第50話 究極の2択


 「ここがシュテーネン専門魔法学院よ」



 シュテーネン専門魔法学院は首都シュテーネンの離れにある。それは広大な土地を利用した施設なので、土地を確保するためにそう成らざる得なかったのである。



 「すごい広いですわ」


 「そうよん。魔法の練習には広大な土地が必要よん。ここなら、私も思いっきり暴れる事ができるよん」


 「ショコラのいう通り、魔法を練習するには広大な土地が必要なのよ。しかも、学院から外に出る専用通路もあり、外での魔法練習も簡単にできる優れた作りになっているわ」


 「そうなのね。学院生活がとても楽しみだわ」



 私が嬉しそうにニコニコ笑っていると、急に頭の上に二つの物体が激しく揺れだした。



 「よんよんよん。よんよんよん」



 ショコラが泣いている。



 「ハツキちゃんを・・・ハツキちゃんを絶対よん。絶対よん。合格させるよんよん」


 「ショコラ、私もあなたと同じ気持ちよ!魔力量が0だから学院に入学させないなんて絶対に言わせないわ。ハツキちゃんのようにひたむきに明るく元気に生きる姿勢こそ、このシュテーネン専門魔法学院に通うにふさわしいと私は思うのよ」


 「そうよぉ〜〜ん」



 2人は私に抱きついて大泣きするのである。



 「ショコラ、こんなところで泣いている場合じゃないわね」


 「そうよん。まずは面接に合格するよん」


 「ハツキちゃんの面接を合格させる秘策を私は考えているわ。だから、私に任せるのよ」


 「さすがよん。期待しているよん」



 私はシェーネに引っ張られて、シュテーネン専門魔法学院の正門に到着した。



 「これは、シェーネさん。今日は学院はお休みですが何しにこられたのでしょうか?」



 正門には屈強な兵士が立っている。



 「今は学院の面接期間よね」


 「はい。夕刻までは紹介状があれば随時面接を行う事になっています」


 「ハツキちゃん、紹介状は持っているかしら」


 「はい。ヘンドラー男爵に紹介状を書いてもらったわ」


 「えっ!あのヘンドラー・マーチャント男爵の紹介状なの?」


 「そうよ」


 「マーチャント商会といえば、王都にも支店を持つ大商人だわ。陛下からも認められているあのヘンドラー男爵とお知り合いだったのね」


 「今、ヘンドラー男爵の屋敷にお世話になっているのよ。とても親切でいい人です」


 「そうだったのですね。ヘンドラー男爵の保護下にあるのなら安心だわ。彼の財力なら屈強な護衛をたくさん雇えるはずだしね」


 「そ・・・そうで・・すね」


 「紹介状に不備は見当たりませんので、入校の許可を出します。こちらから面接官には連絡しておきますので、面接室へご案内をさせます」


 「遠慮しとくわ。私がハツキちゃんの案内をするわ」


 「わかりました。それではシェーネさんお願いします」



 私はシェーネに連れられて学院の中へ入って行く。



 「まずは食堂よん。学院の食堂は美味しいスイーツがあるのよん」


 「ショコラ!寄り道はダメよ」


 「おやつの時間よん。甘いスイーツを食べるよん」


 「面接が先よ」


 「スイーツが先よん」


 「ハツキちゃんどっち!」

 「ハツキちゃんどっちよん!」


  

 究極の2択を選択する事になった。どちらを選択するかによって私の後の人生が大きく左右される・・・わけはなく、どちらでも良いと思ったのである。



 「どうしようかしら。今はそんなお腹は空いていないけど・・・」


 「スイーツは別腹よん」


 「ハツキちゃん、兵士から面接の連絡は面接官に届いているはずよ。すぐに行った方が面接官の心象が良くなるはずよ」


 「それなら面接に行こうかな」


 「ハツキちゃん、面接中に急にお腹が減るかもしれないよん。面接中にお腹がなったら心象が悪くなるよん」


 「それなら食堂に行こうかな」


 「ハツキちゃん、お腹がいっぱいになったら動きが鈍くなるわよ。動きが鈍いとやる気がないと思われて心象が悪くなるわよ」


 「それなら面接に・・・」


 「ハツキちゃん、スイーツを食べるとやる気スイッチが一段階アップするよん。やる気スイッチが増せば心象もアップするよん」


 「それなら食堂へ・・・」


 「ハツキちゃん・・・」



 こんなやりとりを1時間くらいしているうちに、兵士が私たちのところへやってきた。



 「シェーネさん、こんなところで何をしているのでしょうか?面接の連絡は既にしておりますので、面接室へ行ってください」


 「ショコラ!あなたのせいで遅くなったじゃないの」

 

 「違うよん。シェーネが無駄話するから遅くなったよん。すぐに食堂に行ってスイーツ食べればよかったよん」


 「まぁまぁ、2人とも落ち着いてくださいね」


 「ハツキちゃんはどっちが正しいと思うの」

 「ハツキちゃんはどっちが正しいと思うよん」


 「え〜と、あの〜。その〜」


 「もめてないで早く面接室へ行ってください」


 「そうだったわ」


 「そうよん」



 私たちは急いで面接室に向かったのであった。




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