第2話 少女異世界へ
「あれ?ここはどこなの」
私はさっきまで母と一緒に病室にいたはずなのに青々としげる草原に居る。
「夢の中かしら」
私は眠ってしまって夢を見ているのだと思った。私の姿は白のワンピースに大きな麦わら帽子を被っていた。これは母が私のために買ってくれた物である。そして、病弱で痩せ細った体と不気味な青白い肌は、細身だが健康的な体に、そして青白い肌は雪のような透き通るような白い肌になっている。
「なんて気持ちがいいのかしら」
私は照りつける太陽を目を細めながら眺め、微かに香る草原の青い匂いと心地よい風を感じていた。
「神様が死ぬ前に私に心地よい夢を見させてくれてるのかしら。それなら、もう一つ私の願いを聞いてください。私は人生のほとんどを病室で暮らしていました。なので、次に生まれ変わることができるのならば、贅沢は言いません・・・元気で丈夫な体を私にください。そして、できれば力持ちであれば嬉しいかなぁ」
私の人生はほとんどがベットの上であり、食事も流動食や点滴での栄養補給だったので美味しい食べ物も食べたこともないし運動もした事もない。なので、次に生まれ変わることができるのならば、元気で丈夫な体が欲しかった。そして、ついでに力持ちであれば、一人で何でもできるような気がした。
「無理よね。私はみんなに迷惑をかけてきたから、生まれ変わるどころか地獄に落とされるはずね。私がいなければお母さんは幸せな人生をおくれたはずだしね」
私は死んだら地獄へ行くはずだ。なので、人間に生まれ変わるなんてありえない。私はずっと母を苦しめていたのだから当然であると思っている。
「でも・・・この夢だけは覚めないで欲しい。この雲一つない澄み切った空を眺めていたい。この新鮮で心地よい空気を吸っていたい。そして、自分の足でこの草原を走り回りたい。だから、この夢から目を覚まさせないでほしい・・・神様」
私は首輪を外された犬のように草原を無邪気に走り回った。自分の足で大地の感触を感じて走ることができるなんて無理だと私は思っていた。私は病弱な体質の為走ることはできず、移動することがあっても車椅子での移動がほとんどであった。だから、地面を蹴って走れることがとても嬉しかった。私は無邪気に草原をただただ走り回るだけでも楽しいのであった。
「こんなに走っても息がきれることもないわ。なんて丈夫な体なのかしら。こんな体が欲しかったのよ」
私は夢の中ではあるけれど元気な体を手に入れて上機嫌であった。しかし、そんな私の些細な幸せは長くは続かなかった・・・
『ガルルルル・ガルルルル』
私一人の草原だと思って走り回っていると、近くの茂みからオオカミのような動物が姿をあらわした。しかし、私がテレビで見たオオカミとは全然違っていた。そのオオカミの口からは大きな鋭い牙が二本剥き出しになっていて、手足の爪もナイフのように鋭く光っている。体長は1mほどで黒い毛並みは剣山のように尖っている。決してモフモフできるような毛並みではない。
そんなオオカミのような動物が三体も居て私を睨みつけている。そして、今にも襲いかかりそうな雰囲気である。
「もぉ〜神様!私はピクニックには小型犬が欲しいと言ったのよ。あんな凶暴そうなオオカミなんて欲しくないの」
私はとてもおかんむりである。だってここは私の夢の中。私が欲しいのはチワワのような可愛い小型犬であり、その小型犬と一緒にピクニックをしたいのである。決して凶暴なオオカミと一緒にピクニックをしたいわけではない。
しかし、オオカミのような動物は私の本意には気づかずに、大きく口を開けて襲ってきた。
「仕方ないわ。この子で我慢するわ」
私はせっかく神様が用意してくれたこの凶暴そうなオオカミ達をペットとして、私のピクニックの参加を許諾することにした。なので、私に襲いかかってきたオオカミを、私は両手を差し出しハグしてあげることにした。でもオオカミは私の気持ちをかんがみることなく私の首筋に噛み付いた。
『ポキン』
私の首筋に噛み付いたオオカミの牙は折れてしまった。しかし、オオカミは牙が折れたまま私の首筋を何度も何度も噛み付いた。オオカミの歯は全て砕けてしまい、甘噛みのような優しい感触が私の首筋に伝わる。
「くすぐったいわ」
私はオオカミの牙と歯が全て砕けたことに全く気づかずに、オオカミが私の首筋を優しく咥えて戯れ合っているものだと勘違いをしてしまった。
「見た目は怖かったけど。可愛いわ」
私が剣山のような尖った毛並みをぎゅっと抱きしめると、尖った毛並みはフワフワの綿菓子のような感触に感じて私はとても気持ちが良かった。
私に強く抱きしめられたオオカミは、息ができなくなり白目を剥いて意識を失ってしまう。
「えぇぇ〜~優しく抱きしめたはずなのにぃ〜なんで気絶するのよぉ〜」
私はまだこの時、自分が異世界に転移して、なおかつとんでもない怪力と頑丈な体を手に入れたことに全く気づいていないのであった。
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