第98話 ハツキ全力疾走
「扉の修繕費の代わりに頑張らなくちゃ」
私は扉代のために、モォーモォー山から王都に迫り来る魔獣の事を考えるのに必死であった。お城を出ると王都と外を遮断するように大きく立てられている壁を飛び越えてモォーモォー山に向かった。
「ハツキお姉ちゃん!そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「えっ!プリンツちゃんどういうことなの?」
「モォーモォー山にいる魔獣のほとんどは退治されたか、動けなくなるほどダメージを負っているはずだよ」
「え!そうなの?もしかして、プリンツちゃんが退治してくれたのかしら」
「違うよ!ハツキお姉ちゃんが退治したのだよ」
「そんなことしたかしら?」
「ハツキお姉ちゃんにとっては、モォーモォー山の魔獣なんて、弱すぎて記憶に残らないくらい余裕だって事なんだね」
プリンツはまたしても勘違いをした。
「何を言っているのプリンツちゃん。私はモォーモォー山では楽しいこと(山彦と乳搾り体験)しかしてないわよ」
「ハツキお姉ちゃんにとって魔獣との戦いとは、楽しみにながらする余興みたいって言いたいんだね」
「何を言ってるのかしらプリンツちゃん。それよりも、扉を壊した修繕費のためにモォーモォー山に行くわよ!」
「扉の修繕費のために魔石と素材を拾いに行くんだね。ハツキお姉ちゃんは、魔石も素材も放置するから勿体ないと思っていたんだよ」
私とプリンツは少し話が噛み合っていないが、モォーモォー山に全力で向かうのであった。
「あれ?魔獣ちゃんがいないわよ」
私の姿を見て僅かに生存していた魔獣達は逃げ出したのである。
「どこに魔獣ちゃんがいるのよ!」
「ハツキお姉ちゃん、ホワイトスネークキングの魔石ならここにあるよ。あっちにはビックタイガーライオンの魔石が落ちてるよ」
「は!もしかして・・・本当に『黒天使』さんが存在するのでは?そして、『黒天使』さんが魔獣を倒してくれたのかしら」
私はブランシュが創作した『黒天使』が本当に居るのではないかと思ったのである。
「そうだね。『黒天使』が倒したのだと思うよ」
プリンツは、『黒天使』=私だと知っているので、私が演技をしていると思って話を合わせることにした。
「『黒天使』さんありがとう。あなたのおかげで王都は救われたわ」
私は真剣に『黒天使』にお礼を言ったが、プリンツは遠い目で私を見ていた。
「このことをすぐにブランシュちゃんに報告しないと!」
私は急いで王都へ戻ることにした。
「ここで待機して、魔獣達が王都を破壊してくれたら、ブラオを助けに行くぞ」
「はい。でも、ヴァイス様はまだお逃げになっていないようです」
王都を一望できる丘でフェアヴァルターとアベリアが隠蔽魔法を使って丘の景色と同化しながらヴァイスが戻ってくるのを待っていた。
「そうだな。0の少女から『黒天使』の所在を聞き出した後、この場所で王都が破壊される様を見る予定だったはず」
「もしかして・・・」
「そうだな。1人で『黒天使』を倒しに行った可能性があるな」
「しかし、『黒天使』はイーグルネイル最強のアーベン様を倒した冒険者です。いくらヴァイス様でも危険なのでは?」
「アベリア、ヴァイスの力をみくびってもらっては困るな。ヴァイスはイーグルネイルのスパイとして、王都の一兵士からわずか3年で騎士団所の所長まで上り詰めた男だ。ヴァイスの魔法技術はまさに天才だ。ヴァイスはあらゆる危険をすぐに察知できる探知魔法を駆使して、誰にも疑われることなく騎士団員からの信頼を勝ち取り、俺を国王の執事に推薦するほどの信頼を勝ち得た男だ。純粋な強さならアーベンのが強いだろう。しかし、策略を練って相手を陥れる技術ではヴァイスに勝てる者などいない。おそらくヴァイスは『黒天使』を簡単に始末すると俺は思っている」
「申し訳ありません。ヴァイス様の凄さは私も知っています。少しでも疑いの念を持った自分が不甲斐ないです」
「わかればいいのだ」
2人はヴァイスが『黒天使』を単独で倒しに行ったと勘違いをしていた。
「プリンツちゃん、早くブランシュちゃんに王都は安全だと伝えないと!」
私は急いでいた。王都にいるブランシュは、いつ襲って来るかもしれない魔獣に怯えているに違いないと。私が本当は怪力で丈夫な体であることを素直に伝えれていれば、心配をかける事もなかったので責任を感じていた。
私はプリンツを大きく引き離して全力で王都に向かっていた。
「この丘を越えれば王都だわ。ブランシュちゃん、安心してね。王都を襲う予定の魔獣は『黒天使』さんが倒してくれたわ」
私は地面に穴ぼこがあくほどに力強く地面を蹴って王都を目指していた。
「あの丘をジャンプしたら王都への近道になるはずよ」
私は少しでも早く王都へ向かうために、王都を一望できる丘でジャンプしてショートカットをすることにした。
「えい」
私は地面を力いっぱい蹴って大きくジャンプした。
「ギャーーーー」
断末魔のような叫び声が鳴り響いたが、遥か遠くに着地した私には聞こえてなかった。
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