第89話 果実の王ドリリアン

 

 森の中には大きな建物とその周りに8つの小さな家がある。人の気配は感じないが、家の雰囲気からは今まで誰かが生活をしていたのは確かである。



 シェーネの判断により『青天の霹靂』はすぐに建物に侵入せずにしばらく様子を伺うことにした。



 「周りの家には人は居ないようだ」


 「そうだな。しかし、窓から覗きみえる家具やベランダに干されている洗濯物から察すると、俺たちが来る前までは誰かが生活していたと判断できるぞ。もしかして、あの大きな建物で何かしているのではないのか?」


 「お兄様、そのような思わせるための相手の罠ですわ。洗濯物をよく見て、洗濯物には葉っぱや埃がついていますわ。あの洗濯物は2、3日放置されていると思って間違いないわよ」


 「やっぱり罠だったのか・・・」


 「盗賊ギルドから情報が流れているのかもしれないわ。おそらくだけど、王都にも盗賊ギルドの支部があり、情報が筒抜けになっていると思うわ。ここは一旦王都に戻って、王都にある盗賊ギルドを潰すべきだわ。あえて、罠にハマってあげる必要はないわよ」


 「ダメだ!罠とわかっていてもここで引くことはできない。あの建物には必ずイーグルネイルの幹部クラスの人物がいるはずだ。そいつを捕まえて『赤朽葉の爪』の拠点をはかせるのだ」


 「俺もバルザックの意見に賛成だ。罠にあえてハマる必要はないが、ここで引くのも納得はいかない。もう少し様子を見て相手の出方を伺うってのはどうだろうか?」


 「私たちがここに来ていることは、盗賊ギルドから伝わっているはずよ。相手は蜘蛛の巣のような罠を張って、獲物が近づいてくるのをじっくりと待っているはずよ。向こうから出てくることなんてありえないわ」


 「お腹が空いたよん。話し合いはこの辺にしておやつを食べるよん」


 「そうだな」


 「ショコラの意見に俺は賛成だ」


 「そうね。おやつを食べながら作戦を練り直しましょう」



 『青天の霹靂』は、ブルーシートを引いておやつを食べることにした。ショコラの収納ボックスには多量のお菓子と飲み物それとブルーシートが入っていて、いつでもおやつタイムを開催できる準備が整っているのである。



 「あれれれ???プリンツちゃん、こっちの方角であっているの?」


 「ハツキお姉ちゃん、そっちじゃないと言ったのに、なんでそっちに行ってしまうんだよ」



 私は雪遊びを満喫したので、王都に戻って今回の事の顛末をブランシュに説明することにした。しかし、雪遊びに夢中になっていた時に、胸ポケットに入れていた地図を無くしてしまって、帰り道がわからなくなっていた。プリンツは地図の内容を覚えていたので、プリンツに案内してもらっていたが、途中で気になる綺麗なお花や木になっている果実に目が眩んで、迷子になっていた。


 私はずっと病院のベットで過ごしてきたので、外で見る景色はどれも新鮮である。しかも、ここは異世界であり、テレビで見た風景とは全く違う花や果実があり、私ははしゃぎまくっていたのである。行く時は雪のことで頭がいっぱいだったので気づかなかったが、帰りは道は気持ちに余裕ができたので、寄り道ばかりしていたのである。



 「でも、プリンツちゃん。これを見てよ!紫と黒のマダラ模様の大きな果実を見つけたわよ。とても美味しそうだわ」


 「ハツキお姉ちゃん、それは、猛毒のドリリアンだよ。Aランククラスの魔獣でも一口かじると即死する危険な果実だから、絶対に食べちゃダメだよ」


 「え!何か言ったかしらプリンツちゃん。苦味があって舌がピリッとするけど、それが逆に刺激的で美味しいかも」



 私はドリリアンをペロッと食べてしまった。



 「プリンツちゃんも食べる?」



 プリンツは躊躇している。それは、猛毒の果実を食べることも修行の一つと考えていたからである。毒の果実を私が食べたのはドリリアンだけではない。ここに来るまでにも、いくつもの毒や麻痺などを引き起こす果実を食べていた。もちろん、プリンツは私が食べる?と勧めるので、修行の一環だと思って無理をして食べていたのである。しかし、今回食べるのは猛毒のドリリアンである。癒しのオーラを使って今まで毒や麻痺を回避していたが、ドリリアンを食べるとかなりのダメージを負ってしまうことは確実であり、死ぬことさえあると想定される。プリンツは体をガクガクと震わせて歯を食いしばり覚悟を決めた。



 「た・・・た・・・べ・・・る」


 「苦いけど癖になる味よ」



 私はドドリアンをプリンツに手渡した。プリンツは目を瞑ってドドリアンを一気に飲み込んだ。



 『コテン』



 プリンツは体を硬直させて泡を吹いて倒れ込んだ。



 「プリンツちゃん、プリンツちゃん、どうしたのよ」



 プリンツは意識を失ったが、防衛本能で白いオーラを出して自己治癒を始めた。



 「ごめんねプリンツちゃん。この果実の刺激はまだ子供のプリンツちゃんに早かったのね」


 「だ・・・大丈夫だよ・・・死ぬかと思ったけど、無意識に癒しのオーラを発動することができたよ。ハツキお姉ちゃんは、僕に意識を失うほどのダメージを負った時の対処方法を教えたかったんだね。ありがとう。これで僕も少しはハツキお姉ちゃんの強さに近づけたかな・・・」



『バタン』


 

 プリンツは毒により死は免れたが、癒しのオーラの使いすぎで魔力不足になり、魔力疲労によって地面に横たわったまま動かなくなった。



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