第二章 海賊の少女

幽霊船の調査

 目の前に幽霊船、ノアクルが考えたことはただ一つだった。


「よし、魔大砲をぶっ放そう」

「待て待て待て待つのじゃ! そもそも、あれは本当に幽霊船かというのが……」


 段々とその船体を表した幽霊船は、よく見るとただの壊れかけの船に見える。

 十数人が乗る中型タイプで、あまり見たことがない。


「ボロボロの船が漂ってたら、それはもう幽霊船だろう?」

「もし、何らかのトラブルに巻き込まれただけの船だったらどうするのじゃ」

「たしかに……その場合だったら、問答無用で破壊してリサイクルしようとしていた計画が、後々の賠償金を請求されてひどいことになるな……」

「お主、そんなことを考えておったのか」


 アスピが呆れ顔で見てきたが気にしないことにした。


「それなら中に人がいないことを確かめてからリサイクルしよう。所有者がいなければ俺の海域のゴミだからな!」

「それもどうかと思うのじゃが……人がいるかどうか確かめるのには賛成だのぅ」


 早速、幽霊船とイカダを縄で繋いで、内部へ調査をしに行くことにした。

 ある程度の高さがあって幽霊船へ移動するのが難しそうなので、ムルの力を借りる。


「ムル、ちょっと幽霊船の甲板まで運んでくれないか?」

「お安いご用~」


 ムルはバサッと飛び上がり、ノアクルの頭部をガシッと足で鷲掴みにした。


「ごめんちょっと待って待って。これで飛ばれると頭がすっぽ抜ける予感しかしない」

「え~、以外と大丈夫だよ~。行くよ~」

「いやいやいやまてまてまて飛ぶなせめて優しく両肩を掴むとかあるだ――ッろおおおおおおおおおうわああ高いいいいいい!!」


 ノアクルは首が引きちぎれないように必死に両手で足に掴まり、空中散歩を開始した。

 たった数メートル上昇しただけで異常に怖い。

 やはり人間は陸の生き物なのだというのを理解わからされてしまう。

 何とか無事に降り立つことに成功した。


「とうちゃ~く」

「ぜぇぜぇ……海賊船の調査の前に死ぬかと思った……」

「もしかして、ノアクルって以外と脆い~?」

「人間なら大体がそうだ!!」


 全力でツッコミを入れてから、気を取り直して調査を開始することにした。

 甲板の上は何かで攻撃されたかのようにボロボロだ。

 船内への扉を見つけたので、踏み抜いてしまいそうな床板に気を付けながらそちらへと向かう。


「む、妙な魔力反応があるのぅ」

「え?」


 船室への扉を開けたタイミングで、ノアクルに引っ付いてきていたアスピがそう言った。

 妙な魔力の反応とは何か? とノアクルは聞こうと思ったのだが、どうやらその必要はなさそうだ。

 ドアを開いた瞬間――向こう側にいるスケルトンと目が合った。


「……こ、こんにちは。船員さんですかね?」

『カタカタカタカタッ!』


 不気味に骨が鳴る音が響き、スケルトンは持っていた曲刀カトラスで斬りかかってきた。


「うおわっ!? いきなり斬りかかってきたぞ!! 話が通じねぇ!!」

「そやつはたぶん、ただの魔術で召喚されたスケルトンじゃからのぉ。海戦の船内鎮圧用で放り込まれたんじゃろう」

「単純に目に付いた者を襲ってくるってわけか!? ヤバい、死ぬ、亀ガードを使うしかない!!」

「お主やめるのじゃ! ワシの甲羅で攻撃を防ごうとするな!!」


 ノアクルとアスピがそんなやり取りをしている間に、ムルがスケルトンの頭部を鷲掴みにしてグシャッと粉砕していた。


「ほら~、人間って骨このくらい力を入れないと壊れない~。だから、今度運ばれるときは安心して~」

「……力加減だけは絶対に間違えないでね」


 ムルの恐ろしい強さを再確認しつつ、一行はスケルトンを何体か倒しつつ奥へと向かった。

 アスピが言うには、もう妙な魔力の反応は感じないようだ。

 ホッとして次々と部屋を開けて調べていくが、とても簡素な作りとなっている。

 素人目に見ても長期間の航行用には作られていないとわかるくらいだ。

 そして、一番奥の船長室へと辿り着いた。

 扉を開けたそこには――


「お、女の子?」


 海賊服を着た少女が倒れていた。

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