第六話 作業厨、外道な冒険者殺しを地獄に落とす
その後も順調に進み続け、16階層に入った。
出てくる魔物は、レベル50後半からレベル70前半と、前と比べると少しずつだが強くなっている。
ただ意外だったのは、このダンジョンの脇道で時たま見かける宝箱から手に入れた戦利品が回復薬系ぐらいしかないことだ。魔道具やスキル結晶が手に入るって聞いてきたんだから、そろそろ出て来てくれてもいいだろう。
そんなことを思っていると、ダークにため息をつかれた。
『そんなのそうホイホイ作れてなるものか。それらはコストが半端ないぞ。まだ、レベル700の魔物を生み出す方が現実的じゃ。ものにもよるが、お主が喰い付くようなものが出てくるのはダンジョンマスターに近い最下層じゃな。800階層くらいまで行けば、確実に出るじゃろう』
『マジかよ。結構深いな』
今なら、昔よりももっと早く攻略できるだろうが、それでも100年程はかかりそうだ。
ダンジョンの構造を探知して把握し、転移で最下層へ行くという方法……はキツイな。構造探知系は、他の階層へ伸ばそうとすると、壁に当たったような感じになって、それをすり抜けようとするとかなり時間がかかる。
それをやるくらいだったら、普通に攻略してしまった方が速いと言う訳だ。
『まあ、そこそこの魔道具や普通のスキル結晶程度じゃったら、それこそ50階層の階層ボスを倒せば手に入りそうじゃの』
『なるほど。だからニナはそこを目指そうとしているのか』
ニナが50階層をこの攻略の目的地としたことには、そういった背景があったのだろう。
そんな事を思いながら16階層を順調に進んでいると、前方に人の気配を感じた。
いや、人とは時々会う。だが、今まで出会ってきた人とはどこか違うようだ。
「ん……ん? あれは……?」
右前方に人影が見えて来た。だが、普通に攻略している感じではない。
その場で座り込み、背中を壁に付けている。そして、どこか辛そうな表情をしている。
「ニナ。あれって……」
「ん~偶にいるのよね。ダンジョンを舐めて深くまで入り、怪我して身動きが取れなくなる人。あの男もその類いかしら?」
ニナはどこかワザとらしくそう言う。
「あ~そういうね」
自分なら出来ると、根拠のない自信でダンジョンに入った人の末路があれか。
人は愚かなものです。特にお前。と言う言葉が唐突に頭をよぎる。
とまあ、そんな冗談はさておき。
「で、どうする? 助けるの? それとも周りにいる奴らに説明を求める?」
傍から見れば、何言ってんだと思われるような俺の言葉。
だが、ニナには分かったようで、ニナは軽く息をつく。
「やっぱり気づいてたのね。あの人の近くにある脇道に潜む人影に」
「まあ、当然だ。気配は隠しているようだが、結構拙い」
ニナの言葉に、俺は当然と頷く。
そう。実は前方で助けを求めてそうな人――の、周辺にある脇道に、申し訳程度に隠されている人の気配が7つもある。
もうこれは……うん。あれしかないよな。
「冒険者殺し、だろ?」
「それで間違いないわ。1人が囮になって誘い出し、油断したところを叩く。結構有名な手口よ」
人の親切心を利用した殺害方法か。
何と言うか、不快だ。
「よし。親切な冒険者をよそって近づき、襲ってきたところを返り討ちにするとしよう。ニナは、そこで気配隠蔽を使って待っててくれ」
俺の命を狙おうとするものにかける慈悲はない。敵は殺すだけだ。
「分かったわ。ただ……気を付けてね」
俺の実力を信頼してくれるニナは、心配はしつつも、俺が1人で行くことを許してくれた。
「ああ。余裕はあっても油断はしない」
ニナの言葉に頷くと、念のための護衛としてシュガーとソルトをその場に残すと、走り出す。
まるで、前方にいる男を心配して、駆け寄る親切な人のように――
「大丈夫ですかー!」
俺は敵意がないことを示すかのように声を上げる。
すると、その男はよろよろと力なく、壁に手をつきながらゆっくりと立ち上がった。
「あ、ああ。さっき腹を殴打されてな。肋骨が折れてるかもしれねぇ……ごほっ」
男は息を荒くさせながらそう言う。だが、その男からは殺気が漏れ出ていた。
もう、確定だな。
そう思いながらも、俺は演技を続ける。
「ただ、残念ですね。僕もここにくるまでに回復薬を全て使ってしまいまして……」
そう言って、俺は暗に自身の実力が高くないことを示す。ただでさえ、分からない人には強くないと思われる俺がそんなことを言えば、こいつは行動を起こすことだろう。
「そうか……はっ!」
男はいきなり腰のベルトにかけていた短剣を抜くと、俺の胸めがけて斬りかかる。
「うおっと」
俺はあえて驚いたかのような素振りを見せながら、ギリギリで後ろに跳んで、回避する。
そして、それと同時に近くにあった脇道から、一斉に人が出て来て、俺を囲んだ。
あの男を含めると、計8人。ちゃんと全員出て来てくれたようだ。
「はっ 運がいいな。今の一撃を回避するとは」
俺を見下し、吐き捨てるように1人がそう言う。
「ああ。誰も来ないうちに脇道に追いこんでいたぶってやろうぜ」
「ああ、いいね」
ああ。どうやらこいつらはただ殺して装備品を奪うだけでなく、人をいたぶり、嗜虐心も同時に満たしているのか。
ますます救えないな。
生きるため、仕方なく殺しをしているような、善人の心が残っている人ではない。
善人の心が理解できない、壊れた奴らだ。
ここまで壊れたとなると、育った環境はかなり過酷というのが相場で決まっているが……まあ、俺には関係ないな。
「まあ、俺を狙ったのが運の尽きだな」
そうぼそりと呟くと、奴らの囲いを掻い潜って、奴らがさっきまで潜んでいた脇道へと入る。
そして一言。
「殺せるものなら殺してみろ」
そう言って、俺はくいくいと指を動かす。
「な……く、ふざけんなあああ!」
格下だと思っている相手から煽られたのが気に入らないのか、奴らは一斉に武器を構え、襲い掛かってくる。俺が包囲から抜け出した動きなど、初めからなかったことにしているようだ。
「さてと、やるか。錬成!」
俺は後ろへ跳びずさると、奴らが全員脇道へ入ったタイミングを狙って、あらかじめ仕掛けていた錬成の魔法陣を時間差発動させて脇道の入り口を完全に塞ぐ。
「な、何だ!?」
道が塞がれたことには流石に驚いたのが、全員立ち止まり、驚愕の表情で出来上がった壁を見つめる。
「お前らをここへ呼んだ理由は1つ。ニナにこれからやることを見せたくなかったんだ」
驚愕するこいつらを無視して、俺は話を進める。
「じゃ、やるか。はっ!」
そして、即座に8人の両足を切断する。
「な………な、があああああ!!!」
奴らは何が起きたのか一瞬分からず、呆然としていたが、直ぐに今の状態を把握すると、下半身を支配する激痛から、声を上げる。
「
そして、奴らの傷口に
「……さて、やはり無理だったな。お前らでは俺を殺せない」
俺は冷たい視線でこいつらを射抜く。
やれやれ。こいつらの記憶は見ない方が良かったな。大した情報は無く、ただより一層不快になっただけだった。
「な……た、頼む! 殺さないでくれ!」
「人殺しをしたら、国の犬どもに捕まるぞ!」
状況を把握し、冷静になって来たのか、こいつらは途端に命乞いを始める。
まあ、分かりきってたことだ。
「俺は拷問は好きではない。殺すと決めた相手は直ぐに殺す。だが、例外も偶にはいるんよだな。お前らは、ゆっくりと苦しみながら、魔物に喰われるといい。
そう言って、俺は
あの森は、最深部では強い魔物が出る。だが、浅い部分ではゴブリン、オークなどの弱い魔物しか出ない。そして奴らなら、両足がなくともそいつらが相手ならある程度は持ちこたえるだろう。
だが、少しずつ劣勢になり、傷つき、やがて――
「まあ、後は興味ない」
そう言って、俺はこの場に残された奴らの足を焼却処理すると、塞いだ入り口を開いた。
すると、そこにはシュガーとソルトを胸に抱くニナの姿があった。
「ふぅ……ニナか。終わったぞ」
「そう。無事でよかったわ」
ニナは俺の無事を見て、安心したように息を吐く。
そして、ダンジョンの探索を再開した。
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