第46話 咄嗟の判断?


 「やっぱり幻影魔法だったのね。シェーンさんナイスよ」



 シェーンは『青天の霹靂』に『イケメン倶楽部』の2人が幻影であることを教えるために、正拳突きを放ったのである。



 「今のでわかったよん。シェーンちんが幻影に正拳突きを放った時に、明らかに動揺したヤツがいたよん」


 「ショコラ、どいつなの?」


 「闘技場の最前列で見ている青のフードを被った男よん」


 「取り押さえるぞ」


 「待つのよん。こっちから行かなくても出口で待っていればいいのよん」



 青のフードの男は、闘技場の最前列から離れて闘技場の出口に向かって歩き出した。そして、白のフードを被った男も青のフードの男の後を続いて出口へ向かう。



 「あとはあなた達に任せるわ。私は0の少女を助けに行くわ」



 『青天の霹靂』は、『肉の壁』と『イケメン倶楽部』が王都の門の前で揉めている現場を目撃して、シェーンに声をかけ『イケメン倶楽部』が、何か卑怯なことをするのではないかと、忠告をしていたのである。



 「助けてくれ〜」



 割れた闘技場の隙間に落ちた一輪の薔薇は、大声で助けを呼んでいる。



 「痛いよぉ〜痛いよぉ〜。早くここから助けてくれぇ〜」



 闘技場にできた穴ぼこの深さは10m以上あり、急にできたこの穴ぼこに落ちた一輪の薔薇は、右足を激しく殴打して骨折していた。一輪の薔薇は、回復魔法が使えないので泣き喚いていた。

 


 「なんてこったぁ〜」



 私は空を見上げてボソリと呟いた。闘技場を壊してしまったので決闘は中断され、このままだと引き分けに終わると思って私は心配をしていた。



 「アベリアさん、これは場外負けではないのかしら?」


 「シェーネさん?なぜあなたがここに」


 「ちょっとした用事があってね。それよりも、0の少女の勝ちなりを上げて欲しいわ」


 「でも、何が起こったのか検討もつかないので、この決闘は無効試合か引き分けってことになるわ」


 「何が起こったのかわからないの?これは簡単なことよ。この闘技場は長年の決闘により老朽化が進んでいたのよ。闘技場は激しい決闘に耐えきれずに崩壊してしまったのよ」


 「それならこの決闘は無効試合ね」


 「違うわ。この現状をちゃんと見るのよアベリアさん」


 「どういうことかしら」


 「闘技場が崩壊して穴ぼこに落ちたスタンコチンチン【一輪の薔薇の本当の名前】、一方0の少女は、危険を察知して身を伏せて自分の体を守ったのよ」


 「ただコケただけでは・・・」


 「そんなわけないでしょう。0の少女は、魔力量が0なのに仲間のために共に決闘に出ることを決意し、そして、勝つ可能性が0なのに決闘に挑んだのよ!彼女は勤勉で努力を惜しまない真の強い少女よ。そんな少女だからこそ、危険を察知して、すぐに的確な判断ができたのよ。そんなこともわからないの」


 「も・・・申し訳ありません」


 「それに、『イケメン倶楽部』は不正を行なっていたわ」


 「・・・」


 「1番近くに居たあなたは知っていたのね」


 「これくらいの不正は不正とは言いません。相手がどのような手段を使ってくるのか判断するのが冒険者です。私の役目は相手を殺さないように試合を止めることです。命を守ることだけに専念しています」


 「捕まえて来たよ〜ん」



 ショコラたちが逃げた2人を連れてきた。



 「離せ!俺たちは何もやっていないぞ」


 「何もやっていないヤツがなぜ?待機席じゃなく観客席にいるのだ」


 「最前列で応援したかっただけだ」


 「そうだ。俺たちは応援していただけだ」


 「まぁ、不正云々は後回しでいいわ。まずは0の少女の勝ちを宣言するのよ」


 「ちょっと待て、これは闘技場の老朽化によって起こった事故だ。だからアベリアの言う通り無効試合となり3勝1無効試合で俺たち勝ちだ」


 「黙りなさい、このボンクラボンボン【羨望の眼差しの本名である】。あなた達の卑怯な手段は許されて、0の少女の咄嗟の判断は認めないなんておかしいわ。アベリアさん、このことを国王様に報告されたくなければ、公平な判断をするのよ」



 アベリアは下を向きしばらく黙ったいた。



 「勝者 ハツキ。ハツキ選手の勝利によりこの決闘は『肉の壁』の勝利となります。負けた『イケメン倶楽部』は決闘のルールにより冒険者ランク2段階降格となります」


 「ふざけるなぁ〜」



 羨望の眼差しがアベリアに詰め寄るが、シェーネが2人の間に割って入り、羨望の眼差しの腹部に蹴りを入れる。



 「この判定に納得がいかないようでしたら、私たち『青天の霹靂』が相手をしてあげますわ」



 腹部を蹴られた羨望の眼差しは転がり回る。



 「羨望の眼差し、行くぞ」



 水も滴るいい男が、羨望の眼差しを担ぎ上げ『イケメン倶楽部』の3人は早々と闘技場を後にした。一輪の薔薇を穴ぼこに残して・・・



 「0の少女ちゃん。大丈夫だった?身を伏せた時に膝を擦りむいたりしなかったぁ〜」



 私たちの勝利が確認されると、シェーネは真っ先に私に近寄り体の心配をしてくれた。

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