第4話 聖霊樹
「力持ちだと・・・そんな生易しい表現ですまされることではないぞ」
「そうかもね。か弱い女子が大木をへし折るなんて大問題かもね」
「違うのだ。魔力が高い者ならば身体強化をして大木をへし折ることは可能だ。しかし、その大木は聖霊樹といって魔獣の魔石を糧として生きている大木なのだ」
「ごめんなさい。私は大事な大木をへし折ってしまったのね」
「いや、聖霊樹をへし折ってくれたことには感謝している。聖霊樹は魔獣に樹液を飛ばし魔獣を混乱状態に陥らさせて、魔獣同士に争いを起こさせるのだ。そして、死んだ魔獣の魔石を回収させて、それを食らって成長を続ける俺たちの天敵だ。俺ではこの聖霊樹を倒すことができない。だから、魔獣の被害を少なくするために聖霊樹の監視をしていた。これで俺の役目は終わったみたいだ」
「そんな危ない木だったのね・・・って私もしかしてこの精霊樹に殺されるところだったの?」
「いや、それはないだろう。聖霊樹の樹液は魔獣にしか反応しない。人間にとって聖霊樹は魔獣を駆除してくれる神聖な木であり、大事な御神木として拝められている」
「私・・・もしかして大変なことをしてしまったのかしら?」
「気にするな。バレることはないだろう。俺が聖霊樹を監視しているから人間達がこの森に入って来ることはほとんどない。たまに冒険者が俺を倒しにやってくるが、俺が人間ごときに負けることはない」
「えーと・・・あまり深く考えるのはやめておくわ。私は聖霊樹のことなんて何も知らない。そう・・・何も知らないのよ」
「しかし、聖霊樹を知らない人間がいるとは驚きだ。でも、先ほどのお前の話が本当なら、聖霊樹を知らないのも納得がいく。お前は別の世界からやってきた特別な人間なのであろう」
「異世界転移・・・」
私は異世界に転移したのだと思った。ヴォルフロードの話から推測すると、この世界には魔法があり魔獣がいる。こんなファンタジー要素たっぷりの世界が夢でないなら異世界でしかありえないと私は思った。
私は何かしらの理由でこの異世界に転移して、元気で丈夫な体、そして怪力を手に入れたみたいである。
「お前はこれからどうするのだ」
「私は近くに町がないか調べてみます」
私はとりあえず町に行ってこの世界のことを詳しく調べようと思った。
「漆黒の森から町へ行くにはかなりの時間がかかるぞ」
「あなたがこんな森の奥まで連れて来るからよぉ〜」
「それはすまないことをした。しかし、お前が居た草原からでもかなり遠いぞ!漆黒の森を恐れて人間達は遠く離れた場所に町を作っているからな」
「そうなんだぁ〜」
私を異世界に転移させるなら、こんな町から離れた場所でなく町にほどなく近い草原に転移してくれたらよかったのにぃ〜と私は思った。
「僕が町まで連れて行ってあげるよ」
さっき私が抱きしめて、奇跡的に生き延びたヴォルフロードの息子が声をかけて来た。ヴォルフロードの息子はヴォルフロードの回復魔法により傷は癒やされていた。
「さっきはごめんなさい。私はただ優しく抱きしめたかっただけなのよ」
「気にしてないよ。だって僕が弱かっただけだから。お姉ちゃんは強いから僕はお姉ちゃんの弟子にして欲しいんだ!だから、僕が町まで連れて行ってあげるよ」
「プリンツそれは良い事だ。漆黒の森の脅威である聖霊樹は無くなった。しかし、漆黒の森は俺たちが守り続けなければならない。お前は次期漆黒の王になるためにその女の弟子入りをするのは賢明な判断だと思うぞ」
「ちょっと!勝手に話を進めないでよ。それに私はハツキって名前があるの!ちゃんと名前で呼んでよ」
「ハツキ様と呼べばいいのか?」
「ハツキお姉ちゃん様。お願いします」
「様はいらないわよ。ハツキでいいわよ」
「それならハツキさん、俺の息子を弟子にしてやってくれ。お前ほどの力を持つ者と一緒にいればプリンツも強くなれるだろう」
「ハツキお姉ちゃん。僕を弟子にしてよ」
「う〜ん・・・でも私は可愛い小型犬が欲しかったのよぉ。プリンツは少し大きいかな?でも、私を乗せて町まで連れて行ってくるのはとても助かるし迷うわ」
「それなら問題ないだろう。プリンツは小さくなることができるはずだ」
「僕出来るよ!」
プリンツが体を振わせると見る見ると体が小さくなっていく。プリンツは米粒くらいに小さくなった。
「小さくなりすぎよ。20cmくらいでいいの」
「わかったよぉ」
プリンツが体を振るわせると20cmくらいの小型犬の大きさになった。
「可愛い!」
「やめろ!」
「やめてよー」
ヴォルフロードとプリンツが顔を青ざめながら叫ぶ。
私はあまりの可愛さにプリンツに飛びつき抱きしめた。しかし、自分が怪力だと自覚しているので、そっとそぉ〜と優しく丁寧に抱きしめた。
「大丈夫よ。ちゃんと力を制御しているわ」
しかし、プリンツは泡を吹いて失神している。
「プリンツ・・・死んだのか?」
ヴォルフロードが心配そうにプリンツを眺めていた。
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