第66話 時短作戦! vsドラゴン

 さて、どうやってこの有利な状況を作ったかと言うと‥‥‥。

 話は少し過去に遡る。


 数日前、冒険者ギルドにて、俺はアグライアさんたちにある話を持ちかけていた。


「アグライアさん、俺たちゴブリンの森のドラゴン討伐に挑戦したいんですが、協力してもらえませんか?」


「おや、シンヤ君たちもドラゴン討伐かい。ゴブリンの森で会ってからそれほど日が経っていないが、もうそんなにレベルアップしたのかい?」


「いえ、まだまだです。なのでアグライアさんたちにドラゴンへダメージを与えておいて貰いたいんです」


「うむ、協力するのは構わない。しかし、シンヤ君たちも知っていると思うが、ドラゴン討伐は一組ずつしかクエストを受けられないぞ。クエストを受けたパーティーにしかドラゴンへダメージを与える事は出来ないから協力と言っても出来る事は少ないと思うが」


「はい、同時には無理なので、アグライアさんたちにドラゴンへ出来るだけダメージを与えてもらった後、すぐに俺たちが戦いたいと思ってるんです」


「そうは言ってもドラゴンはダメージをすぐに回復してしまうぞ。1時間で大凡20%回復すると言われているので、5時間後にはフル回復してしまう。ここ『ヨイヨイ』から馬車で5時間かかるから、私たちがどれだけダメージを与えても無駄だと思うが」


「クエストを受ける事が出来るのは8時間毎ですよね。なので最寄りの『ヨイヨイ』か王都『ライナライナ』の冒険者ギルドで、8時間後にクエストを受けても馬車で5時間という移動時間を考えると普通はフル回復してしまっている。でも俺たちはレアスキル〈次元の神秘〉で馬車での5時間をカットする事が出来るんです」


「‥‥‥ああ、そういう事か。という事は、私たちはクエストの有効期限である8時間、その終了間際に合わせてドラゴンへダメージを与えるようにして欲しいという事かい?」


「そういう事です。アグライアさんたちからクエストを受けてからキッカリ8時間後に俺たちがクエストを受けて転移すればダメージの残るドラゴンと戦えるんじゃないかなと考えています。それで残りHP20%ぐらいになったドラゴンなら俺たち3人でも倒せると思うんです」


「それは確かに‥‥。しかし、まだ問題はある。失礼ながらシンヤ君レベルの3人だと神殿がある『メイメイ』からゴブリンの森を抜けるだけでも時間と体力を使ってしまうぞ。ゴブリンとドラゴンの連戦は思うより厳しい。特にダンジョン付近に根城を構えるゴブリン総大将たちに囲まれると厄介だと思うが」


「それも大丈夫です。ルージュちゃんがゴブリン総大将を平伏させてゴブリン将軍になったので」


「そうなのか! パーティー内にゴブリン将軍がいるのか!」


「そうなんです。なのでゴブリン総大将に命令して『メイメイ』からダンジョンまでの道を整備してもらっています」


「そこまでしているのか。それなら森を抜けてダンジョンへ行くのも容易だな」


「アグライアさんたちの事もゴブリン総大将へ伝えるので、ゴブリンたちに攻撃される事はありません。ルージュちゃんがちょいちょいとしてニッコリ微笑めば大抵の事は大丈夫です」


「そ、そうなのか」


「はい。それでモノで釣るわけではないのですが、俺たちは称号だけあれば良いので、ドロップアイテムはアグライアさんたちに受け取って欲しいです」


「それは有り難いが、それで良いのかい? 普通はドロップアイテム目的の方が多いのだが」


「全然いいです。勝手なお願いですし」


「そうか‥‥よし、分かった。君たちには世話にもなった、喜んで協力しよう」


「ありがとうございます! アグライアさん」


「それにしても神界の仕事人はアレだな。凄いというか、何というか。手段を選ばないな」



 ◇



 ドラゴン討伐当日、冒険者ギルドにて。


 朝8時にアグライアさんたちがクエストを受けてからキッカリ8時間後の16時。ここから俺たちのドラゴン戦がスタートだ。


「ニーナさん、ドラゴン討伐クエストを受けます。大急ぎで手続きを!」


 夕方からクエストを受ける冒険者は少ないので受付は空いている。


「え、急ぎですか。そうしましたらシンヤ様、こちらの水晶玉に手をかざして。順番にルージュちゃんとパパレちゃんも」


 クエストの手続きを大急ぎで済ませる。クエストを受けたら即〈次元の神秘〉で『メイメイ』へ転移する。


「お、君たちか。こんな時間に珍しい」


「あ、神官さん。すみません、凄く急いでいるもので」


 今日は『メイメイ』の神官さんの話も聞かず、大急ぎで神殿脇にある門を出てゴブリンの森へ入る。

 門を出ると森の奥へ続く道が整備されている。指示通りゴブリン総大将が頑張ってくれたようだ。これはゴブリン将軍のルージュちゃんから褒美を与える必要がありそうだ。

 歩き易くなっている道を小走りで進むとダンジョンの入り口が見えてきた。入り口にアグライアさんたちのパーティーがいる。


「おお、シンヤ君たち、もう到着か。早かったな。予定通りドラゴンへダメージを与える事ができた。7、8割は削ったはずだ」


「十分です! アグライアさん、パーティーメンバーの皆さん、ありがとうございます」


「このダンジョンは一直線で進むだけだ。迷う事はない。頑張ってきたまえ」


「行ってきます」


 真っ暗なダンジョン内を手に持ったランタンの明かりを頼りに進むと大きな空間に出た。

 その空間の壁には小さな明かりが灯り、暗闇の中にドラゴンの巨体を浮かび上がらせていた。


「あれがドラゴンか」


「ドラゴン‥‥初めて見たよ。怖そうだね」


「ドラゴンだっ! カッコいい」


 俺たちはそうしてダメージの残るドラゴンへ対峙するのだった。

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