第十三話 作業厨、ドルトン工房へ行く

「は~あ。とんでもねぇことになったなぁ……」


 本部長室を出た俺は、重い足取りで歩きながらそう言うと、深くため息をついた。


「仕方ないわよ。まあ、国王も私たちにとって不都合になることは出来ないわよ。まあ、私達を利用しようと考える可能性はあるかもね」


「勘弁してほしいよ。少なくとも、俺のやりたいことの邪魔はしてほしくないな」


 俺の邪魔をしないのなら、俺をどう扱おうが気にしない。王侯貴族の思惑を一々考えていたらキリがないからな。

 むしろ、大金をくれるんだったら大抵の依頼は受けるつもりだ。金はいくらあっても困らないからな。ただ、あくまでも依頼なので、「俺に仕えろ!」の類いの手紙が来たら、即座に燃やして、お断りの手紙を送るつもりだ。他にも、厄介ごとに首を突っ込む羽目になりそうな依頼もお断りだ。

 そして、もし俺の邪魔をしてくるような奴がいたら、王族だろうが貴族だろうがウェルドの領主みたいになる……かもしれないな。まあ、あれは最終手段だから、余程腐った奴でない限りやらんけど。


「まあ、何かあったら本部長を頼りましょ。冒険者ギルドは国から独立している組織だから、国も安易には手を出せないのよ」


 お、それは良いことを聞いた。そうなると、より一層シンの言葉はありがたいな。こっちに大義名分があれば、守らざるを得ない訳なんだし。

 力で捻り潰せることならまだしも、策略をフルで使われたらキツいし、鬱陶しいことこの上ないからな。


「で、日付は……明後日か」


 封筒の中から手紙を取り出した俺は文をさっと読むと、そう呟いた。


「そうなのよね~。予定では今日からダンジョンに行くことにしてたんだけど、転移系の罠にかかって、変な場所に送られて、帰るのが遅れるなんてことになったらヤバいから、それは後回しにしましょ」


「だよな~」


 スキル結晶が宝箱から出てくる王都のダンジョンは直ぐにでも行ってみたいって思ってたんだよな。俺は転移出来るから、ニナに内緒でこっそり行く……というのも考えたが、多分俺だけが行ったら時間を忘れて攻略に没頭してしまう気がする。

 ニナに長距離の転移が出来ることを言って、一緒に行こうにも、ニナにそのことを言った瞬間に、以前聖域結界サンクチュアリフィールドを使った時のように詰問される気がする。流石にあれはもうごめんだ。

 そこら辺の秘密は、言わなくてはならない時が来るまでは言うつもりはないのだ。


(まあ、謁見が終わってからでいいな。謁見という名の地獄を耐え抜いたら、報酬が美味しいダンジョンに行けるんだ!)


 話を聞く限り、王都のダンジョンはディーノス大森林にあったダンジョンと比べると、出てくる魔物は弱いが、その分罠が多いらしい。また、宝箱から出てくる物も異なり、ディーノス大森林のダンジョンでは良質な武器防具が出てきたが、王都のダンジョンではスキル結晶や念話石といった魔道具が多く出てくるそうだ。その中には死後数分以内の人を1度だけ蘇生出来る魔道具もあると言うのだから驚きだ。


「じゃあ、ドルトン工房って所に行かないか? 依頼したいことがあるし」


 ドルトン工房と言うのは、ムスタン王国最高の鍛冶師であるドルトンが経営している工房のことだ。そして、そこにいるドルトンに依頼をするには、推薦コインというものを持っていないといけないのだが、俺達は前にメグジス防衛戦の報酬としてディンリードから貰っている為、依頼をすることが出来るのだ。


「そうね。私もそろそろ短剣を変えたいと思っていたからね」


 ニナはチラリと腰につけていた2本の短剣を見せると、そう言った。

 ニナは魔法師だが、だからと言って接近戦が出来ない訳ではない。と言うか、並の短剣使いよりも技量は上らしい。ニナは長らくソロで活動していた為、魔法が効きにくい相手やと戦う時や、魔力切れになった時に接近戦が出来ないと終わりなのだろう。


「じゃ、早速行くか。ドルトン工房に」


「そうね。行きましょ」


 俺達は頷きあうと、冒険者ギルドの外に出た。その後、俺はニナの案内で、ドルトン工房へと向かった。

 30分程歩いた所で、ニナは足を止めた。


「ここよ。ここがドルトン工房よ」


 そう言ってニナが指を指す場所にあったのは、石レンガ造りの地味な建物だった。出入り口のドアの上には”ドルトン工房 工房長所在”と書かれた看板が取り付けられている。そして、ドアの両側には護衛らしきドワーフの男性が2人いた。がっしりとしていて、見た目は結構強そうに見える。


「じゃ、行ってみるか」


「そうね」


 俺達は頷きあうと、2人のドワーフの男性に近づいた。


「む? 何用だ。ここは工房長所在の工房だ。推薦コインがないと入れない。工房長の弟子がいる工房はここの裏だぞ」


 男性は俺達を見ると、そう言った。対応の慣れを見るに、どうやら知らずにここへ来る人は多そうだ。


「ああ。分かってる。これが推薦コインだ」


 俺は無限収納インベントリから推薦コインを取り出すと、その男性に見せた。ニナも、ポーチから推薦コインを取り出すと、同じく男性に見せた。


「ふむ……本物のようだな。すまない。入っていいぞ」


 男性は俺達が持つ推薦コインを見て目を見開くと、そう言った。


「分かった。じゃ、入るか」


 俺は推薦コインを無限収納インベントリにしまうと、ドアを開けて、中に入った。

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