【石のやっさん旧作短編】ミルカ ミルカ...全てを失った少女 全てを手に入れた少女
石のやっさん
第1話 ミルカ...全てを失った少女
月明りの中、美しい少女ミルカは裸で僕の膝の上に居る。
僕が髪を触るとくすぐったそうに彼女は微笑む。
確かに彼女は僕ミルカだ。
だけど、彼女は僕が好きだったミルカじゃない。
僕の名前はクルダ。
シュベルト侯爵家の長男になる。
侯爵家だから、学園でも取り巻き多く何も困る事は無い。
今年は王族も居なくて、公爵家の者も居ない..だから実質俺の天下だ。
だが、暫くしてから様子が変わった。
勇者アキトと聖女ミルカが転入してきた。
勇者は女神の次に偉い、聖女はその次に偉い..この世界の摂理だ。
今の時代には魔王は生まれていない...だがそれでもそれは適応される。
アキトは絵にかいた良い奴だった、俺の友達でもある。
だが、俺が此奴のどうしても気要らない事が一つだけあった。
それは、ミルカと将来結婚をする事だ。
ミルカはこの世界では決して美少女ではない...黒髪に黒目しいて言えば色白で痩せている。
それだけが特徴の女だった。
ただ、此奴が他の人間と違うのは...
「クルダくん、何しているの? 駄目だよ授業をさぼっちゃ..」
俺に普通に構ってくれる事だ。
俺の母親は幼い頃に死んでしまっていない。
侯爵家の跡取りに生まれた俺に普通に接した人間はいない。
だから、それが新鮮だった。
他の人間は、殆どが俺の顔色を見て話す。
絶対に逆らわないから...面白くない。
ある意味人形みたいな物だ...
まぁ...公爵家や王家から見たら、俺も同じなのだろうが...
「まぁ良いじゃないか? どうせ誰も文句言わないからな」
「文句言わないからじゃなくて...勉強しなくちゃ勿体ないよ」
「勿体ないか?」
「勿体ないよ...ここ凄く学費が高いんだからね」
「そうだな」
こういう所が話していて心地よいんだ。
正直言えば、妻に迎えたい..だが、この国では聖女は勇者と結婚、そういうルールがある。
そしてミルカはクルダを慕っている。
だが、それは男性として好きではなく、生まれつきのパートナーとして好き。
そう言う物に思えた。
そして、アキトは...ただの男だった。
俺とアキトは悪友に近い親友だった。
俺も侯爵家の人間だから少しは解る。
何もかもがルールに乗っ取って生きる人生...お金や地位があっても面白く無いだろう。
魔王が居れば此奴も冒険の旅に出る。
そういう息抜きがあった。
だけど、魔王が居ない時の勇者は、平和の象徴みたいな物だ、祭事に引き釣りまわされるだけだから遣り甲斐も無いだろう。
だから、俺は息抜きに誘ってやった。
そして...此奴を色町に誘ってやった。
最初はただ、女が居るだけの飲み屋だった。
俺はミルカが好きだ。
だが、此奴はどうなんだろうか? 気持ちを聴いてみた。
「お前、ミルカと結婚するんだろう? どうなんだ?」
「どうなんだって?」
「いや、愛しているとか、好きとかだな...」
「そんなのは無いかな? 大体あったのも最近なんだぜ! 神託で勇者に選ばれて...他の街で彼奴が聖女に選ばれてまだ2か月なんだぜ」
「そうだよな...普通はそうだ」
「そうなんだよ!結婚を約束していた幼馴染に泣かれるわ...本当に困ったんだぜ..それに俺は地味なのは好みじゃ無いんだよな」
そうか、余り好みでは無い...そう言う事だ。
「確かに勇者だと結婚相手も決まっていて大変だそうだな」
「そうだな...」
「それじゃ、お前が学園に居る間は俺が色町を案内してやるよ...学園を卒業したらもう自由は無いんだろう」
「良いのか?」
「ああ、その代わり、ミルカを貸してくれないか?」
「それは不味いだろう...俺は正直貸してやっても良いけど...聖女だからお前がヤバイって」
此奴にとってミルカはその程度...どうでも良い奴なんだな。
「違うんだ...俺と普通に話す奴はアキトとミルカだけなんだ、多分これから結婚する奴は傀儡みたいに俺に逆らわない女だ..だから普通に話してくれるミルカは貴重なんだよ...だから、一線は超えないから恋愛の真似事がしたいんだ」
「成程、俺の逆なんだな...俺から見たらミルカはお前にとっての傀儡みたいな女だが...お前からしたら、傀儡じゃない唯一の女、そう言う事か?」
「そう言う事だ」
「なら良いぜ、俺は極力学園に居る間はミルカとお前が居られる時間を作る...その代わり、クルダは色町を案内してくれる...そう言う事か?」
「乗った...金も出してくれるんだろう?」
「ああ、勇者のお金は公金だから使えないだろうからな」
「サンキューな」
乗るだろうとは思った...勇者とはいえ神託を受けるまでは「平民」ましてこの歳なら童貞か、幼馴染とした位だろう。
娼婦なんて買う金はなかっただろうからな。
「今日は...飲み屋に来ちゃったが、明日は別の所に連れて行ってやるから..さぁ話はこれで終わり..綺麗所を呼んでやるよ」
俺は指を鳴らした。
「お呼びですか!」
「此奴は我が侯爵家の大切なお客だ...最高の女性をつけてくれ」
「解りました」
「凄いな...クルダ、こんなに綺麗な人達が世の中に居るんだな...」
そりゃそうだ、此処は高級なサロンだ。
来る客は貴族や大商人ばかり、女の子はその為最高の女の子を用意している、当たり前だ。
「この人はアキ―ル、今でこそ無名だが、将来は必ず出世をする、そうだな俺より上になるかも知れない人だ」
「ルルでーす...お客様凄いんですね、侯爵家のクルダ様からこんな風に言われるなんて」
「メメです、宜しくお願い致します」
「クルダ、本当に凄いな、こんな綺麗な女の子見た事なかったよ俺..連れてきてくれてありがとうな」
「友達だろう気にするなよ」
そうだろうな...こいつ等はこのサロンの看板だ。
「それじゃ、俺は少し席を外すから楽しんでいてくれ」
「おい、クルダ...」
「情けない顔するなよ...俺が傍にいたら羽目が外しづらいだろう? 俺は隣の部屋で休んでいるからな」
「そうか、そうだな」
俺は支配人と話して此処のサロンの横の部屋を使わせて貰った。
近くの大きい娼館の支配人や花街の責任者も呼んで貰った。
侯爵家の力は凄い..ほぼ花街の全責任者が集まった。
「これは俺からの頼みだ...これからアキ―ルという物が我が侯爵家のつけで遊びに来る」
「態々、全員集めるという事はとんでもないお客と言う事ですかな..」
「ああっ...もし、その人間を口説き落として婚姻までした娘..もしくは駆け落ちまでしてここ王都から出て行かせる事が出来る娘、もしくは妊娠まで持ち込む娘がいたら...将来俺がこの花街の後見人になる...そして落としたお店には金貨1000枚...落とした娘には金貨150枚を授ける」
「本当ですか? それは...そこ迄してあの男を何故..」
言っておいた方が良いだろうな...
「これを聴いたらもう後戻りは出来ないぞ..アキ―ルはアキト、勇者だ」
「ほう、凄い話ですな...聖女から勇者を寝取れそう言う事ですな?」
「いやはや凄い...これは世紀の色事勝負...この老舗スティンガーが必ずや」
「何をいっているのかな? この花街で最高の娼婦は家のマチルダだ」
「おい、これは了承した、そう言う事で良いのか?」
「勿論です、最近この花街も堅物貴族から問題視されていますからな...貴方が後見人になってくれれば怖い者は無くなる...まぁ将来の貴方に貸しを作れるのですからな悪く無い」
頼んだぞ...
「おーいクルダ..俺凄くモテるんだな..今迄こんな健気で..可愛いい子が居るなんて思わなかったよ..」
「そうか...良かったな..」
「それでな、ルルとメメがまた会いたいって言うんだ...どうにかしてくれないか?」
2人がウィンクしている..
「いいぜ、親友の頼みだ...どうにかしよう..」
「あんがと..」
「流石に今日は帰るぞ」
「もう少し居たいんだが...」
「明日も来ればよいさ...その打ち合わせがあるからな」
「そうか、そうだな」
馬車の中でアキトに幾つか話をした。
勇者というのがバレると不味いからと言う話しと正体がばれると本音で話してくれなくなるという話をした。
「そういう物なのか?」
「俺を見て解るだろう? クルダ様なんだぞ! ばれたらアキト様になって本音で話してくれなくなるぞ!」
「そうか、そうだよな?」
「それで初めての花街はどうだった?」
「それがおせじかも知れないけどさぁ...ルルとメメが俺の事好きだっていうんだぜ!」
「アキトは真面目にカッコ良いから..それ本音だと思うぞ...だってあそこじゃお前は勇者様じゃないんだからな」
「そうなのか?」
「花街一日目で気に入られる...スゲーなアキト」
「なぁ、俺勇者じゃ無かったら、あんなに綺麗な女の子と恋人になったり出来たのかな?」
「お前謙遜しすぎ...恋人どころか嫁さんになってくれるよこの色男」
「そうか...そんな未来もあったんだな」
ねーよ...
「あと、これ渡して置くぞ」
「これは何だ?」
「このカードを出せば、どのお店も俺のつけで大丈夫だ...他にもルル、メメ以外の女の子を探しても良いんじゃないか?」
「凄いなこれ...だがどうしてこんな事をしてくれるんだ?」
「お前は勇者だ...親友になって貰えて嬉しいんだよ」
「そうか? 本当に悪いな」
「だから、ミルカの件頼むな」
「あのさぁ...何でミルカが良いんだ? あんな地味な女..ルルやメメに比べたら月とすっぽんだぜ」
「アキト、ルル達と話してどうだった?」
「凄く楽しかったぜ」
「そうだろう? それは彼奴らがアキトという人間と話してくれるからだ...勇者じゃなくな...俺は悪いが有名人だから、誰もが侯爵家のクルダとしてしか扱わない」
「そうだろうな..」
「俺に普通に接してくれるのはアキトとミルカだけなんだぜ..まぁもし性別が逆だったらミルカに頼んでアキトと仲良くなれるように頼んだな」
「何となく解る...確かにルルやメメとの会話は最高だった...お前にとってのあいつらがミルカそういう事だな」
ちげーよ
「そうだな...なぁ学園生活は残り約2年間、それが終わったら、お前はもうミルカと二人きりだ...もう他の女と接する事は出来ない可能性が高い、だから、沢山の女と知り合い、話す時間...そして体を重ねるちゃんすをやる...だから、その時間分、ミルカとの時間が欲しんだ」
「おい、体を重ねるって何だ?」
「そのカードがあれば娼館も自由に出入りできるんだ」
「何だか悪いな...そのお前は出来ないのに」
「良いんだ..勇者が親友、聖女とも仲が良い、侯爵家も安泰だ」
「本当に悪いな」
「あと最後に花街には1人で行ってくれ、家の馬車番を起こして自由に使って貰って構わない」
「なんでだ? お前は行かないのか?」
「俺が居ればアキトが居ない事のフォローが出来る、幾ら勇者でもしょっちゅう寮から居なくなったら大変だろう?」
「そうだな...何から何まで悪いな」
次の日からアキトのフォローは凄まじかった...
「ミルカ、ちょっとクルダと話しててくれないか?」
「あの、アキト様は何処に行かれるのですか?」
「少し学園側と話があってな...」
「そうですか?」
凄く不安そうだな...
「ミルカ様..余り不安がらないで..貴族ですが僕はアキトの友達ですよ..悪い貴族じゃないよ?」
「何ですか?それ」
「ありゃ受けないか...ミルカ様がご不安そうなのでおちゃらけてみたのですが..駄目」
「あははっ冗談なのですね?」
「そう冗談...あと喋り方とかは気にしなくて良いですよ、本来はアキト様は勇者..ならばアキト様と呼び、私をクルダ殿と呼ぶのが正しいのですが友達だから、アキト、クルダと呼び合っています」
「そうなのですか?」
「なので、私と話す時は、マナーとか要りませんよ」
「それなら良かったです...私は貴族でなく村娘なので、よく人を怒らせてしまって友達も出来ません..本当に良いのですか?」
「はい」
当たり前だ、俺がその様に仕向けておいたんだから。
俺がミルカと仲良くなったら..アキトは離れていった。
露骨すぎるけど平気なのか? まるで無視しているように見えるぞ。
「私はやはり駄目ですね...アキト様を怒らせてしまったのでしょうか?」
「そんな事無いと思いますよ...多分勇者として拘束される前の自由な時間を楽しんで居るだけじゃ無いですか?」
「それなら良いのですが...私綺麗じゃ無いし地味ですから好みじゃないんじゃないでしょうか?」
「人の好みは解りませんが私には凄く綺麗に見えますよ」
「お上手ですね」
ミルカは本当に綺麗に俺には見える。
貴族という物は親子で余り過ごさない..
小さい頃、俺を世話していたメイドは姉の様に接していてくれた。
だが俺が不用意に「マールみたいなお姉ちゃんと結婚したい」
そんな事を言ってしまった為にマールは首になってしまった。
「俺を誑かした」そういう事で。
俺は素朴な女が凄く好きだ。
ミルカには貴族にはないマールの様な優しさがある。
だから、俺には凄く美しく見える。
「嘘では無いですよ」
この時に見たミルカは耳まで赤くして凄く凄く可愛く綺麗だった。
ミルカは自分が貴族出身じゃないから友達が出来ないと思っているが本当は違う。
俺が裏から手をまわしているからだ...
将来の夫、勇者のアキトが話も碌にしてくれないから..自然とボッチのミルカは俺と二人きりでいることが多くなった。
これで勇者のアキトが居なくなればうまく行くそう思っていた。
3か月後..アキトは居なくなった。
花街からの報告では、娼館に入り浸ってお気に入りの子が出来たそうだ。
そして、女が子供が出来たと話したら、「逃げよう」という話になり...帝国へと手を手と取り合って逃げて行ったそうだ。
思ったより早かったな..しかも妊娠とはな。
約束通り、花街には後ろ盾の約束を、お店には女の子と併せて金貨1150払った..女の子の150枚はどうするのか聞いたら、その娼婦は綺麗な娼婦で本当にアキトを好きになっていたそうだ...金貨150枚あれば平民の暮らしなら遊んで暮らせるのでWINWINらしい。
ちなみ、アキトは俺に「すまなかった」と手紙を書いてカードと一緒に預けていったそうだ。
勇者であるアキトが居なくなった事でミルカの立場は微妙な物となった。
二人で平和の象徴となる筈が、肝心の勇者がいなくなり...その役目もほぼ機能しなくなった。
学園の卒業後は聖女の地位はそのままだが修道女として過ごす事になるそうだ...
今なら俺でも手が出せる。
「入っていいですか?」
「どうぞ...」
「あの」
「私はやはり...駄目な女ですね勇者様に逃げられて..うふふふ」
「あの、」
「本当に惨めですね、やはり私には魅力が無かったんですよ」
「そんな事ありません、ミルカさんは凄く魅力的です」
「だったら勇者様は捨てて逃げ出しませんよ..」
「それは」
「友達もクルダ様1人しか出来なかった..駄目な人間なんです」
「そんな事はありません」
「駄目なんですよ私」
「私はミルカさんは凄く綺麗で優しくて...大好きですよ..」
「えっ...本当ですか?」
「はい」
「凄く嬉しいです...ですが私は聖女です...だから相手は勇者様しか駄目なんです..ごめんなさい」
「そうですか....」
「違う出会いだったら..ごめんなさい」
「そうですか、卒業まで友達でいて下さい」
「はい、私の唯一の友達ですから...すみません」
結局は受け入れて貰えなかった。
俺は魔法薬のお店に来た。
ここは怪しい薬専門店で、禁薬まで扱いがある。
「魅了の秘薬ですかな」
「金に糸目をつけない..用意してくれ」
「2種類ございますよ...古の魔法で作られていてこの2本が最後ですがね」
「違いはあるのか」
「1種類は、その人の想い人と感情が入れ替わる秘薬です」
この薬を使うとアキトの代わりに俺がなると言う事か?
駄目だ...そもそもミルカはアキトを愛してない可能性がある...勇者でなくては無理な可能性が高い。
聖女の役目に忠実な彼女に使って、俺がアキトになっても「勇者」でなく「侯爵」じゃ今より高感度が逆に下がる可能性もある。
「もう一つは?」
「意識に完全に好きという感情を植え付け..嗜好パターンまで改変できる物です」
使うならこちらじゃないか..うん、これならどうにかなる...
「それをくれ」
「ご禁制品ですから高いですよ」
「言い値で払う」
これでようやくミルカが俺の物になる...凄く長かったな...
ミルカは勇者に逃げられた事が凄くショックだったのか部屋に篭るようになっていた。
食事も余り取らないらしい。
「ミルカ..いる」
「ああっクルダさん..」
「食事も余りとらないんだって」
「ええ、食欲も無くて...駄目ですね..私」
聖女としての役目が果たせないのがそんなに堪えるのか..
「仕方ないよ、あんな事があったんじゃな」
「クルダさんの気持ちに正直答えたいとも思ったんですが...駄目なんです...ただでさえ勇者が逃げたのに..私まで逃げられません」
「それは私がどうにかします」
「それは駄目です...これ以上周りの方に迷惑を掛けられません...だから一度だけ言います...私はクルダさんが大好きです、ですが聖女ですから応えられません」
良かった、好きなら本当に良かった..多分、彼女が俺を拒絶するのは責任感だ。
アキトとの結婚も多分責任感だ、それなら良いよなこれ使っても。
「その言葉が聞けただけで幸せです...ありがとう..そうだ、体調が良くなる秘薬を持ってきたんです飲んで下さい」
「クルダさんは本当に優しいんですね...有難うございます」
ミルカは薬を飲み干した。
「さぁ、疲れると大変だからもう寝た方が良いですよ」
「気持ちに答えられなくてごめんなさい」
まさか、これが、本当のミルカと話す最後になるとは思わなかった。
次の日大きな事件が起きた。
「大変です..ミルカ様が可笑しくなった」
廊下から声が聞こえてきた。
直ぐに廊下に出てメイドを呼び止めた。
「一体何が起きたんだ」
「クルダ様..そのミルカ様が急に可笑しくなったんです、喋れなくなり...子供の様になられて」
「何だって」
俺は急いでミルカの部屋に向った。
そこに居たのは、パジャマ姿でハイハイしているミルカだった。
「どうしたんだミルカさん」
ミルカはニコニコ笑いながら俺の方に来ると抱き着いてきた。
嬉しいけど..何が何だか解らない。
ここで俺は気が付いてしまった。
意識に完全に好きという感情を植え付け..嗜好パターンまで改変できる薬。
俺は小説なので使うような物をイメージしていたが、「嗜好パターンまで一瞬で改変できるほぼ洗脳な《魅了薬》」何て実現は不可能だ。
洗脳という物は刷り込みだ。 一瞬で刷り込みまで出来るなんて事は絶対に出来ない。
そう考えたらこの薬は「好き」という感情だけを植え付けて後は全部無くしてしまう...その後は長い時間を掛けて「自分色に染め上げろ」そう言う薬だ。
つまり...俺は..ミルカを消してしまった...そう言う事だ。
「ああああああああっっ」頭の中がグルグル回る。
ミルカ..
「それは駄目です...これ以上周りの方に迷惑を掛けられません...だから一度だけ言います...私はクルダさんが大好きです、ですが聖女ですから応えられません」
ミルカは..俺に心をくれた...「好きだ」って言っていた..それを壊してしまったんだ。
医者が来てミルカを見たが結局
「多分、勇者様の事で心が壊れてしまったんでしょう」終わった。
壊れたミルカは「聖女」の地位を剥奪された。
俺は、彼女が最後まで守りたかった「聖女」も奪ってしまった。
俺は初めて父親に逆らった。
「ミルカと結婚したい」そう伝えた。
初めて親父に殴られた...だが引く訳にはいかなかった。
最後は貴族を辞めるとまで言ったら...
「その我儘を通させてやる...お前が勇者や聖女を親友のように思っていたのを知っている...だがあんなガラクタを妻にするという事は凄いハンデだ、その分お前の教育は半端じゃない事を知れ」
認めてもらえた...
「学園で学ぶ以上の事を学ばせる」
俺は親父によって退学になった。
もしかしたら、ミルカを晒しものにしない為の親父なりの優しさかも知れない。
今、俺は実家で厳しい勉強をしながらミルカと暮らしている。
綺麗な髪も瞳もそのままだ..凄く綺麗で可愛い..だがこれは魂が宿って無い。
俺が好きになったミルカは15年色々な経験や勉強してああいう性格になった。
絶対に同じミルカにはならない。
俺が馬鹿だったから「全部を無くしてしまったミルカ」
だけど...俺はそれでもミルカを愛している...
あの時の言葉は今でも頭から離れない
「それは駄目です...これ以上周りの方に迷惑を掛けられません...だから一度だけ言います...私はクルダさんが大好きです、ですが聖女ですから応えられません」
全て無くしても、ミルカの笑顔はあの時の優しい笑顔と同じだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます