第86話 白銀狐VSハツキ&プリンツ


 白銀狐は大雪山から離れることができなくなっていた。魔石を吸収して大きくなった精霊樹は、樹液を大雪山に降り注ぎ白銀狐の行動を制限させていた。本来なら樹液によって混乱させられた雪狐を正常の状態に戻すのが白銀狐と正常な雪狐の役割だったが、巨大化した精霊樹の樹液濃度が高くなり、混乱させた雪狐を正常の状態に戻すのが難しくなっていた。できるだけ仲間同士の戦いを避けるために、白銀狐は、大雪山の頂から『絶対零度』を放って樹液を押し返していた。


 精霊樹は大雪山に白銀狐を閉じ込めて、元オランジェザフト帝国領の雪の大地に生息する雪狐を混乱させて、自らの養分にしてさらに巨大化していく。もはや雪の大地は白銀狐の領土でなく精霊樹の家畜と化していたが、その状況を一瞬で覆したのは私であった。


 雪だるまの腕を求めて精霊樹の元に来た私は、絶対に折れることがない精霊樹を簡単に半分にへし折ってしまったのである。精霊樹は半分に折られて機能が停止して、樹液を飛ばすことができなくなり、白銀狐は自由に動けるようになったのである。



 「アイツは・・・人間なのか?人間が私たちを救ってくれたのか?」



 白銀狐は動揺していた。白銀狐にとっては精霊樹も人間も敵であり相入れない存在である。



 「いや、アイツは私が作り上げた雪の大地を崩壊させたわ。精霊樹をへし折ったのも何か理由があるに違いないわ。アイツの魂胆を探る必要があるわね」



 白銀狐は大雪山を降りて私の動向を探ることにした。




 「プリンツちゃん見て!大きな丸太を2本作ってきたわよ。これを雪だるまちゃんの胴体に突き刺したら完成よ」



 私は2本の丸太を投げて雪だるまの胴体に突き刺した。



 「とてもいい出来だわ」



 3体目の雪だるまに私はとても満足していた。



 「プリンツちゃん、可愛いでしょう」


 「ハツキお姉ちゃん、これで精霊樹を3体も倒したんだね」



 私はヴォルフロードに頼まれて1本目の精霊樹を引っこ抜き、火炎竜王との戦いでは、地面を殴って爆炎湖の中心にあった2本目の精霊樹を地中深くに埋めた。そして、大雪山の麓の3本目の精霊樹は雪だるまの腕にしたのである。



 「精霊樹???違うわよ、これは雪だるまって言うのよ!」


 「ハツキお姉ちゃん、とてつもなく大きな魔力が近づいているよ」



 プリンツは私の話など聞いている余裕はなかった。白銀狐が私を追って大雪山から降りてきたので、白銀狐の膨大な魔力に怯えていたのである。



 「大きな魔力?何も感じないわよ」



 私には魔力がない。なので魔力を感じることはできない。



 「危ない!ハツキお姉ちゃん逃げて」



 プリンツが大声で叫ぶと同時に白い霧状の突風が吹き荒れた。まるでホワイトアウトのような状態になり、一面が真っ白になり1cm手前すら見ることができなくなった。



 「これで終わりね」



 この突風は白銀狐の『絶対零度』であった。『絶対零度』によってプリンツも私も氷の彫刻のようにカチンカチンの氷漬けになってしまった。



 「精霊樹をへし折るなんて、とんでもない化け物だと思ったけど、やっぱり人間ね。私の『絶対零度』を浴びて氷像になったわね。それよりも、なぜ?人間と一緒にヴォルフ族がいるの。コイツは氷像になったけど無敵の毛で覆われているから死んでないわね」



 白銀狐はゆっくりとプリンツに近寄ってくる。白銀狐は体長3mほどの真っ白な狐の魔獣である。背中には大きな翼が生えていて、自由に空を飛ぶことができる。しかし、この翼は空を飛ぶことよりも、翼を大きく仰ぐことによって『凍てつく風』を発生させて呪いをかけることができる厄介な翼である。



 「もぉー!いきなり突風が吹いてくるから驚いたじゃないの」



 私が体に少し力を入れると、私を凍らせていた氷はパリンと音を立てて割れてしまった。



 「嘘でしょ。『絶対零度』を喰らって氷漬けにならない人間なんていないはずよ」


 「あら?真っ白で可愛い狐ちゃんがいるじゃないの」



 私はフワフワの白い毛並みの大きな狐を見て、胸をキュンキュンさせていた。そして、無意識に大きな狐にダッシュして飛びついて抱きしめたのである。



 「モフモフで気持ちいいわ」



 プリンツのトゲトゲの毛並みと違って、本物のモフモフの毛並みを体験できて、私はニターと笑いながらモフモフパラダイスを堪能していた。



 「離しなさい!離しなさい!」



 白銀狐は大きく体を揺さぶるが、私に抱きしめられた白銀狐は、全く動くことができない。



 「それならば、『凍てつく風』を喰らうのよ!」



 白銀狐は翼を大きくバタつかせて冷たい突風を発生させる。冷たい風にさらされた私の体だが、丈夫な体の私には呪いの効果はなかった。



 「おかしいわね。全くコヤツの体から冷気が発生しないわ」


 「ハツキお姉ちゃんにお前の呪いなんか通じないよ」



 自力で凍りついた体の氷を弾き飛ばしたプリンツが白銀狐に詰め寄っていた。



 「ハツキお姉ちゃん、今回も牛牛王を倒した時のように二人で協力して戦えってことなんだね」



 私が白銀狐のモフモフと堪能している姿を見たプリンツは、『白銀狐を押さえ込んでいるから、その間に攻撃をするのよ!』と言っていると勘違いしたのだった。

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