第6話 盗賊
「ドアを開けろ」
「助けて下さい。お金ならいくらでも用意します。だから命だけは見逃して下さい」
「お金などいらないし、お前だけは助けてやる。だから扉を開けて娘を俺らに差し出せ」
頑丈そうな豪華な馬車の周りには10人くらいの盗賊と思われる黒装束の姿をした屈強な男達がいる。そして、護衛らしき冒険者が4人血を流して倒れていた。
「無理です。娘を差し出すなんてできるわけがない」
「俺たちの目的はお前の娘を連れ去ることだ。娘さえ差し出せばお前達は見逃してやる」
「お父さん・・・私・・・を外に出して。私が行けばお父さんもお母さんも助かるのよね」
「何を言っているのだ!お前のことは私が絶対に守る。だからお前は絶対に外に出るな」
「ヘンドラー、娘の方が聞き分けがいいでないか。意地を張らずにさっさと娘を差し出せ」
「私の名前を知っているということは誰かに雇われているのですか?」
「こんな派手で豪華な馬車に乗っているのは、カノープスの町の大商人ヘンドラー・マーチャント男爵しかいないだろう。商売で財をなし爵位を手に入れた成金野郎が。
「そこまで知っているなら話は早いです。あなたの雇い主の倍の金額を私は用意します。だから、見逃して下さい」
「雇い主だと・・・なんのことだか意味がわからないぜ。俺はお金よりお前の娘に興味があるのだ。娘を素直に差し出せば命だけは助けてやったのに残念だ。娘以外は全員殺せ」
盗賊のリーダーらしき男が仲間に声をかける。
「しかし、お頭。あの馬車はかなり頑丈な作りできいますぜ。俺たちの力ではどうすることもできませんぜ」
「問題ない。娘の位置は今の話のやり取りで特定できた。俺の剣でこの馬車をヘンドラーごと叩き斬ってやるぜ」
「さすがお頭ですぜ。お頭の魔力剣ならこの頑丈な馬車でも簡単に斬り裂くことができるはずですぜ」
盗賊とヘンドラーのやりとりはかなりの大声だったので、現場に直行中の私は全て聞こえていた。そして、現場に到着した私は凄惨光景を目の当たりにした。
馬車の周りには頭を切り落とされた者、腹部を真っ二つに切り裂かれた者。全身を真っ黒に焼かれた者など目を避けたなる光景であった。
「ひどいわ」
私はその凄惨な光景を見て胸が苦しくて涙が溢れそうであった。
「弱い者が強い者に殺されるのは当然の事だよ」
「でも・・・こんなことはダメよ」
「殺されたくなかったら強くならなとダメなんだよ。それがこの世界を生きていくためには必要なの」
「でも、私が住んでいた世界でも同じだったのかもしれないわ」
私はほとんど病室にいたから世間のことはテレビで入ってくる情報でしか知らない。テレビでは毎日のようにいろんな事件が映し出されていた。しかし、テレビから流される情報には、凄惨な光景が映し出されることない。私が住んでいた世界でもこのような凄惨な光景は多々あることなのかもしれない。
しかし、私はあれこれと考えている時間はない。今も馬車にいる人たちの命が危険にさらされている。話の内容から察すると馬車に乗っている女性を連れ去るために、このような凄惨な事件を引き起こしたと推察することができる。
「私が助けなくちゃ」
私が覚悟を決めた時、目の前では黒装束の男が剣を両手で握りしめて、今にも馬車を斬り裂こうとしていた。
「やめてぇ〜」
私は大声で叫んだ。すると黒装束の男達は一斉に私の方を見た。
「なんだ!この小娘は・・・」
黒のフードを被った男達は鋭い眼光で私を睨みつける。
「上玉じゃないか」
「本当だぜ。ヘンドラーの娘よりもこっちの娘のが子爵様も喜ぶかもしれませんぜ」
「アイビス!余計なことを言うな」
「あ・・・申し訳ありません」
「しかし、本当に美しい娘だ。この娘は俺のモノする。まずはこの娘を殺さずに捕まえろ。ヘンドラー達は後回しだ」
「わかりました」
「お頭。相手はまだ幼い少女ですぜ。俺一人で捕まえてきますぜ」
「よし!行って来い」
男はダガーと呼ばれる30cmほどの短剣を手に持ち私に迫ってくる。
「お嬢さん、おとなしくしていれば殺しはしないよ。だから、抵抗はせずに手をあげて素直に俺のところへ来い」
男はダガーを私の頬のあたりに近づけてくる。
私はダガーに手を伸ばして親指と人差し指で摘んで軽く折り曲げて見た。
「何が起こっているのだ・・・」
私が簡単にダガーを折り曲げたのを見て男は目をキョトンとさせてびっくりしている。
「悪いことはしてはいけません」
私はキョトンとしている男の頬をビンタした。すると男は30mほど吹っ飛び首の骨が折れて死んだしまった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
黒装束の男達は男が吹っ飛ばされる光景を見て言葉を失っていた。
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