第32話 闇の力
「そんなこと、させるものか!」
漆黒の剣を投げつけ、ステラの首筋に近づくマグナの右腕を貫いた。
予想外の攻撃に戸惑っているようだが、すぐに剣を引き抜いて首を切断しようとする動きを止めない。
「いくら攻撃をしようが無駄だ! お前は殺すことにこだわり過ぎて、勝機を失った! お前は全てを失うんだ!」
もう奪われるのは嫌だ。
今まで両親や妹、そして人生を奪われてきた。それに一緒に戦ってきた大罪人達。
ありとあらゆる全てを奪われてきたが、もうさせるわけにはいかない。
「もう奪わせない! 俺はもう手が届く範囲のモノを奪われるわけにはいかない!」
剣を大きく振り上げ、ステラに向けて振り下ろされる。
ノアは炎弾を飛ばして剣の速度を落とすと、二人の間に身体を滑り込ませることに成功した。だが、振り下ろされた剣は止まらずノアの身体を縦に切り裂いてしまう。
「ぐうぅぅ! 俺を犠牲にしてでもステラは殺させない!」
「まさか身体で防ぐとはな。だが、武器もなくどうするつもりだ? そのまま的になるつもりか?」
「武器ならある! そこにあるぞ!」
そう言いながら倒れているステラの武器を屈んで掴んだ。
そして、炎剣ではない漆黒に刀身を染めた未知の魔法を発動し、ノアはマグナの右腕を勢いよく切断した。
「き、貴様! 大罪人の分際で高貴な私の腕を切断するなんて……許すものか……貴様は楽に死ねると思うなよ! 大罪人!」
右腕の切断面に手を置き、地面に滴り落ちる血の上に片膝を付いたマグナは激痛で顔を歪めている。
「お前こそ勝機に踊らされたようだな。俺の力を見誤った! これで終わりだ!」
マグナの首を斬り落とそうとした瞬間、遠くから自身に迫る魔法が見えた。
咄嗟にステラを抱えて距離を取ると、地面に衝突した影響で周囲に煙が立ち込める。
次第に煙が消え始めると、目の前にニアとユティアの姿が見えた。
「マグナ様! ご無事ですか!?」
「あいつがやったの? そうなの?」
ニアが憎しみが籠っている低い声をノアに向ける。
陽気で飄々としている印象だったが、今はまるで違う。親の仇を見る復讐者の目をしていた。それはユティアも同じで、明らかに二人の雰囲気が違う。
「そうだ。どうやら油断をして、勝機を逃したのは私だったようだ」
「それは違います! マグナ様が油断をするなどあり得ません!」
「そうだよ! マグナ様はこの国を変えるんでしょ!? あんな大罪人に負けないで! もっと大きな敵がいるんでしょ!」
国を変えるや大きな敵とは一体何だろうか。
ノアの知らないところで、何か大きなことが起きている気がしてならない。だが、今はそんなことは関係ない。一刻も早くステラをサレア村に連れて行き、治療を受けさせなければならない。
マグナ達がこのまま引いてくれればいいのだが、一向に引く気配が見えない。
「そうだな……こんな場所で私は死ぬわけにはいかない。一旦退いて態勢を整えなければならないな。おい大罪人、今は勝負を預ける……次はないと思え」
「私達があなたを殺します。大罪人として、悪として短い命を終えなさい」
「怒ったからね。マグナ様の右腕の恨みは大きいと思ってよ」
今にも倒れそうなマグナを二人は抱え、ノアの前から都市サレアの方向へ宙を飛びながら移動をしていく。
「終わったのか? 俺はステラを救えたのか……」
ノアは大きく深呼吸をすると、両手で抱えているステラを見た。
どこも怪我は負っていないと一目で分かるが、一向に目を覚まさない。気絶とはここまで目覚めないものなのかと考えていると、遠くから「お兄ちゃん!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん大丈夫!? 凄い戦闘だったけど、あの属性はどうしたの!?」
「ああ、ルナか……シェリアは無事か?」
「ちゃんと応急処置をしたわ。だけど身体はクリスさんだから、シェリアには一切けがはないはずよ。今もどこかに姿を隠してると思うわ」
「まあ、無事ならそれでいいよ。いずれ償ってもらわないといけないからな」
ルナと話して緊張の糸が切れたのか、一気に疲労が襲ってきた。それにマグナに斬られた傷が今になって痛み始め、全身に激痛が走る。
「ていうかお兄ちゃん身体斬られてるじゃん! 早く手当てをしないと!」
「とりあえず、ステラを安全なところに移動してくれ。俺はここで待ってるからさ」
「分かったわ! サレア村に連れて行くから、待ってて! すぐに戻ってくるからね!」
「頼んだぞルナ」
抱えているステラをルナに移すと、一気にサレア村に向けて駆け出しす。
大きく深呼吸をして地面に座ると、近くにあった岩に身体を預けることにした。
「なんとかなったけど、次も闇属性を使えるか分からないな。あの時だったからかもしれないけど、マグナ達が襲ってきたらちゃんと戦えるのか不安だ」
空を見つつ地面に流れる自身の血を触る。
服からズボンにかけて赤い鮮血で染まっており、どう見ても血が流れ過ぎていると分かる。早く治療をしなければ生死に関わるが、今はステラを救えた安心感で満たされていた。
「ま、これでいいさ。ちゃんと騎士としての務めを果たせたかな」
そう言いながら目を瞑ると、意識が落ちていく感覚があった。
このまま死ぬのではないかと薄れる意識で考えると、どこからか「私に罪を償わせるんじゃないの?」と女性の声が耳に入ってくる。
「誰だ? どこにいる?」
声は聞こえるのに姿が見えない。
違う――目の前にいるのに見えないのだ。既に視界の九割がぼやけていて、周囲を認識することができない。しかし艶のあるピンク色の長髪が見えたことで、シェリアが顔を覗き込んでいると理解することができた。
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