ずかしはあんまりないのだ。


「へっ、情けねえなあ寺島。暦ちゃん、そんなヘタレ放っておいてこっち来いよ」

「いえいえ、たっちゃんのお世話は私の役目なので」

「大変だな。幼馴染とは言え、そんなのの面倒なんて。いいから来いって」

「ほんと、大丈夫なんで」


 ヨミは俺を腕ごと引っ張って、文城先輩から距離を空ける。

 あからさまに先輩は舌打ちした。このお人は、ぶっちゃけ映研の女子全員を狙っているんだろう。

 そのため俺を下げる発言はほとんど恒例となっていた。


「……私、あの先輩嫌い」


 ぶっすーとした顔でヨミがこぼす。

 まあ俺もいっつも悪く言われてるので正直嫌な気分だ。


「でもさぁ。寺島が情けないってのは事実じゃない?」

「なんだよ、会田」

「だって、こんなんでビビっちゃって頼りなさすぎ。比良坂もさぁ、もうちょっと男選んだ方がいいんじゃなーい?」


 馬鹿にしたように笑ってやがる。

 くっそビビってるのは事実だから反論しにくい。

 

「華夜ちゃん分かってるぅ。ほんと、俺だったら恥ずかしくて部活に来れねえわ。ホントなんで生きてんのオマエ?」

「あはは、センパイひどすぎー」

「まあ、なにかあっても俺が全員守ってやるけどよ。ああ、寺島ヘタレくん以外な?」


 会田は文城先輩と一緒になって俺を馬鹿にしている。

 さすがに反論しようとすると、それより早くヨミが前に出た。


「たっちゃんは情けなくなんてありません! 何も知らないあなた達が好き勝手言わないで!」


 ヨミが本気で怒っている。

 加えて、さっきまで怯えていた久地部長が静かに窘める。


「会田さん、文城先輩。そ、それ以上は止めてください。寺島君は普段から頑張ってくれていますし、ここに来るための機材の準備をやってくれたのも寺島君と河野君です。何もしていない人達に笑われるようなことはしていませんし、幽霊を怖がることは情けなくなんてありません。そ、そうです。むしろ暗闇に恐れを抱くのは実に自然なことです」


 若干自己弁護は入っているが、俺の作業を部長が認めてくれていることが嬉しい。

 けれど批判された二人は一応退いたがあからさまに不機嫌そうだった。


「ごめんなさい、寺島君」

「いえ、部長が謝ることでは! ……ところで、話に出ましたが、河野副部長たちいないですね?」

「ええ。先に来ていたはずなのですが」


 俺達映研部は総勢八名で、今いるメンバーは以下の通り。


 部長・久地咲子(清楚系・二年生)

 部員・文城貞夫(出会い系・三年生)

    会田華夜(ギャル風・一年生)

    比良坂暦(幼馴染・一年生)

    寺島辰巳(俺・一年生)


 で、先発隊として先に入ってる筈の副部長たちが。


副部長・河野春義(メガネ男子・二年生)

 部員・茂部米丸(もぶいよねまる・二年生男子)

    布津野良子(ふつのよいこ・一年生女子)


 となっている。

 副部長の河野先輩は映画監督志望で、活動にも積極的だ。

 動画配信がメインになった今でも腐らずしっかりと計画を立てて撮影を行う、一番映研らしい人だった。

 今日も先に現地に入って準備をすると言っていたのだが、屋敷の前にはいなかった。

 だからすでに中に入ったのかな? と皆でホテルに足を踏み入れたのだが、真っ暗だし埃っぽいし人の気配が感じられない。


「副部長たち、どこ行っちゃたんでしょうね?」


 ヨミも不思議そうにしている。

 ……その時、背後でぎぃっと音が鳴った。

 振り返ると同時に、開けっ放しにしておいたホテルの扉が勝手に閉まる。


「なっ、なんだ?!」

「ちょっと、驚かせないでよ」

 

 文城先輩たちも動揺しているようだ。

 扉まで戻り、再び開こうとする。


「開かない……? おい、どうなってんだよこれ?!」


 何度も何度も扉に力を加えるがピクリとも動かない。

 建物の内側だから鍵は外せるはず。それなのに、なにをしてもチビらが開くことはなかった。


「ま、マジ……閉じ込められたの?」


 ここにきて会田の声にも怯えが混じった。

 真っ暗なホテルの中。電気はつかず、灯りは俺達が用意した懐中電灯くらい。

 急に温度が下がったような気がした。


 ───オォォォォ…オオォォォォォ……


 さらには暗闇から唸り声のようなものが響いてくる。

 最初は、単なる心霊スポット動画を作るだけの予定だった。

 でもここに来て誰もが気付き始めていた。

 このホテルは、まともじゃない。本物の心霊スポットだと。


「ぶ、部長、どうすんの?」


 会田が指示を仰ぐも久地部長は小刻みに震えている。

 俺と同じホラーダメ系なので、もうこの時点でいっぱいいっぱいだ。


「あ、あの、わた、私」

「部長、とにかく河野副部長たちと合流しませんか。た、たぶんホテルの中にいるんだと思うんですけど」

「そ、うですね。独りでは、危ないもの」


 提案したのはヨミ。なんとか部長としての体裁を取り繕い、俺達は一先ず河野先輩を探すことにした。

 そんな感じでまとまるはずが、異を唱えたのはやはりというか文城先輩だった。


「おい、寺島! お前が一人で行ってこい!」

「は、はぁ?!」


 あんまりな指示に俺は思わず声を上げた。


「全員で行く意味ねえだろうが! お前が河野たちを連れて来いって言ってんだ! 俺らはここで待ってるからよ!」


 にたにたといやらしい表情を浮かべている。

 ああ、そうか。俺をパシリにして自分は美少女三人に囲まれてハーレム気取りってことかよ。

 ほんとクソだなこいつ。


「だ、だめです! こんなところで一人で動くなんて」

「でもよぉ、咲子。お前だって嫌だろ。こいつに任せときゃいいんだよ」

「う……た、確かに怖いですが。後輩に、任せきりにするのは部長ではありません! ひとりで行けというのなら、私が行きます」


 脚ががくがくなのにそんなことを言う。

 文城先輩は腹立つが、だからといって久地部長に無理をさせるのも嫌だな。


「わ、分かりました。俺が一人で行きます」

「へっ、最初っから従っときゃいいんだよヘタレ男は」


 鼻で哂う先輩を無視して俺は懐中電灯を手に一歩を踏み出す。

 いっしょになって腕を組んだままのヨミが付いてきた。


「お、おい暦ちゃん? 君は行かなくていいんだよ」

「いえいえ、私もたっちゃんと行きます。何かあった時二人いた方がいいと思いますし」


 にこーっと作り笑いを向けた後、すぐに俺に寄り添う。

 もう文城先輩の声は耳に入っていないようだ。


「……ヨミ? お前も、待ってていいんだぞ?」

「え? 普通に一緒に行くけど」

「いやでも、危ないし怖いだろ」

「そりゃそうだけどさ。よく考えてみて? この状況で文城先輩のいる場所に留まるのも危ないし怖くないかな?」


 ああ、女の子としては確かに怖いかも。

 

「寺島君、私も行きます」

「部長、ホラー苦手なんだし無理しないでも」

「それは君も同じではないですか。部員に嫌なことを押し付けて待っていようとは思いません」


 格好いいことを言ってるけど、ぷるぷるチワワみたいに震えていらっしゃる。

 俺も怖い。でもこんな部長を連れて行くわけにはいかないよなぁ。


「ヨミや部長の優しさ嬉しいです。でも、だからこそやっぱり俺一人で行きますよ」

「あのー、たっちゃん? だから私は、わりと自分の都合もあってついていきたいの。お願い、アレとおいてくとかやめておくんなまし」

「私も、絶対についていきます」


 結構切実にお願いされてしまった。

 久地部長の決意もくじけない。


「えー? じゃあアタシも付いていこっかなぁ」

「はぁ? んだよ、華夜ちゃんまで。あーあ! 寺島のせいで俺らまで行くことになったじゃねえか。責任とれよ」


 会田も付いていくことを表明すると、一人になった文城先輩もそれに倣う。

 結局俺達は五人全員で河野副部長を探しに行くこととなった。


「うぅ、やはり怖いです……」


 久地部長は怯えているが、他のメンバーも相当だ。

 未だに謎の唸り声は聞こえており、変なところで物音が鳴ったりもする。

 自然と口数は少なくなった。

 このホテルは四階建て+地下一階。地下にあるのはボイラーとかの設備関係で、宿泊スペースは二階から四階にある。

 一階ロビーに副部長の姿はなかった。二階も探したが見つからない。

 エレベーターは当然動かない。全員で階段から三階に上がると、空気の変化に思わずむせた。


「これ、なんだこの匂い」


 卵が腐ったような、金属が錆びたみたいな不快なにおいが充満している。

 みんなも顔を顰めているが、急に何かが壊れるような大きな音が鳴って、そちらに視線を向ける。

 これは足音……なにかを、引きずるような音?


「ね、ねえ。誰か近付いて来るけど、も、もしかしてコウノセンパーイ?」

「あ、あう、ああ」


 さんざん俺を馬鹿にしていた会田の声も恐怖に震えている。

 文城先輩に至っては言葉にすらなっていない。

 青ざめる久地部長とヨミを背に庇い、俺は軽く腰を落とした。


 足音は近付いてくる。

 暗闇に目が慣れたことで、しばらくすると“そいつ”の姿を視認で来た。


「ひぃっ?!」


 叫びは誰のものだったろう。

 現れたのは、当然ながら副部長ではない。


『アァ…ハァ……☆』


 吐息なのか唸り声なのか分からない、おぞましい音が耳に届く。


 血塗れの、ウサギのキグルミが。

 大きな鉈を振り上げていた


「い、いやああああああああ?!」


 久地先輩が悲鳴を上げる。

 あのキグルミが引きずっていたモノの正体は、人間の死体だ。

 全身を切り刻まれグチャグチャになった死体は、河野副部長だった。


「ひぃ、ななな、なんだよこいつはっ?!」


 腰を抜かしたのか、文城先輩が床にへたり込む。

 他の皆も死体の存在に気付いてしまった。恐怖に縛られて誰も動けないでいる。


『アアァ…ハァ……ハハァッ☆』


 けれどヤツは俺らを見つけてしまった。

 引きずっていた河野副部長の死体をこちらに投げつける。


「ひはっ、ひぅ、ひぃぃぃぃぃ?!」


 それはちょうど文城先輩の前に落ちた。

 その間に緩慢な動作でにじり寄るウサギのキグルミ。振り上げた鉈が狙っているのは。


「う、うそ。や、やめて、アタシ、やだ」


 逃げることもできずに立ち尽くす会田だった。


「あああ、たす、だれ、だれかたすけて、せ、センパイ……」

「う、うるせえ?! こっちくんなブス!」

「そ、そんな」 


 みんなを助けると言っていた文城先輩は、腰を抜かしたまま這いずるように逃げている。

 そして鉈が、会田の脳天に目掛けて振り下ろされ───



「や、やだぁああああああぁあっぁあ?!」



 ───振り下ろされるよりも早く俺は踏み込み、回し蹴りをウサギのキグルミにお見舞いした。


『ア、アァッ……?!』


 倒すには至らない。だが数歩下がらせることはできた。

 突然のことに会田は頭が追い付いていないようだった。 


「へ、て、寺島?」

「舌噛むなよ」

「てっ、うわあああ?! 抱えてジャンプ?!」


 キグルミが怯んでいるうちに会田を抱え後方に跳ぶ。

 彼女を助けた後、すぐさま俺は距離を詰める。

 大きく踏み込み、勢いを殺さないまま掌底。止まらない。さらに可変、肘打ちへとつなげる。

 ウサギのキグルミは体勢を崩している。その隙を狙い、腹に唐竹蹴りを決めてやった。


『アウゥッ……☆』


 血塗れのキグルミが踏ん張り切れずバランスを崩す。

 この状況を理解できずに、部員たちはぽかんとしていた。


「怖い怖い怖い……でも、キグルミなら、カラダがあるなら殴れる。叩き潰せば、怖くない!」


 俺は無理矢理自分を奮い立たせ、血塗れのキグルミにそう宣言した。





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 廃深をプレイしました。

 面白くて怖いけど、キャラが皆可愛すぎて「くそう、ここに史上最強の弟子がいればあんなクソキグルミを孤塁抜きしてくれるのに……」と思ってしまいました

 その結果です。

 私は奈々ちゃんが好きです。

 

 




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