第五話 作業厨、王城侵入を企む
魔物の死体処理を終えた俺たちは冒険者ギルドに戻った。
ソルトはついさっき、リックのところから戻ってきた。ソルトから話を聞くに、リックはちょっと無茶をしていたみたいだ。そのせいでそこそこの怪我を負い、今は治療待ちしているところらしい。
現場の回復術師で治せる程度の怪我で良かった。まあ、それ以上の怪我を負いそうになったらソルトが介入してただろうけど。
ニナはというと、魔法を使いすぎて疲弊しただけで、傷は一切ついていない。
うん。良かった。
すると、冒険者ギルドの奥からシンが出てきた。
シンはパンパンと手を叩いてみんなの声を静めると、口を開く。
「みんなの活躍で、黒い魔物を殲滅することが出来た。ありがとう。此度の報酬金はいつものように受付で受け取ってくれ。ああ、特に活躍した数人には追加の報酬金もあるよ。もちろん、隠れてな~んにもしてなかった人には報酬金はないからね」
シンがそう言った瞬間、明らかに動揺した人が何人かいた。
ああ、お前らサボってたんだな。まあ、自業自得だ。同情の余地はない。
俺は……まあ、Aランク冒険者に相応しい活躍はしたから大丈夫だと思う。
すると、いきなりニナに声をかけられた。
「レイン。急いでもっと前に行くわよ。もたもたしてたら、その分受付に人が並んじゃう!」
「そうじゃん。急がねぇと」
ここにいる人たちは、この後直ぐに報酬金を受け取るために受付に並ぶ。もしここで出遅れてしまったら、平気で30分以上待つかもしれない。それは流石に怠い。
そう思った俺はニナと共に少し前に出る。
「よし。それじゃ、ここで僕の話は終わりにしよう。最後にもう一度言おう。ありがとう」
シンがそう言って去った直後、周りも一斉に動き出した。
「ニナ! こっちだ!」
俺は人の波でニナと離れてしまわないように、ニナの右手を掴み、歩く。
そして、何とか列の前の方に並ぶことが出来た。ここなら、数分待つだけで済むだろう。
ほっと安堵の息をつくと、俺はニナの方を向いた。
あ、まだ手を繋いだままだったな。
そのことに気付き、俺は手を離す。
「おっと。ごめん。握りっぱなしだったな」
すると、一瞬ニナが何かを失ったような顔になる。そして、口を開いた。
「……むぅ。何でそうなるの」
ニナは頬を膨らませると、そう言った。
いや、むぅって……ニナそんな声出せたのかよ。
何か子供みたいで可愛いな。
そんなことを思っていると、俺たちの番になった。
「……あ、うん。さっきの緊急依頼の報酬金を貰いに来たわ」
ニナは少しまごついてからそう言うと、冒険者カードを受付の女性に渡した。俺も、
「はい。ニナさんがAランク、レインさんもAランク……はい。確認出来ました。それでは、報酬金、小金貨2枚をお渡しします」
受付の女性は何かの書類を確認すると、冒険者カードを返すとともに俺とニナにそれぞれ小金貨2枚を渡した。
周りを見て知ったことなのだが、この緊急依頼の報酬金は冒険者ランクに応じて変わるようだ。俺とニナはAランク冒険者なので、報酬金も他の人と比べると高めだ。
「ありがとう」
俺は礼を言い、冒険者カードと小金貨2枚を受け取ると、
追加の報酬金はなかったみたいだけど……まあ、そう簡単にくれるわけもないか。
そう思いながら俺は受付から離れた。
「それで、今日はもう休むか?」
教はダンジョンへ行く予定だったが、今から行くのはニナのことを考えると止めた方が良さそうだ。
そう思った俺はニナにそう問いかける。
「そうね。全力で戦った後にダンジョンに行くのは勘弁ね。だから、今日は家で休むわ」
「そうした方がいい。ああ、でも俺はちょっと王城の書庫に行ってくるつもりだ。だあら、シュガーとソルトのことは任せた」
そう言うと、ニナは花が咲き誇ったかのような笑みを浮かべた。
「うん。そのことなら私に任せて!」
ニナは自信満々にそう言った。流石はシュガーとソルトのファンだ。面構えが違う。
「じゃ、シュガー、ソルト・ニナと一緒にいてくれ」
「はーい!」
「分かりました。マスター」
シュガーとソルトが元気よく頷くと、ニナの胸に跳び込んだ。
「ふふっ……可愛い」
ニナは2匹を優しく抱きしめると、笑みを浮かべた。なんだか幸せそうだ。
「それじゃ、行ってくるよ。夕食までには帰ってくる」
俺はそう言うと、冒険者ギルドの外に出た。そして、王城に向かって歩き出した。
「国王が何者かに襲われて死ぬっていうのは簡単に内乱、戦争に発展するからな。取りあえず、何が起きたのか詳しく調べないと」
知らないうちにここで内乱や戦争が起きるのは面倒なことこの上ない。俺がいる場所で争いとか、邪魔もいいところだ。
だからこそ、今すぐ全貌を把握し、今後どう動くのかを決めなくてはならない。
「ん~……でもこんな時に王城に人を入れてくれるかな?」
折角登城許可証をもっているのだから、どうせなら堂々と正面から入りたい。
だけど、こんな時にすんなりと通してくれる可能性は低い。
だったら……
「王城の忍び込んで、情報収集。うん。何かいいな」
思わず厨二心がくすぐられてしまう。
バレたら極刑確定演出がくるけどね。
「まあ、万が一バレても記憶を消せばいいだけだしね」
俺はニヤリと笑うと、気配隠蔽を使った。更に、今着ている外套に認識阻害を付与する。
これで、絶対に見つからない。
「行くか」
大きな陰謀の匂いを感じながら、俺は歩き出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これで此度の国王暗殺事件の首謀者は捕縛出来たな」
王城の地下で、ゼロスは満足気にそう言った。
ゼロスの前には重犯罪者を入れる独房がいくつかあり、そこにトールとエルメスが入れられている。
2人は手足に頑丈な枷がつけられており、そこから動くことは出来ない。
「ゼロス! こんなことをしても、直ぐに嘘は暴かれるぞ!」
「エルメス様のおっしゃる通り。卑劣な方法で手に入れた王位など、直ぐに消える。それは、歴史が証明している!」
2人は怒りをあらわにしながらそう叫ぶ。
ゼロスはそんな2人を見て、薄ら笑いを浮かべると、口を開いた。
「あ~あ。まだこんな虚言を吐いてる。罪人の言葉を真に受ける王がいると思うか? なあ、白騎士よ」
「「いえ、おりません」」
すると、ゼロスの傍に控えている2人の騎士が頷いた。
「くっ……白騎士! 常に父上の護衛をしていたそなたらなら分かるだろ! 私と父上の中は良好だっただろう? それに、いずれ王位を継ぐことが確定している私が今、王位を簒奪するために父上を殺すだなんて、どう考えても不自然だろ!」
エルメスは2人の白騎士に向かって声を上げる。
だが、2人から返ってきた言葉はエルメスの求める言葉ではなかった。
「エルメス様の言葉は全て聞き入れません。全て虚言です」
「エルメス様が前国王陛下を殺した。許さない」
2人はどこか不自然な言葉でそう言った。
それにより、エルメスとトールは察する。
「まさかお前、白騎士に洗脳スキルを使ったのか!」
「何ということを……いえ、ただどうやって? 彼らほどの実力者を洗脳スキルでどうにか出来るはずがありませんし、例え出来たとしても、ここまで効果の強いものにはならないはず……」
すると、ゼロスはこの状況が面白いのか、笑い声を上げた。
「あははははっ 宰相あろう者がそんなことも分からないか。まあ、少しだけ教えてやるか。俺は、この2人が父上の亡骸を見て、絶望している時に、暗殺者の背後にいる人物がお前たちだってことを、用意した証拠と共に洗脳を使って教えたんだよ。あとは……分かるだろ?」
白騎士ほどの実力者でも、そんなことをされたらかなわない。2人は精神強化スキルを持っていないのだから猶更だ。
2人は悔しそうな顔をすると、もっと前にゼロスの計画に気付いていればと後悔した。
「ああ、他の兄弟姉妹には手を出さないから安心しろ。流石にこれ以上家族が減ったら、国民から変な疑いをかけられる可能性があるからな」
ゼロスはそう言うと、笑いながら、白騎士と共に去って行った。
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