第5話 純情で始める? 

 予鈴が鳴り、小川先生とともに彼女が続けて教室に入って来た。予想に反しての外見に女子たちはもちろん、男子たちも声を上げずに驚いている。


 席が近くの山屋からは、


「ギャルじゃなくね?」

「だよね。いや、でも……」

「んでも、真面目そうに見えるし良かったな、志優!」


 友達に好きなタイプを教えていただけに、この反応は素直に嬉しい。ギャルで真面目な子がタイプなんて、こんなことは友達にしか教えられないものだからだ。


 近くの席ということもあってか、僕を推薦した女子たちが興味津々で話に加わって来る。


 しかし担任がそろそろ転入生の紹介をしそうなので、すぐに話を終えた。


『はい、みんな静かに! 転入生を紹介します。彼女は柚木崎瑠音さん。今の時期に転入となって大変だと思うので、みんなで協力して教えてあげてください』


 小川先生の言葉に続いて彼女が軽く頭を下げる。今回の転入ではなるべく気を遣わせないということで、彼女から自己紹介をさせなかった。


 どのみち休み時間になれば、質問攻めにあうのでその部分を省略した感じだ。


 彼女の席は都合良く隣が空いてないこともあって、少しだけ離れている。僕と彼女はリモートナビで話す機会があるので、席まで近くになることは避けた形だ。


 休み時間になり予想通りの光景に。彼女に声をかけているのはほとんどが男子で、女子は今のところ様子見といった感じ。


 ところがギャルじゃないことで安心したのか、女子たちも男子に負けじと話しかけて始めている。


 そんなこんなであっという間に下校時間。


「志優くん。デバイスを受け取りに行くので、一緒に行ってください」

「……えっ?」


 いつの間にか僕の席の目の前に柚木崎さんが立っている。

 それも何故か迫力を感じる笑顔で。


「あ、じゃあ、一緒に」


 何とも言えない迫力を感じつつ教室を出ると、クラスのみんなは廊下に出る僕たちを温かい目で見守っていた。

 

「志優くんって、誰にでも優しくていい感じだと思うんだけど、どう?」

「普通だと思います。仲がいい人も少ないし、友達もまだ一人だけだし……」

「ところで、あの子たちとはどういう関係?」

「えっと、腐れ縁で仲良くも無いただの同級生って感じです」


 すぐに教員室に向かうのかと思っていると――彼女は突然振り向く。

 

「――もっと楽に話す? 緊張してますか? それとも……」

「えっ」


 突然の話しかけに頭が真っ白になったかと思えば、気づけば外にいた。

 そして僕たちはデバイスを装着して、その場で会話を始めた。


「えーと……このまま装着しながらだとお互いの顔が見えないというか……」

「うん、それはね。いきなりお互いの顔見ながら会話するのは無理だし、ナビしながら会話よろしくです!」

「ええ!? こ、このままナビを? それって危なくないのかな」

「気にしないでください! 志優くんはナビ。あたしは仲良くなるための会話を始めますので! それとも別なあたしと話すのがお望みかな?」

 

 教室を出た時にさっさと帰り支度をしていたから何かを思っていたけど、まさか一緒に下校するなんて。


 純情そうなギャル、それも純情なお嬢様。

 どっちが本当の彼女なのか、まずは彼女を案内しながら見極めるしかない。

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