義妹アデラの処遇1
そういえばユキレラはすっかり忘れていたのだが、義妹アデラが騎士団の牢屋にぶち込まれたままだった。
もう一ヶ月以上も前のことだったし、本当にすっかりポンと頭の中から抜け落ちていた。
忠犬ユキレラの頭の容量的には、大半がご主人様ルシウスのことで一杯なので、他に割ける余裕はそんなにない。
そういえば、そんな奴いたっけなあ……ぐらいのものだ。
「アデラがオレを男娼館に売り飛ばすって言ってた、ですか……ああ、それね……」
ユキレラに間違われて誘拐されたルシウスへの、騎士団側からの事情聴取も既に終わっている。
貴族の子爵ルシウスを、平民のアデラやゴロツキが誘拐した。
一味のアデラは、ルシウスの侍従兼秘書ユキレラの元義理の家族である。
このケースの場合、2種類の対応方法がある。
ひとつめは、刑罰はそのまま国が下して執行するか。
ふたつめは、被害者の貴族ルシウスが国の法律のもと、リースト伯爵家内のルールで処理するか。
ルシウスは、兄伯爵を通じて、ゴロツキに関しては国の司法に委ね、ユキレラの義妹アデラだけは自分が処理するからと身柄を一先ず引き受けることにしたそうだ。
「身柄を引き受けるとは言っても、今日の午後に釈放されるから騎士団まで行くだけ。その前に、お前の意見を聞いておこうと思ってね」
「それもうちょっと早く聞きたかったですー」
もう当日の朝食の場ですよ、とバゲットにバターを塗りながらユキレラはビックリである。
「アデラ。そういえばそんなこともありましたね」
「『男娼館に売り飛ばす』この発言はとても悪質だよ。そもそも、この国は娼館はあっても人身売買はかたく禁じている。国が彼女を処罰する場合、僕にけしかけたゴロツキもたちが悪かったから、かなり重い刑罰になるところだった」
「はあ、そうですか。男娼館ねえ……」
寝耳に水ではあったが、すっかり忘れていたユキレラ的には、それを聞かされてもどうしたらいいものやら。
だが、その刑罰が本来なら処刑の絞首刑だったと聞いて、さすがに椅子から飛び上がって驚いたユキレラだ。
「え、いや、ちょっと待ってください。あいつは確かに兄貴のオレの婚約者を寝取るようなクソビッチですけど、そういう悪辣なことやる子じゃないです」
「でもね、そう言ってたって、うちの諜報員からの裏は取れてるんだよね」
「それは……口先だけですよ。だいたい、男娼館なんて単語、どこで聞いたんだか。ど田舎村には娼館だってないのに」
ひなびた田舎だから、そんないけない大人の施設などはないのである。
ユキレラだって、そういうお店を利用するときは休日に遠出してど田舎町まで出ないと行けなかったのに。
……おっと、これ以上はいけない。
「騎士団に頼んでアデラの尋問と調査を進めて貰ったんだけどね。お前が言うように、口では悪ぶってても、言葉ほど本人に悪意がなかったことは判明しているんだ」
「そ、そうですよね!」
顔が可愛いだけの生意気なクソビッチだが、それだけに変に小心者なところもある。
それがユキレラにとっての義妹アデラという少女だった。
「ただ、お前にけしかけようとしたゴロツキたちが悪かったんだ。他国からの流れ者で、薬物ブローカーと繋がっていたから」
「………………はい」
この話の感じだと、多分アデラはただでは済まないだろうなと、ユキレラでも思う。
「ゴロツキのほうは、貴族の僕を誘拐した実行犯であることと、薬物を使って性的暴行しようとした現行犯の現場を、兄さんに目撃されている。これ、僕が最後まで犯されてたら去勢刑の後で即処刑案件ね」
「……それは、はい。知ってます」
ユキレラが王都に出てきた翌日、ベッドの隣で寝ていたルシウスを見て最初に危惧したとき頭の中にあったのも、その刑罰のことだった。
「ただ、今回は未遂だったから。ゴロツキたちのほうは、薬物使用と貴族への性的暴行未遂で、服役刑の後で罪人の刺青を腕に彫られて国外追放だって」
「それは何とも……」
甘いなと思ったが、違かった。
「薬物ブローカーの子飼い連中だから、親を炙り出すのにおよがせるそうだよ。実際は他国のほうで検挙され次第、処刑だろうね」
「世の中、やっぱり悪いことはできませんねー」
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