城塞浮遊都市殴り込み作戦
城砦浮遊都市パルプタの艦首――シュレドは苛立っていた。
「開幕の魔大砲が相殺されるとは……。それもゴミ王子の判断ではなく、アルヴァ宰相の娘に……。屈辱……! ……だが、装填して撃ち続ければいいだけです。私を馬鹿にした住人共の命を削ってねぇ……!」
シュレドは古代文明の不思議なコンソールを操作して、すぐに魔大砲の魔力充填を開始し始めた。
四ヶ所に監禁されている住人たちを電池のようにして、強制的に魔力を吸い上げている。
海上都市ノアとは違い、住人の同意も必要ない形式なので死ぬまで撃ち続けられる。
住人の数で劣っていて、死ぬまで撃つという選択肢が取れない海上都市ノアは不利なのである。
「これで私の勝ち――圧倒的勝利ですよ!」
まさに滅びるべくして滅びた、悪魔の古代兵器だ。
「ククク……、こちらは浮遊しているという圧倒的アドバンテージ! 海上都市の奴らは手をこまねいて見ているだけしかできない……! 歯がゆいでしょうねぇ、ゴミ王子ぃ……!」
シュレドは両手を天に掲げ、まるで自分が神だと言わんばかりの雄叫びを上げた。
「私こそが! 天に認められし王なのですよ! そう、他の馬鹿共が王を名乗っているのは何かの間違い!! ゴミのような民草を一番上手に使い捨てられる、このシュレドこそが完璧な存在ィィィィイイ!!」
――突如、大きな振動が響き渡る。
シュレドはたたらを踏みながら地震か何かと思ったのだが、ここは浮遊都市だ。
地面と繋がっていないので、地震はありえない。
では、何が起こったのか?
外の様子を映し出したモニターに〝巨大な手〟が城砦浮遊都市パルプタを掴んでいるのが見えた。
「な、なんだと!? これはどういうことだ!?」
***
「ゴルドーの巨大ゴーレムの手を改造したアンカー、どうやらうまく機能したようだな」
海上都市ノアから、ロケットパンチのように射出されたアンカー。
ノアクルたちは、それに繋げられた橋のように太いロープを駆け上がっている。
「こんなこともあろうかと、作っておいて正解でしたにゃ」
「ジーニャス嬢、お主どんな想定をしておったのじゃ……」
「お姉さんが~、空まで運んであげてもいいのに~」
「ムルは俺の運び方が雑すぎるから却下だ」
ジーニャスが最後に提案した作戦。
それは城砦浮遊都市パルプタに直接乗り込むというものだった。
まず、用意してあった巨大アンカー――スキル【リサイクル】で改造したゴーレムの手を発射してパルプタを掴み、そこから精鋭たちが乗り込んでいく。
メンバーはノアクル、アスピ、ムル、ジーニャスと海賊団、闘技場の獣人たちだ。
「俺とアスピ、ムル、ジーニャスと海賊団、獣人たちで四ヶ所に分かれて住人を救出する形でいいんだよな?」
「はいですにゃ。シュレドという方はスルーして、住人を救出するのが先決ですにゃ。下手に戦いになって、魔力を消耗させると吸い上げられる住人が危険ですにゃ」
「そうだな。シュレドが住人をゴミのように捨てるのなら、俺が拾うまでだ」
実際にシュレドがどう行動するかはわからないが、あいつならそうするだろうというのが目に見えている。
一刻も早く住人を救出しなければならない状況だ。
「……でも、よかったんですかにゃ?」
「ん?」
「ノアクル様が直接乗り込むという作戦ですにゃ……。ローズ様、メチャクチャ怒って反対していましたにゃ……」
「……んん、ああ……。それは……まぁ……」
珍しく歯切れの悪いノアクル。
作戦を聞いたローズのジト目を思い出してしまう。
「『殿下自らが乗り込むとかありえないですわ……。お気は確かで……?』とか目が据わっておったのぉ」
「やめろアスピ……あとが怖い……」
「ローズを縄で縛って、強引に来ちゃったもんね~。ノアクルさいて~?」
「ムル、お前まで……。誰か俺の味方はいないのか……!」
後方から付いてきていた獣人たちをチラッと見る。
闘技場で熱い友情を結んだ彼らならきっと擁護してくれるだろう。
「ノアクル、お前のことだ。きっと戦いたくてウズウズしていたのだろう……。僕にもその気持ちはわかるぞ……。でも、きちんと謝っておけ、あのローズ様だ……」
「兄妹! 『俺だって完璧じゃないからな、ミスってくれたらローズが指摘をしてくれ』とかローズ様に言って、舌の根の乾かないうちにこんなことをするとはな! すげぇ度胸あるぜ! 絶対にローズ様に殺されるぜ!」
どうやらスパルタクスとトラキアも、ローズ側らしい。
これから敵地に乗り込むというのに味方がいない。
「ジーニャス……帰還後、ローズのご機嫌取り作戦も考えておいてくれ……」
「それはどんな天才でも無理な相談ですにゃ~」
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