8 ハヤトの声

 それからすぐだ。あかひかりつつまれたくうかんにシグマがどうしていたのは。


「どこだよ、ここ……? みんなは……オロチは? え……う、かんでる!?」

 あかひかりくうかんのなかでシグマはたしかにくうちゅうかびあがっていた。


「なにこれ!?」

 すうメートルさきに、ローザもいた。おなじくくうちゅうかびあがっている。


 ――シグマとは、はじめましてかな。こうしてうのは。


 とつぜん、そんなこえがきこえてきたかとおもうと、シグマとローザとのあいだのくうかんたかあかおとこがあらわれた。

 なぞおとこからだぜんたいがうっすらはんとうめいだ。そして、かおがすこしローザにている。


「おにいちゃん!」

 やっぱり! あかおとこはローザのあにハヤトだった。

 でも……とシグマはくびをかしげた。

「ローザのにいちゃんは、もうんでるんだろ? とっくのむかしに」


 ――そうだよ。五〇〇ごひゃくねんまえのオロチとのたたかいで、ぼくはんだ。はね、マルスによってつくられた〝ひとしきがただようかい〟なんだ。


ひとしきが……ただようかい?」

 ハヤトがったことをくりかえしながら、シグマはまたくびをかしげた。


 ――そう。マルスはひとはんのうする。ときにはそれが、ひところおそろしいへいにもなる。だけどほんとうは、こうやってひとひとこころこころかたうためのものだったのかもしれない。ぼくのざんりゅうねんは、シグマのこころこえはんのうしたんだ。


「ざんりゅう……しねん?」

 そんなこと、はじめてきいた。「おれのこころこえに……はんのう?」


 ――みんなをなせたくない、とけつしたシグマのつよこころこえ五〇〇ごひゃくねんまえせんとうでぼくがんだとき、ぼくのつるぎのマルスに、ぼくのしきいち――ざんりゅうねん宿やどったんだ。


 ハヤトはそこまでうと、いてこえせないでいるローザにかおけた。


 ――ローザにはちゃんとおわかれもいたかった。


「おわかれなんていやだよ! またこうして……えたのに」


 ――んだものきているものからはなれなくちゃ。とうさんとかあさんがんでから、ぼくがローザのおやわりだった。なのに、なにもしてやれなかった。


かたないよ。せんそうだったもの」


 ――だとしても、ずっとあやまりたかったんだ。ローザをひとりにして、ごめんね。


あやまひつようなんて……」

 ローザはこらえきれずにくうちゅうかんだままくずれてしまった。


 ――シグマ・ノルニル。


 ハヤトはローザにかなしそうにわらいかけてから、シグマにきなおった。


 ――ぼくのつるぎを、きみにたくす! だから、マルスへいオロチをたおしてくれ!


「そりゃ……おれだってそうしたいけどさ、あのヘビはつよすぎるんだ」


 ――そんなよわ、きみらしくないな。つるぎのソーサリー・ストーンをつうじてシグマのことをすこしかんさつさせてもらった。シグマがあれだけのダメージをけていながら、それでもなおちあがれたのは、マルスがきみのこころつよさにはんのうしてちからしたからさ。


 ああ……そういうことだったのか。

 シグマはがいとすんなりなっとくできた。

 なにかとくべつちからはたらいたからこそ、あのこうげきのあとでもちあがれたのだろう。


 ――そのマルスのちからを、もっときだすんだ。そのための、おしえてあげるから。


「とっておき……?」

 なんだ、それ? とシグマがうよりもはやく、ハヤトはローザにからだけなおしていた。


 ――ローザとは、もうこれで……ほんとうに……おわかれだね。


いや! いやだ、そんなの!」


 ――つるぎ宿やどったぼくのしきはまもなくえてなくなる。ローザにはらいがあるんだ。かならずオロチをたおせるよ。だからどうか……しあわせにな。


「おにいちゃん!」


 ――シグマは、ローザの〝ほう〟をたね? ほう使つかうためのじゅもんを。こえによるパスワードを。それとおなじだ。ぼくのつるぎにものためのパスワードがある。


「やだ! おにいちゃん、かないで!」


 ――その、パスワードは――

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