裏と表の仮面高校生
「はぁ、クーラー最高じゃ」
「文明の利器」
七海の部屋で冷房をガンガンに付けて寝転ぶ僕達。
見た目は完全に江戸時代の名家と言われそうな大きな家だが、中身はかなり文明的だ。
冷房もあれば掃除ロボットまで、色々と便利に成っている。広いしね。人力だけでは大変だ。
基本的に七海の家族は趣味や好きな事を仕事にして、他の事は便利な物に頼る。家政婦やロボなど。
「どうぞー」
「失礼します」
家政婦さんがドアをノックして、ゆっくりと開けて中に入って来る。
オレンジジュースを二人分持って来てくれた。
ジュースだけ置いて、部屋を離れた。ただ、その時僕に見せて来た笑顔が頭から離れない。
あのニマニマの笑顔とウィンクはなんだったんだろうか。
「ありがとうございます。頂きます」
「ありがとね」
「いえいえ。きちんと水分補給して下さいね」
暑い中、午前中ひたすらに弓を引いていたので、とても疲れた。
集中力は衰えないが、そのせいで体からの危険信号を無視していた。
だから、今はこうして休憩している訳である。
「ね、何か最近変わった事ある?」
「ん〜特には無いと思うぞ」
僕の膝に頭を預けてゴロリとする七海。
長い前髪の隙間から目を覗かせている。
「ほんと〜」
涼しい空間故に声が緩い。僕も少しだけ気が緩んでいる。
そう自覚しても緩んだままである。
「そうだなぁ。親が再婚したくらいか。それで忙しくて、最近来れなかった」
「再婚? 義兄弟でも出来たァ?」
「あーうん。義妹がね」
「へ〜いくつ? 中学?」
「同級生」
「そっかぁ。同い年か。⋯⋯はっ! 同い⋯⋯いっつ」
「った」
いきなり起き上がり、デコがぶつかり合う。
鈍い音と共にジリジリとした痛みを感じる。一瞬脳を激しく揺らされて、意識が朦朧とした。
「て、はぁ! 嘘でしょ、ま、まさか、お、おお、同じ家に住んでたり?」
「してるな」
「⋯⋯その人は、その、可愛い、ですか?」
「え、何故敬語? ん〜」
僕は白奈さんを頭に思い浮かべる。ニコニコと笑顔を振りまきながら、部屋に侵入して来る姿。
僕のルーティンも全て把握して、起きる時間なども合わせて来る。時にベッドに侵入。
完全にヤバい奴。顔から血の気が引く。
「あ、天音基準じゃなくて一般基準な? 例えばそうじゃな〜学校でどう言われている、とか?」
「あー。結構言われてるよ。お陰様で、日頃向けられる嫉妬の目がウザイのなんの」
「⋯⋯」
「どうした?」
漫画の衝撃を受けた時の顔をして、口をあんぐりと開けている。
「へ、へ〜。や、やぱり、そ、そのの? 生活とか、えと、大変だったり? そ、それとも、やっぱり、鼻の下を伸ばしてたり、へぇ?」
「まじでどうした?」
少し喋り方が変な気がする。だが、それを気にしても仕方がないので、生活を思い出しながら喋る。
「まぁ。風呂入ってたら覗かれそうに成ったり、部屋で着替えてたら覗かれそうに成ったり、下着を盗まれそうに成ったり、行き先がすぐに特定されたり、学校から帰る道も監視されたりしているな」
「何それ怖い」
「ほんとそれ」
そんな会話をして、昼食を頂く事に成った。
七海が一人で作ると言い出したので、ありがたく待つ事にする。
「七海の手料理も久しぶりだなぁ」
「まぁ、最後は最後の大会前の練習じゃしな。ま、その時よりかは腕が上がっているから、覚悟しておくが良い」
「してますよ〜」
鮭の味噌煮、味噌汁、ご飯であった。
和食である。
「うん。美味しい」
「ほんとか! それじゃと嬉しいのぉ」
柔らかい笑顔を見せる。
「てか、かなり髪伸びてるけど、良いのか?」
「うちの高校はそこら辺適当やからなぁ。問題ないの。まぁ、純粋に髪を切りに行くのが面倒なだけじゃが」
「相変わらずだな」
「それがうちじゃ」
そして、夕方まで練習してから帰る事にした。
晩御飯も食べて行けば良いと言われたが、流石にそれは甘え過ぎだ。
「今度ウチにも来てくれ。今度は僕が昼食をご馳走するよ」
「ほほう。それは楽しみじゃな。近々行く事にする」
「あ、土曜日は部活あるから、そのところよろしくね」
「それは同じくじゃ」
別れを言ってから、僕は家に帰る。
駅に向かっていると、豪炎寺さんとすれ違う。
「あれ? 天音さんじゃないですか。珍しいですね。ここまで来るって」
「はい。中学の部活の知り合いに会いに来てましてね。今から帰る所です。仕事の方はどうですか?」
「とっても楽しいです。上司からの重圧も無いし、給料も増えたし、気恥しいですが、友との仲直りも出来ましたし」
「⋯⋯そうですか」
仲直り、ね。通りで最近父親の足取りが軽い訳だ。
豪炎寺さんはきっと、僕に感謝しているだろう。
だが、僕はそこまで感謝されるような事はしてない。
一度、この人を叩き落としたのは僕が裏で糸を引いたからだ。
彼が受けた心の痛みも、全部計画の内。
簡単にこちら側に靡く様に、操作した。
だから、きっとその事を知ったら彼は僕の味方では無くなる。
「そう言えば、天音さんはどこ高なんですか?」
「あー、僕は」
高校の名前を言うと、『え、まじ?』と言う雰囲気で驚く。
少し長話になりそうと言う事で、近くのベンチに座って、自販機でコーヒーを買って飲みながら会話をする。
「天音さんはブラックなんですね」
「まぁ。こっちの方が飲み易いんですよね」
ちなみに豪炎寺さんはエナジードリンクである。
本当に仕事を楽しんでいるのか疑問に成って来るが、この時間帯で帰ってると言う事は、きちんと定時帰りなのだろう。
「天音さんが娘と同じ高校でびっくりしましたよ」
「娘さん、やっぱり同じ高校なんですね」
「やっぱり? もしかしてもう知り合いだったりしましたか?」
「あー知り合いって程じゃないですね。ただ、紅髪が目立つのと、最近は良く目にする感じです」
豪炎寺さんを見かけたら、大抵その後何か起きそうで起きない。
基本的にその番目は横に白奈さんが居るからかもしれない。
そう言えば、体育祭で運が悪ければ当たるかもしれない。
ま、彼女は女子だし問題ないか。
「そうですかぁ。娘は人見知りで目付きも鋭くて、昔から友達が出来ないんですよ。こんな図々しいお願いはダメだと思うんですが、父親として、どうしても。その、天音さん。出来れば娘と仲良くしてやってください」
「⋯⋯善処します」
僕は彼を利用した。そして、彼の行動で僕は少しだけ、本の僅かだが、心がスッキリした。
だから、善処する。
ただ、クラスは違うし、関わろうとすると、隣の女性が鬼に成るから難しい。
優希君に手伝って貰うかな。
⋯⋯はは、結局僕は、自分の事を友達と言う人も利用する考えを持つんだな。
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