第69話 出禁の王女
「これだけでは物足りないよん。まだまだ食べたいよん」
屋敷を売り払って全ての財産を失ったクロイツ子爵だったが、ショコラの胃袋はまだ納得がいかない。
「そうよん。逃げたシックザナール伯爵を追いかけるよん」
ショコラは屋敷を飛び出して行った。
「私はもうお腹いっぱいです」
「私もです」
私とセリンセは十分満足していた。
「ショコラちゃん、すごく大食漢なんですね」
「ハツキちゃん、ショコラは王都では『出禁の王女』と呼ばれているのよ」
「『出禁の王女』???」
「そうよ。ショコラがお茶会に参加すると全てが台無しになってしまうのよ。ショコラの別腹と呼ばれるお茶菓子専用の胃袋はブラックホールと呼ばれ、無限にお茶菓子を吸引するとても危険な胃袋なのよ。ショコラは満足いくまでお茶菓子を要求するので、王女の要求に従えざるえない貴族たちは、王都中の茶菓子を買い漁り、大打撃をこうむってしまうのよ。貴族たちはショコラの胃袋を恐れて、陛下にお願いをして、ショコラをお茶会に参加することを禁じる法律までできてしまったのよ」
「それはすごいことですね」
「そうね。お茶会出禁になったショコラはただでは転ばないわ。次にショコラが考えたのは、パーティーの開催よ。ショコラは、いろんな名目をつけてはパーティーを開催するように要求して、そこで、お菓子などを要求することにしたのよ」
「あ!だからショコラちゃんはやたらパーティーをしようと言っているのね」
「そうよ。パーティーを開けばショコラは次々とお菓子を要求するから、私たちの冒険者用資金も底を付いてしまうので、できるだけパーティーは開かないようにしているのよ」
「恐るべきショコラちゃんですね」
「ハツキちゃんも専門魔法学院に正式に合格したら覚悟をするのね」
「あ!そうだったわ。私が合格したら合格パーティーを開くって言ってたわね。でも、私は祝ってもらう側だから問題ないよね」
「何を言っているのよハツキちゃん。合格祝いパーティーは、みんなに合格をしたことを報告するパーティーだから、開催をするのはハツキちゃんなのよ」
「本当ですか!」
「私は嘘はつかないわ。でも、ハツキちゃんはヘンドラー男爵の庇護下にあるのなら、ヘンドラー男爵に開催してもらってもいいかもしれないわね」
「ヘンドラー男爵にはあまり迷惑をかけたくないから自分でなんとかするわ」
「ハツキちゃん・・・やっぱりあなたは真の強い女性なのね。王都ではみんなショコラを恐れて、パーティーなんて絶対に開かないと言い張ってショコラから逃げていくわ。でも、あなたは逃げるどころか自分で解決の道を選ぶなんて、とても素敵な女性だわ」
「いえいえ、ショコラちゃんは私のお友達なので逃げたりなんかしないですよ」
お金の当てはないが、私は冒険者になったのでいざとなれば冒険者として稼げば良いと思っていた。しかし、私はオークの角と魔石の代金でショコラの胃袋を満足させるだけのパーティーを開催できる資産をすでに持っていたことを知らなかった。
「ショコラを追いかけてくるわ」
「私もついていきます」
「ハツキちゃんが行くのなら私もついて行きます」
「危険はないと思うから一緒にいきましょう」
私たちは馬車に乗り込みシックナザール伯爵の屋敷に向かった。ショコラは表にいた騎士団所の団員に、シックナザール伯爵の屋敷の場所を聞き出し馬に乗ってもう屋敷に着いていた。
「まだお茶会は終わっていないよん」
「あなたは!『青天の霹靂』のショコラさん。なぜ、こんなところにいるのでしょうか」
屋敷の門兵はショコラのことを知っていた。
「クロイツ子爵のお茶会の続きをしにきたよん。すぐにお茶会を再開するのよん」
「わかりました。すぐに取り次ぎをいたします」
「その必要はないよん。私も一緒に行くよん」
門兵はショコラを止めることができずに一緒に屋敷の中へ入って行った。
「ここがシックザナール伯爵の屋敷よ」
セリンセが屋敷の場所を知っていたので案内してくれた。屋敷に着くと同時に屋敷の門から数名の使用人が血相を変えて飛び出してきた。
「お茶菓子が足りません。なんとかしないといけませんわ」
「しかし、どこのお茶菓子店も法外な値段でしか取引できないらしいぞ」
「お茶菓子1つが大金貨1つなんて、いくらなんでもありえない」
「もうお茶会が始まっているようね。急いで中へ入りましょう」
私たちは門兵や使用人が混乱している隙に屋敷の中へ入って行った。屋敷に入ると数十名の護衛兵士が目を回して倒れていた。おそらくショコラにやられたのであろう。
「私は一度だけシックナザール伯爵のお茶会に参加したことがありますので、おそらくあの大広間でお茶会をしていると思います」
私たちはセリンセに案内されて大広間に向かって行った。
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