それこそ<天敵>
<テント>っつっても、道具はなんにもねえから、葉のついた木の枝をいくつも重ねた屋根を掛けただけの、それこそただの<雨避け>だけどな。
軍でもサバイバル訓練を受けた時に作らされたもんだ。最低でも雨だけは凌がなきゃ、気温が高くても雨に打たれると一気に体力を奪われる。真夏でも土砂降りの中でしばらくいてみろ。凍死する気分が味わえるぞ。
だから俺も、手頃な木に登り、元々あった葉や枝にさらに周囲のそれを集めて屋根状にして簡単なテントを作った。木の上にしたのは、まあ地上だともしかしたらヤバい獣が他にもいるかもしれないからな。
そうは言っても、木の上なら安全か?ってわけでもねえだろうけどよ。要するに気休めだ気休め。
すると、ざっと百メートルほど離れたところに、白い影がちらりと動いたのが見えた。花とかそういうのじゃねえ。もっと大きくて確実に自力で動いてた。
「ふん……せっかくだから正体でも確認してくるか」
取り敢えずのテントも確保したことだし、ここの環境や気を付けなきゃいけねえ生き物についても把握しておくのは重要だしな。
さっきの奴やその仲間についても警戒しながら地上に降りて、白い影が見えた辺りに向かって歩く。
途中でトカゲみてえな奴や昆虫を捕まえて口に放り込みながら。
『しかし、トカゲみてえのはいんのに、ヘビみたいなのはいねえんだな……』
ふとそんなことも思う。地球ならこういう場所だとヘビってのも定番の生き物だったと思うんだが、ここまでまったく見えなかった。単に俺が見落としてただけってえ可能性もあるとしても、ここが地球じゃねえのは確かだから、地球や、地球から持ち込んだ生き物が繁殖した植民惑星の<作られた環境>とも違ってても当然か。
だが、ヘビに限らず毒を持つ生き物ってのも厄介だからな。あと、病原体を持つ小さな生き物だ。
ここにも、蚊みてえな虫がいやがる。蚊といやあ、地球で一番人間殺した生き物とも言われてるくらいには病原体の運び屋として嫌われてるわけで、そういうのも警戒しなきゃならねえか。
まあ、よく効く虫除けもねえここじゃ、そういうのに当たったらそこでおしまいってのも覚悟しなきゃならねえだろうなあ。
俺としちゃその手のは避けたいところだが、案外、そんな感じでコロッと死にそうな予感もあるな。病気の類も、生き物にとっちゃそれこそ<天敵>だ。
そうなった時には諦めるしかねえにしても、取り敢えず今はそうじゃねえし、いちいちビビってても始まらねえ。
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