アポカプリンセス

 ……と言う訳で、当面は捕虜が強引に逃げ出すことは無いだろう。


 コレからの予定としては、頑張って捕虜の待遇改善を勝ち取った、と言いながら豪華な食事を運び込み、一層増えた鞭や痣の跡をさりげなく見せつけて、彼らへのお見舞いを重ねていく。


 彼らはどう思うだろう?

 自分達の為に、日々少女がボロボロに傷ついていくんだよ?


 しかも、平行して回復魔法での献身的な治療も続けていく。


 トドメに、回復魔法の正体は少女の生命力を削って行使される奇跡だと耳にすれば、どうなるか?


 彼らは俺の言う事をなんでも聞く人形になるに違いない。


 ソレを自信満々に説明すると、木村はドン引きしていた。

 あんまりドン引きするものだから、実はまだ親衛隊には説明していなかった。


 説明をするのは捕虜の陣幕とは別の、少し大きめな陣幕の中である。

 先ほどは横柄な態度で演技をしていた親衛隊が、今は俺に跪いている。


 居るのは俺と木村、そして親衛隊の精鋭五十名。


 後で説明するから、と無理矢理協力して貰ったので、こう言う場が必要だったわけ。


 説明すると、質問が待っていた。


「彼らを戦力として取り込もうと考えているのですか?」


 流石ゼクトールさん、話が早い。俺はコクリと頷いた。


「それもありますが、彼らには帝国のやり方が、エルフが本当に悪だったのかすら疑って欲しいのです。本当の敵は魔女ではないか? そんな疑心暗鬼を帝国に広めてくれればと私は願っています」


 しかし、親衛隊からは不満の声があがる。

 伊達にNTRの才能を爆発させていない。


「しかし、彼らは信用出来るのですか? わざわざユマ姫が御身を危険に晒す必要があるとは思えません」


 そう言えばコイツら、『危険に飛び込もうとするユマ姫の首根っこを掴む隊』だった。また俺が危ない橋を渡ろうと、体を張ってる様に見えてしまうようだ。

 言い含める様に説得しよう。


「私のやり方が気に食いませんか?」

「そ、それは……」


 自信満々の俺に、親衛隊が言い淀む。

 確かに相手も忠誠心が厚い帝国騎士のエリート。そう簡単に骨抜きにして取り込む事など出来るのだろうか? と疑問に思うのも当然。


 しかしだよ? 俺も前世の『高橋敬一』の精神で鏡の中の自分を見るけれど。余りにもエグい可愛さと儚さの暴力。

 コレで迫られて落ちない男とか居ないだろ。


 ――疑うと言うのなら、その身で味わってみるか?


 俺はしゃなりと近づくと、親衛隊の肩に手をかけ、耳元で囁く。


「私を止めたいのですか?」

「違っ……いえ、そうです! 無茶をするあなたを止めたいのです」


 理性が勝ったか。しかし、コイツはどうだ?


「そう、じゃあ……コレを」

「そ、ソレは?」


 俺は隠し持っていたとうの鞭を差し出した。


「私を止めたければ、ソレで私を打ちすえなさい。女王の様に」

「そんな! で、出来ません」

「では、私は止まりませんよ? 本当に私を思って止めたいと思うのならば、打ちすえなさい!」


 鞭を口元に、俺はニッコリと笑いかける。親衛隊は茫然自失に鞭を見ていた。

 引き攣った顔で木村がコチラを見てくるが、アイツは好奇心を止められない。そういうヤツだ。


 俺を鞭打ち、泣かせてみたい。


 みんな本当はそう思ってるんだろ?


 女王に鞭打たれる俺を見て、何だかんだオマエらも楽しんでいただろう???


 俺が良いと言っているんだ、欲望を解放して見せろと、俺は迫った。


「あ、う……」


 堪えきれず、親衛隊が鞭に手を伸ばす。その瞬間に囁いた。


「それも、一度や二度では止まりませんよ? 親衛隊五十人で代わる代わる、夜も昼も無く私を打ちすえなさい。そうしなければ諦めませんよ?」

「そ、そんな、出来ません」


 親衛隊の男はパッと鞭を落としてしまう。ふざけろよ。


 ちょっとしたSMプレイなんてのは許さない。殺す気で、死ぬ寸前まで、ズタボロのボロ雑巾になるまで追い込んでみせろ。

 それぐらいの覚悟もなく、俺を止めるのか?


 俺は鞭を拾い、親衛隊の男に握らせて、耳元で囁く。


「良いのですか? 私はとても甘い声で鳴きますよ?」

「あ、う」


 親衛隊の男は顔を真っ赤に、二の句が継げなくなってしまう。

 渡された鞭を握り締め、手がプルプル震えている。


 もう一押ししてやろう。


「打ちますか?」


 俺は跪いて背中を見せつける。ナース服のボタンを外し、はだけさせると、うなじから背中まで丸見えになった。

 鏡で見た俺は知っている。

 うなじと鞭の傷跡が生々しい背中の破壊力を。


 さぁ、鞭を打て、打ってみろ!

 俺を殺して、止めてみろ!


 しかし、幾ら待てども衝撃は来ない。


 不思議に思って振り向けば、既に男の脳はオーバーヒートして壊れかけていた。顔は赤く、目はグルグルと焦点が定まらない。とても鞭が打てる精神状態ではないだろう。


 白けた俺はナース服を着直して、男の耳元で囁いた。


「いくじなし」

「あっ! うっ」


 なじってやれば、男は堪りかねて呻きをあげる。股間はこれ以上なく膨らんでいた。


 才能あり過ぎだろ。正直あきれてしまう。


 俺までドSに目覚めそうだわ。こんな変態の巣窟には居られないと踵を返す。


「じゃあ、さよなら」


 艶やかに、それだけ言い残してクールに去った。


 ……つもりだったのに、凄い形相で追いかけてきた木村に掴まった。首根っこを掴まれ、オーズド伯が居なくなった司令部に引き摺り込まれる。


 え? 木村サン? まさかレイプか? 俺はイヤンと体をくねらせる。


『え? 何? 襲おうっての? このタイミングで?』

『ンだよアレ!? どこで覚えてくんの? 無闇に兵士を刺激するのは止めてくれよ』


 しかし、真面目に怒っている。締め上げられた首が苦しい。


『いや、誤解だって』

『マジで皆で鞭を打たれたらどうすんだよ? 死ぬでしょ普通に』

『まぁ、打たないでしょ。言いくるめる自信は有ったって』

『なんでよ?』


 怪訝な顔をする木村だが、なにせ俺は刺激的なセリフのラインナップには自信がある。


『ソレに関しちゃお前の商売と同じ、知識チートってヤツだな』


 オマエが料理のラインナップを誇っているのと一緒だ。

 そう言っても、木村は困惑するばかり。


『お忘れか? 俺には何十本にも及ぶエロゲーの知識があるんだぜ?』

『思いつきで、エロゲーのセリフを試すな!!』


 なんか、怒られた。解せぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る