第二十二話 作業厨、王城に着く
「変な貴族に絡まれんように気をつけろよ~!」
「ええ。分かってるわ」
「ああ。気を付ける~!」
朝食を食べ、身支度を終えた俺とニナはリックに見送られながら家を出た。
シュガーとソルトは、昨日と同じように好きに遊ばせることにした。シュガーとソルトを名も顔も知らない誰かに預けるなんて嫌だからな。
「あ、先にレインに言っておくわ。今日の謁見が終わった後なんだけど、多分多くの貴族から仕官の誘いが来ると思うわ。特にレインは私よりも大きな功績を立てたから猶更ね。だから、仕官の誘いがしつこいからといって、脅迫しに行っちゃだめよ」
「……俺、そんなに短気じゃないぞ」
確かに仕官の誘いが沢山くれば、鬱陶しいとは思う。だけど、俺の意思を尊重して、断ったら手を引いてくれるのなら別に何人来ようが問題はない。まあ、強引な奴だったり、断っても断っても来る奴だったら流石に対処に動くけど。
……何かやけにニナの視線が疑り深い。
「ウェルドの領主。税収を半分にしたり、孤児院に寄付金を送ったり、スラムで炊き出しをしてるらしいけど? レインとお話をした後に。ああいう類いの貴族って、例え脅迫されたとしても改心しないのにね」
ニナは”お話”のところを強調するように言った。
うわ~貴族への対処に関する俺の信頼ねぇ~な~。
もう信頼ゼロだよこれ。いや、マイナスもあるな。
「いや、もう一度言うが、脅迫
とにかく、俺は誰かに仕えるようなことはしたくないんだ。
世界中を自由に冒険したいと思う俺にとって、それは枷でしかないからな。
「言い方的に脅迫とかは本当にしてないっぽいね。ん~じゃあ何で急に変わったのかしら?」
ニナは首を傾げ、不思議そうに言う。
「まあ、ちゃんとどう対処するのかを決めているのならいいと思うわ。ま、なるべく穏便にね」
「……善処するよ」
ニナの言葉に、俺は視線を少し横に向けると、そう言った。
暫く歩き、冒険者ギルドに到着した俺達は中に入ると、真っ先に時計を見る。
今の時刻は……7時50分。まだまだ時間があるな。
「早く行きすぎてもあれだから、そこそこ待つ必要があるわね。食事はさっきとったし、お酒は流石に謁見前に飲むわけにはいかないし……うん。暇ね」
いや、開き直って暇と言われても……
まあ、実際この時間で何かやるかと言われても、ただ待つことぐらいだと思う。
下手なことをして、遅れる訳にはいかないしね。
「……あ、そうだ。訓練場で魔法を使って時間を潰せばいいや」
そういやここには無償で使わせてくれる訓練場というのがあったな。
メグジスで、テンプレ冒険者と遊ぶために使ったのはよーく覚えている。
「あ、それ良いわね。たまには初心に帰ってみよっと」
ニナも俺の意見に乗っかり、俺達は訓練場へと向かった。
訓練場では、新人冒険者らしき人達が戦うすべを学んでいた。魔法を撃ったり、剣を振ったりと様々だ。
俺達はそんな彼らの邪魔にならないよう、訓練場の隅で魔法を使うことにした。
「初心に戻ってみるか。
周りを見て、ふとずっと昔に使っていた
左手に展開された魔法陣から放たれた
「私が使う
そう言って、ニナは
う~む……言っちゃ悪いが、初心者にありがちな無駄のオンパレードってとこだな。
あの無駄をなくすだけで、同じ魔力量でも威力を結構上げることが出来るぞ。ついでに、魔法陣の展開速度も速くなる。
まあ、そんな辛辣な言葉をニナにかける勇気は俺にはないんだけどね。
他の人には多分言えるんだけどなぁ……
「……ちょっと無駄があるね。直す手段は色々あるけど、一番効果的なのは少ない魔力量で魔法を使うことだ。ニナの場合は、今の半分まで魔力を減らしてみるといい」
助言しない訳にもいかず、俺はオブラートに言葉を包んでニナに助言をする。
「え? それだと発動出来ないと思うんだけど……」
ニナは戸惑いの声を上げた。まあ、その気持ちは分からなくもない。
「ああ。今のままなら発動出来ない。ただ、それを続けていくと徐々にコツを掴んでいき、50年もすればさっきニナが放ったやつと同じ威力になると思うぞ」
「……ま、まあ。その頃には出来るってことなのね」
ニナは頬を引きつらせながらそう言う。
「あ、ああ。ガチガチにやらなくても、それくらいで出来るぞ」
ニナの表情に戸惑いつつも、俺はそう返した。
その後も魔法を使い、気が付けば出発予定時刻の8時30分になっていた。
俺達は冒険者ギルドを出ると、王城へと向かって歩き出した。
「あ~王城でけぇ~」
歩くにつれて段々と王城が大きく見えるようになっていき、今ではもう見上げても王城の全貌が見えない。
「王城は国の象徴のようなものだからね。他国よりも大きいものを!って感じで昔の人が頑張って創ったのよ」
ニナも王城を見上げながらそう言う。
「なるほどね~」
そんなところでも国の格とかが問われるのか。
国ってめんどくさいね~。隙あらば相手にマウントを取る。
自由に好き勝手生きる俺にはよく分からないよ。
そんなことを思いながら歩き、遂に大きな城門の前まで来た。そこには多くの騎士がおり、城門の出入りを監視していた。
「レイン。招待状を出して、そこの貴族に渡すわよ」
「ああ、分かった」
ニナにそう言われた俺は
ふと前を見ると、騎士の1人がこっちに向かって来ていた。
「どのようなご用件で王城に参られたのでしょうか?」
男性騎士は丁寧な物腰でそう言った。
「国王陛下からの招待で参りました。Aランク冒険者のニナとレインです」
ニナはキリッと真面目な顔でそう言うと、招待状を男性騎士に渡した。俺も、ニナに続けて招待状を手渡す。
「……本日謁見予定のレイン殿とニナ殿ですね。では、私の後について来てください」
男性騎士は少し目を見開いてからそう言うと、招待状を俺達に返した。そして、ついてくるよう促す。
「行きましょう」
「だな」
やや緊張気味にニナの言葉に頷くと、男性騎士の後に続いて歩き出した。
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