第21話 死が迫る瞬間
鋭い一閃が迫る。
無駄がない素晴らしい攻撃だ。今まで戦ってきた敵の中でも上位だろう。
だが、そんなことで怯えられない。ノアは迫る攻撃を受け止め上部に弾くと、中腰になり左手に拳大の炎の球体を出現させる。
「炎弾!」
ユティアの腹部に押し付け、耳を劈くほどの爆発を発生させた。
自身もダメージを受けてしまうがそんなことは関係ない。なぜなら、捨て身の覚悟で挑まなければ殺されてしまう状況が目の前にあるからだ。
「どうだ!? やったか!?」
一度距離を取って様子を見ると、遠くで戦うルナの戦闘音が聞こえる。普通なら戦闘音が聞こえて安心はしないが、今は戦っていることに安心してしまう。
死線を元に戻すと、次第に煙が晴れてユティアの姿が見えてくる。結構なダメージを受けているはずだと構えを解いていると、腹部に確実に炎弾を叩き込んだはずなのにダメージを受けていなかった。
「これが全力ですか? だとしたらガッカリです。大罪人は戦場で戦っているから強いと思っていたのですが、そんなことはなかったようですね」
「何をした!? あの攻撃は近距離で威力の高い爆発を発生させる魔法だぞ! この攻撃は今まで決定打になってきたんだ! それなのに!」
涼しげな表情でいるユティアに絶望してしまう。
なぜ、どうして――そんな言葉ばかりが脳裏に木霊していくが、そんなことは相手に関係ない。
「何を驚いているのですか? ただ単にその攻撃が弱いだけでしょう。次は私がいかせてもらいますよ!」
煙を剣で払いながら突進をしてきたユティアは、顔面目掛けて突きをしてきた。
眼前に迫る切先。その鋭い攻撃を頬が斬られる寸前で身体を斜めにすることでギリギリ躱すことができた。そして躱した状態で斬りかかるが、こちら側を向かずに軽々と死角からの攻撃を受け止められてしまったのである。
「ど、どうして……」
「いけると思いましたか? そんなことはありません。あなたの攻撃など手に取るように分かりますからね」
死角から攻撃がくるとどう判断したのか。
躱してからの攻撃はノアにとって完璧に近い動きだった。あの状態では攻撃がくることを知っていなければ防げないはずだ。
ユティアが言った手に取るように分かるという言葉に惑わされてしまうが、今は隙ができるまで攻撃を続けるしかない。
「防いだからなんだ! 俺はそれぐらいじゃ挫けない!」
「その凝り固まった意地を砕いて差し上げます!」
ユティアはその言葉通り、目で追うのがやっとな速度で斬りかかってくるがノアも言葉通り挫けることなく果敢に斬り合いを始めた。
迫る攻撃に剣を合わせて周囲に鈍い金属音を響かせ、受けきれなければ屈んで避ける。その際に足払いをするが軽々と避けられてしまい流れるまま剣による斬り下ろしが迫るが、地面を転がり頬の薄皮を斬られるだけで大事には至らなかった。
「嘘は言っていないようですね。まさかここまで動けるとは、弱いと言って揺さぶるつもりだったのですか? 流石大罪人ですね」
「俺は嵌められたとはいえ、大罪を犯した。だけど――今はステラの騎士だ! 大罪人だけど騎士として戦う!」
「大罪人が騎士だなんて片腹痛いですよ!」
「そんなことはない! 大罪人だって騎士になれるんだ!」
嵌められたとはいえ大罪を犯したことには変わりない。
大罪人であることや、ステラに騎士にされて救われたことを受け入れている。ノアは大罪人であり騎士だとユティアに言い放った。
「大罪人は騎士にはなれません! やはり大罪人はこの世にいてはいけない存在だ……一気に終わらせていただきます!」
ノアが言い放った瞬間ユティアの雰囲気が変化した。
明らかに目つきが変わり、涼しげな表情は威圧感溢れる怒りに満ちた表情をしている。「そうか」とノアは呟き剣を構え、威圧感溢れるユティアを見据えた。
「お前、大罪人に何かされたな?」
「答える義理はありません」
「家族を殺されたか?」
家族と言葉を発した瞬間、見えない速度でユティアが近寄り剣を振るってきた。
音を置き去りにして斬撃を続けざまに振るってくるが、腕や頬を斬られつつどうにか防ぎきることができたと思っていたが――腹部に違和感を感じて触ると、左手に大量の血液が付着していた。
「ど、どうして……攻撃は全部防いだはず……なのに――!」
地面に片膝を付いて改めて腹部を見ると横腹から血が流れていた。
全て防いでいたと思っていたが、どうやら一手多くユティアが攻撃をしていたようで、見切れなかった斬撃に横腹を切り裂かれたようだ。
「私の方が強かった、ただそれだけです。さあ、大罪人はここで地獄に落ちる時間だ。その罪を抱いて地獄の業火に焼かれなさい!」
首筋に黒色の剣を当てられ、さながら斬首されるような姿になってしまった。
あれほど息巻いていたのに情けない。ノアは悔しい気持力涙を流してしまうが、その姿を見たユティアは汚物を見るかのような侮蔑の眼差しを向けてくる。
「大罪人が人間のように涙を流さないでください。あなたはここで死ぬんです。大罪人らしく朽ち果ててくださいよ!」
「ごめん、ルナ……もっと一緒にいたかった――」
涙で地面を濡らしていると甲高い金属音が耳の側から聞こえた。
一体何があったのかと上を向き焦点を合わせると、そこにはユティアの剣を防ぐルナの姿があった。
「どうして生きるのを諦めてるの! 私が知っているお兄ちゃんは、諦めが悪い性格をしていたわよ!」
「ごめん……」
ただ謝るしかできない。
目の前にいるルナは鎧が砕かれ、内側に着ていたであろうシャツと長ズボンの姿だ。鎧を着ていないので身体中切り傷だらけであり、ニアとの戦闘の凄まじさを見せつけられてしまう。
「さすがは銀氷ですね。あのニアを倒すなんて、甘く見ていたようです」
「よくあんなじゃじゃ馬を制御できていたわね。殺せなくて氷漬けにしてあげたわ」
氷漬けが気になったノアはルナが戦っていた方向を見た。
するとそこには、巨大な氷の中心で大の字になって目を見開いているニアの姿が見えたのである。とても滑稽な姿だが、そこまでしないとルナでさえ倒しきれなかったという証だ。
「瀕死であるとはいえ、人数差は分が悪いですね。マグナ様に怒られますが、ここは退きましょう。大罪人ノア、次は確実に殺します! 覚悟しておきなさい!」
「俺は死なない、ルナに怒られたからな。次は俺がお前を殺す!」
痛む横腹を我慢し、睨む付けてくるユティアを見据えた。
一瞬か何秒かは分からない。短く長い睨み合いの末、ユティアは氷を砕き、力なく地面に落下したニアを抱えて都市サレアの方向へ退いたのだった。
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