ルシウス様、プロポーズされる
ところで、ユキレラの義妹が投獄されている間に、王都では宰相であるグロリオーサ侯爵家の主催で夜会が開かれた。
宰相家、そう、ユキレラのセフレの一人の家だ。
セフレ君はこの家の四男で、ルシウスと同い年である。
本来なら王家主催だったそうなのだが、王弟カズンとリースト伯爵令息ヨシュアの暗殺未遂事件のせいで、王家が混乱していた。
代わりに宰相家が開催をそのまま引き継いだということらしい。
今回から社交界デビューということでユキレラも張り切っていた。
とはいえ、ご主人様のルシウス子爵の侍従扱いなので、庶民の駆けつけ三杯かの如くダンスを踊らされるようなこともない。
リースト伯爵家の軍服が正装になるので、伯爵家から借りっぱなしの軍服をお直しだけして貰って着用しての参加になる。
正式な軍服を作るのは次回からだそうだ。楽しみ。
ちなみにご主人様のルシウスは、同じネイビーのライン入りの白い軍服に、ミスリル銀など希少金属の飾りや、王家からの勲章を幾つも身につけ、しかもマント装着。
普段からハンサムショート的な『イケメンにしか許されない髪型』のルシウスだが、崩れない程度にセットして、ちょっとだけ青みがかった前髪が白い額にかかっているのが、もう。もう。
(かあっこいいべえ……ルシウスしゃまああ……)
格好いいと、美しいと、綺麗とが同居して見事に調和している。
彼の兄伯爵もだが、リースト伯爵家の男は本当に麗しい。
と自分も他者から同じ感嘆を抱かれていることなど気にもせず、ご主人様に見惚れていたユキレラだった。
今回の夜会の開催を中止できなかった理由がある。
ちょうど他国からアケロニア王国の国内視察の一団が来国していて、彼らの歓迎会と国内の主要貴族や要人たちとの顔合わせを兼ねた場だったからだ。
その上、視察団に王族がいて無碍にできない。
しかも、この王族というのが当初、視察団のメンバーにない名前だったせいで、ますます混乱に拍車がかかっていた。
「ユキレラ。視察団はタイアド王国の者たちだ。あの国は表立って言われることはないけど、我が国の敵性国家なんだ。油断しないように」
「敵性国家!?」
何やら物々しい。
「タイアド王国はカズン様のお母上セシリア様の故国だ。あの国の元王太子がセシリア様の元婚約者で、散々彼女を振り回して侮辱した過去がある」
「よくそんな国、視察団として受け入れますよね」
「仲が悪いのは互いの王家だけなんだ。貴族や民間の商会クラスはむしろ積極的に交流している。一番近い大国だしね」
つまり気を付けるべきは、乱入してきたその王族ということになる。
聞けば、王族とはいえ先王と平民の間の庶子らしく、大した考えもなく視察団に加わった極楽トンボ君とのこと。
(へえ、上はいろいろ大変だなや。まあオレには関係なかっぺ!)
そう、ユキレラにはまったく関係なかった。
そしてトラブルに巻き込まれたのは、ご主人様ルシウスのほうである。
「ああ! このような異国の地で、私は運命を見つけた! 麗しの君よ、どうか私のものになってはくれまいか!」
その敵性国家からのお呼びじゃない王族男子から、何と子爵ルシウスが公開プロポーズを受けた。
タイアド王国、先王の何人目かわからない庶子。
王位継承権はないそうだが、王族籍には入っている。
年齢はルシウスより十は上だというから三十近い。男盛りだ。
(わわわわ。る、ルシウス様のお顔が笑ってるようで笑ってねえべ!)
ついでにいえば、ユキレラのセフレ君の宰相令息を始めとした『ルシウス様ファンクラブ』の面々も視線鋭く、他国の王族を睨みつけていた。
ルシウス様ファンクラブの会員は、彼が学園に在籍していた当時の学園生たちの三割ほど。数はそれなりに多い。
だが、貴族間の派閥関係もあってファンクラブには入れなかったが、憧れ慕っている者の数はもっと多いと聞いていた。
ルシウスを崇める者は男女問わず。
基本的に人当たりの良い人物なので、味方もそれなりに多かった。
夜会の会場では、誰もがおしゃべりやダンスをぴたりと止めて、中央部で公開プロポーズをかました王族と、されたルシウスを見守っている。
さて、どうなるか。
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