被害は甚大でした
ユキレラが御者となって操る馬車は、ルシウスの実家、リースト伯爵家へと向かった。
ど田舎村出身のユキレラは、馬も馬車の扱いもお手のもの。
というより、御者スキルや乗馬スキルぐらい持っていなくては、のどかで広大など田舎村では足を確保できず生きていけない。
何なら牛やロバだって乗れますけど?
そして到着したリースト伯爵家の本家本元の本邸で、ご主人様のルシウスはまず真っ先にお兄様の現伯爵カイルの執務室を訪ねた。
そして、あの麗しくも氷のように冷たい雰囲気のお兄様に、顔を合わせるなりぶん殴られた。
(ファー!? る、ルシウスさまああああ!)
「る、ルシウス様!」
「ぐ……っ。……大丈夫。下がってて、ユキレラ」
「は、はいっ」
慌てて駆け寄ったユキレラを、ルシウスは片手で制して下がるよう申し付ける。
弟ルシウスの失態の責任を取って自主的に謹慎していたリースト伯爵カイルは、それでもいつ王宮に呼び出されても良いように白い軍服をしっかり着込んでいた。
彼はこの国の、魔法魔術騎士団の副団長様なのだ。
ルシウスは、自分もリースト伯爵家の白い軍服姿で当主の兄の前に跪いた。
「ご当代様。こたびの失態、如何なる罰も受ける所存です」
「……お前には失望したよ。ルシウス」
「………………はい」
兄弟間のやりとりはそれだけだ。
あとはもう、兄伯爵カイルはルシウスを無視して机に戻り、執務を再開し始めた。
ルシウスはしばらく同じ姿勢で謝罪に跪いたままだったが、やがて立ち上がると、また深く兄伯爵に向けて頭を下げてからユキレラを伴って執務室を退室した。
「やああ……カズンさまが、カズンさまがあああ……やあああー!」
伯爵の執務室を辞したその足でルシウスが向かったのは、甥のヨシュアのもとだ。
部屋に入ると、中ではあの麗しくも愛らしいヨシュア坊ちゃんが号泣している。
傍らには、ややぽっちゃり気味の、緩い茶色の癖毛をショートボブにした二十代半ばほどの女性が、必死でヨシュアを宥めている。
ユキレラはまだ紹介を受けていなかったが、彼女が伯爵夫人でヨシュアの母親だろう。
「義姉さん」
「あっ、ルシウス君!?」
バトンタッチ、とばかりに伯爵夫人が、息子ヨシュアの小さな身体をルシウスに手渡す。
派手に泣いているヨシュアは身体も顔も真っ赤になって、発熱していた。
「ヨシュア」
「おじさま。カズンさまが。カズンさまがあああっ」
「うん。わかってる。お前を忘れてしまったのだと聞いたよ」
「ひっく……そ、それにね、あえないって、りきゅうにいったらもんがとじてて。やあああー!」
ルシウスが伯爵夫人を見ると。
「お義父様と一緒に離宮を訪れたところ、王弟殿下は昏倒した後、高熱で寝込んでおられるようなの。命に別状はないそうなのだけど」
「そうでしたか」
「王弟殿下の状態が落ち着くまでは会わせられない、と言われてそのまま帰ってきたのよ」
王弟カズンを狙った刺客は、呪詛を仕掛けてカズンのステータスの中で最高値の10あった魔力値を2まで下げたという。
だが、呪詛には反作用というものがある。
敵もよく考えたもので、その反作用が向かう先に、カズンと一緒に遊んでいたヨシュアを設定するという手の込んだことをやらかしたそうな。
当のヨシュアは、元々3と低かったステータスの幸運値が、呪詛の反作用を受けて最低の1まで落ちてしまった。
だがこの様子だと、ヨシュア本人はステータス云々よりも、カズンに会えないことのほうがショックのようだ。
「あっ。ルシウス君、その顔はどうしたの!? まさか旦那様に!?」
「……気にしないで、義姉さん。僕の失態を考えたらこれぐらいで済んだのは軽すぎる罰です」
先ほど、兄伯爵にぶん殴られたルシウスの頬は赤く腫れていた。
夫と同じ麗しの容貌を持つ義弟のそんな顔に、伯爵夫人は慌てて侍女に冷やすものを持ってくるよう指示していた。
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