死憶の異世界傾国姫

前借りの代償

　弓を求め、北門の詰め所に辿り付く。

　以前と違い、火が消えたように静まり返っていた。

　魔法を使えば忍び込むのは難しくない。開け放たれた二階の窓に飛び込み、ライル少年の記憶を頼りに武器庫の中、壁に掛けられた弓を取る。

　大きい！　俗に言うロングボウ。張力も強く引けるかどうかも解らない。

　だが引く！　引ける気がする。

　『高橋敬一』の意識が分離してから、なんだか体が軽いのだ。その証拠に夜通し走っても息一つ切れていない。

　弓の様子を確かめ、矢を物色し終えると、にわかに詰め所が騒がしくなる。

　聞こえて来たのは切迫した衛兵達の声だった。俺は立て掛けられた武器の影、部屋の隅に身を隠す。

「何だってんだ？　一斉蜂起とやらは成功したのかよ？」

「どうやら別件だ、清掃員のミダナンが駆け込んで来た。清掃業と言いながら裏では色々とやっていたらしいぜ」

「あのミダナンが？　冗談キツイゼ」

「ミダナン以外が、らしい。清掃業社と偽って、地下の管理室を根城にしてたとか」

「おいおい、マジか？」

「人攫い共が捕まらない訳だぜ、地下道を使えば街中どこでも逃げられる。いや街の外へもか」

「で、今からそいつらをとっちめに行くって訳か？」

「いや、そいつらが全員殺されたらしい」

「は？」

「考えてみろよ。清掃業務は領主サマの直轄だぜ？　悪の秘密結社はグプロス卿とズブズブだったんだよ」

「え？　あ？　なんで？　じゃあ人攫いどもも蜂起に巻き込まれて殺されたのか？」

「馬鹿ッ！　グプロス卿にだよ！　俺達にも話が聞こえてくる位ケツに火が着いてるんだ。この街から逃げ出す前にと片づけられたんだとよ」

「清掃業だけに綺麗に一掃されたってか？」

「笑えねぇよ」

　そんな事を言いながら、幾つかの武器を纏めて担ぎ、部屋を出て行く。

　事情は知れた。逃がしてしまったアイツが北門に駆け込んで、衛兵達が動き出した。

　スタングレネードで混乱していた破戒騎士団だが部隊を整え次第、北門を通ろうとするだろう。衛兵達と鉢合わせになる公算はデカい。どうやら面白い事になりそうだった。

◇　◇　◇　◇　◇　◇　◇　◇　◇

　外の様子を窺うと、破戒騎士団と北門の衛兵が睨み合う所だった。

「ご存知でしょうが、我々はスフィールの騎士団です、あーグプロス卿が殺されました」

「何ぃ？」

「つきまして、逃亡した犯人を追うために、北門を開けて頂きたいのですが、宜しいですか？」

「…………」

　破戒騎士団はしゃあしゃあと言ってのける。

　北門の衛兵だってクーデターがあった事は知っている。だからグプロス卿が死んだことに大きな驚きは無いようだ。

　クーデターは成功。だからグプロス卿の下で好き勝手をやっていた破戒騎士団が、スフィールの外に逃げようとしている。

　衛兵達はそう判断したに違いない。尊大な態度で開門を迫る騎士団に対して抵抗を見せた。

「……ここは誰も通していない、グプロス卿殺人の犯人だか知らないが、何かの間違いでは？」

「下水から外に逃げたという情報がありました。開けて頂けますか？」

「チッ……」

　口からでまかせ……の割に、実際に俺は下水から入ってきたので当たらずも遠からず。

　いや、それにしても破戒騎士団が下水の抜け穴を知っているのは意外だな……そうか！　管理室の死体。人攫い達を始末したのもコイツらか！

　北門の衛兵達はグプロス卿への怒りに満ちているように見える。

　隊長であるヤッガランさんがグプロス卿配下のズーラーに殺されたばかりだからだ。

　しかし、訓練に出た衛兵は多くを恐鳥（リコイ）に食われてしまった。いま居る衛兵は半分程度か？　だから蜂起にも参加していない。明らかな戦力不足。

　グプロス卿への怒りはあるが、相手は精強で知られる騎士団だ。抵抗など出来るハズも無い。更に言えば、騎士団はヤッガラン隊長の直接の仇でも何でも無いのだ。

　衛兵達に逆らう理由はなかった。

　渋々と言った様子で開門作業を始めようとノロノロと動き出す。

　今だ！

「ごきげんよう、みなさん」

　俺は北門二階の窓べり、張り出した庇（ひさし）の上に立ち、優雅に声を掛ける。

　混乱する衛兵と騎士達を俺は上から見下ろした。

　こういう場面は上からの登場が鉄則だ。

　ここぞのタイミング。魔法まで使って音も無く跳び乗った。

　だと言うのに破戒騎士団のローグ隊長だけは驚く様子も無く俺を指差す。

「ああ、皆さん彼女がグプロス卿殺しの犯人です、見た目に惑わされないように。森に棲む者（ザバ）の魔法を使いますから」

　余裕綽々の態度が気に食わないが、言っている事は事実だし、認めるのもやぶさかじゃない。

「ええ、私はグプロスを殺しました」

　俺は高らかに宣言する。

「でも、それは死んだヤッガランさんの仇討ちです」

　俺の言葉に衛兵達はざわめく、ヤッガランさんは良い隊長だったに違いない。半分、いや大半は田中の弔い合戦のつもりだが、ヤッガランさんの為と言うのも全くの嘘でもない。

「そして、復讐はまだ終わっていません。グプロス卿の悪事を陰で支えて来たのが破戒騎士団なのですから」

　この俺の一言で一気に潮目が変わった。衛兵達は騎士団に向き直る。先程武器庫から運び出したであろう槍を手に手に構えて、騎士団に向き直る。

　騎士たちは慌てて口々に弁解する。

「馬鹿な事を言わないで下さい、森に棲む者（ザバ）ですよ？　元々こうやってスフィールを引っ掻き回すのが彼女の目的だったのです。それをまぁ、まんまと引っかかってくれちゃって」

「初めからコイツは森に棲む者（ザバ）の脅威を訴えるグプロス卿が邪魔だったんだよ。バッカだよなぁ、思惑通りモノの見事に排除完了って訳。いい面の皮だよアンタ達」

　なるほどね、全部が俺の仕込みだと。そう言いたい訳だ。

　全く腹が立つ。

　何か気の利いた事でも言って反論してやろうと口を開きかけた、その時だ。

「あっ！　ああっ！」

　静まる北門に、男の悲鳴が響く。

　声の主は俺が見逃した男。下水道の掃除人。ミダナンと、そう衛兵達は呼んでいた。

　ミダナンおよび人攫い達は、グプロス卿の汚れ仕事を請け負って、トカゲの尻尾切りにあった。

　そして、実際に尻尾を切ったのは誰なのか？

　グプロス卿の騎士と言ったらコイツらしか居ない。

「どうです？　彼らの声。彼らの姿。あなたの仲間を殺した方々の声と似ていませんか？」

　声なんて似ているハズだと言ってしまえば似ていると感じるモノだ。

　実のところ、俺はソレを狙っていた。

　万一全然別のヤツでも構わない。コイツらだって言わせりゃ良い。

　しかし、そんな小細工は一切不要だったワケだ。俺が言うまでもなく、やはりコイツらが犯人。

　それほどに特徴的な喋りと、雰囲気が、コイツらには確かにある。

　殺人鬼らしい、冷たい声だ。

「そ、そうだ！　コイツだ！　ボスだった親父も、みんな、コイツに斬り殺された！」

　こうも上手く行くとは。

　あの地下室で殺さないで本当に良かった。

　あの頭痛はなんだったのか？　あれも俺を守ってくれる運命の干渉なのか？

　解らない事だらけだが、今は目の前の獲物に集中しよう。

「彼らはグプロス卿の悪事に荷担していました。今、その証拠を消して回っています。私を攫おうとした連中も、彼らの正体を突き止めたヤッガランさんも、みんな殺されました。そして、私もまた、消されようとしている」

「本当か！」

　衛兵達がザワめく。

　俺が人攫いに狙われ、ヤッガラン隊長に心配されていたのは、北門の衛兵なら皆知っているだろう。

　本当は遥かに多くの思惑が交錯してグチャグチャになったのだが、こういう筋の方が解りやすい。

「クソッ、マジかよ騎士様よぉ」

「隊長の仇と思って良いんだな！」

　衛兵達は完全にやる気、これは貰ったか？

　いや、言い訳しようと思えば騎士団の連中はそれこそ何とでも言えるハズ。

　しかし、彼らは弁解などしなかった。

　きっと、そんな必要もないのだ。

　面倒くさそうに肩を竦めた。

「結局、最後にはこうなっちゃうんですかねぇ」

「逆に考えましょうよ、あの森に棲む者（ザバ）の姫様を捕まえるチャンスでしょ」

「いっちょ、やりますかー」

　騎士達は観念する様子もない。それどころか手に手に武器を構え戦意十分言ったところ。

　北門の衛兵達は十八人。案外戦力が残っている。数だけなら二十人の騎士たちと変わらない。

　だが、それを見ても騎士団は余裕の表情を浮かべている。一切負ける気がしないのだろう。

　それも当然。武器も防具も、体格だって全く違う。この世界は栄養状態が良くないのか一般人の身長は低い。

　衛兵と騎士では中学生とマッチョなボディビルダーぐらい体格に大きな差がある。

　戦えば、きっと勝負にならないだろう。

　でもな、俺が居るんだぞ？

　エルフの魔法がさっきの曲芸だけだと思うなよ？

　俺はギリギリと弓を引く。今まで扱っていた軟弱な弓じゃない。長距離射程のロングボウ。

「我、望む、放たれたる矢に風の祝福を」

　お馴染みとなった矢の加速魔法。

　庇の上にのったまま、見せつけるように呪文を滔々と唱える。

　しかも、今日の俺は腕力も魔力も今までとは違う。

　狙い、狙い！　放つ！

　――ビィィィン

　弦が弾かれ、矢が飛んだ。

　パチュン！

　命中。思いの他に軽い音。

　しかし、失敗ではない。逆。

　威力が高すぎて、水風船の如くアッサリと吹き飛ばしてしまったのだ。

　弓を構える騎士の頭部を。

　――ベチュ

　頭部を失った騎士の体は、ズルリと馬上から落下する。

　おぞましい光景。その場の全員が呆然と見届けた。

「散開しろ！　引くな！　押し切れ！　何が何でもアイツを殺せ！」

　最初に動き出したのは、先程までニヤついていた破戒騎士団の体長。ローグだった。

　どうだ？　エルフの魔法の神髄を味わった気分は？

　どんだけ強いか知らないが余裕ぶりやがって。片っ端から吹き飛ばしてやる！

　矢筒から二本目の矢を引き抜くと、さっき『参照権』で呼び出した回路に、再び魔力を流しこむ。

　眼下は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

　騎士達は鋼鉄の兜を身に纏い。衛兵達は腰が引けて逃げ出す者すら現れた。

　そんな中、厄介な敵の隊長はどこだと見れば。命令とは真逆。

　自分一人、逃げる衛兵に紛れながらも距離を離していた。

「チッ！」

　流石に判断が早い！　俺は舌打ちをひとつ、仕方なく他の獲物を狙う。

　――パァァァン。

　再び水袋が弾ける音。

　その後、カンカンと固い金属が石畳を転がった。

　皆がギョッとした表情でジッと見つめる先、転がったのは騎士兜。中身入りだ。

　慌てて鉄の兜を被った騎士達だが、魔法の矢はまるごと吹き飛ばしてしまう。

　精々が数ミリ。鉄だか鋼だか知らないがそんな物で防げる筈も無い。

　それどころか矢は兜を突き破った後、頭蓋骨を粉砕、脳を攪拌した後。首ごと頭を吹き飛ばす。

　見せたかった訳じゃないが、転がった兜からドロリと中身が零れるグロテスクな光景まで皆の目に焼き付けた。

　そしてとうとうこの一矢で、今度こそ騎士達までもパニックに陥った。

「に、逃げろぉー」

　騎士達はゲイル広場を一目散に逃げ散って行く。

　対して一瞬ポカンとした衛兵一同だが、掛け声を上げながら追撃に入った。

　俺は更に三本目の矢を番える。

「我、望む、放たれたる矢に風の祝福を」

　敢えて歌うように呪文を唱えた。

　――ビィィィン、――パァァァン

　逃げ行く騎士の頭をまた吹き飛ばす、コレで三人。

　さぁ、景気よく行きますか。

「四人目！　『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」

　――ビィィィン、―――パァァァン

「五人目！　『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」

　――ビィィィン、――――パァァァン

　魔法を唱え次々と矢を番える。

　馬で逃げる騎士は素早く、一部は既にゲイル広場の中央まで到達している。

　だが距離が有ろう無かろうと、魔法で制御する俺の矢は絶対に外れない！

「六人目！　『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」

　――ピィン

　しかし、六発目に放たれた矢は大外れ。

　間抜けな弦の音と共に見当違いの方角へ飛んで行った。

　すっぽ抜けだ。引き絞り番える前に、矢が手から離れてしまったのだ。

　何だ？　と思い、俺は自分の右の手の平を見る。

「えっ？」

　血の気が引いた。指先の皮は残らず剥げ、筋繊維が見えそうな程。

　勿論血だらけで、この血で矢羽が滑ったのだと一目で解った。

「あっ」

　間抜けな声が漏れる。それもその筈、コレだけの怪我ならば本来は激烈な痛みが伴う筈、なのにそれに気が付かずに矢を放っていた。

　思えば、ここに来るまでも呼吸も乱れずに走り続け、足も痛く無かった。

　丈夫になった物だと思っていたがとんでもない、『高橋敬一』の制御下で怒りに痛みを忘れていただけだった。

　全身の毛穴がブワッと開く、それ程の恐怖が背筋を凍らせる。

　怒りに任せ、俺は体にどれ程の負担を掛けた？

　そうでなければ子供用の弓がやっとの俺が、ロングボウなど引けるハズも無い。

　火事場の馬鹿力みたいなリミッターが外れた力の代償は？

　意識した瞬間に、手が、腕が、肩がズキリと強烈な痛みを訴えた。目の前の光景がグラグラと揺れ始める。

「グッ！　くぅ、ろっ六人目！　『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」

　それでも俺は矢を番え、放つ。歪む視界に回路が歪まないように、呪文で回路を呼び出し固定化する。

　痛くても、苦しくても、本当は体がヤバくても。それでも俺の憎悪は止まらない。

　――ビィィィン、――パァァァン

　余分に握力を込めたお陰で今度は狙った通り、衛兵に追われる騎士の頭を吹き飛ばす。

　やったと思うと同時、その代償は不気味な音と共に俺を襲った。

「ぐっ！」

　肩が外れた。ゴキリと自分の骨を伝わり内側から響いた音は、痛みを戻した途端の幼い体に、強烈な電流を流されたかの様な衝撃をもたらした。

「がっ！　ぐぅぅぅ」

　こんなにも痛いなら！

　痛みなんて意識するんじゃ無かった！

　しかしもう後の祭り、痛みを感じない事に恐怖を抱いてしまった体は、痛みを飛ばす事を受け付けなかった。

　あるいはそれこそ体が、限界も限界だったのかもしれない。力が増したと思っていたが、ただの火事場の馬鹿力。人間は体の持つ百パーセントの力を使えないと言うが、使えないのではなく使えば只では済まないのが正解と聞いた事が有る。

　つまりはそう言う事だ、『高橋敬一』の人格で、まさしく他人事の様に体を酷使した代償がやって来ていた。

　弓を肩に通し、残った左腕で外れた右腕関節を嵌める、再び強烈な痛み。しかも少女のか細い腕力では、いまだ嵌まり切った感じがしない。

「ふぅーふぅー、うっ！」

　荒い呼吸を繰り返していると、急に目がぼやけた。汗が目に入ったのだ。

　染みる目の痛みに慌てて顔を拭うと、頭から水を被ったのかと思う程にビチャビチャとずぶ濡れだった。

　冷や汗だった。

　気が付けば運動した後の爽やかな汗と異なる、気味の悪い冷たい汗が全身を濡らすほどに噴き出していた。

　加えてとっさに血だらけの右手で拭った物だから、汗に血も混じり益々視界がぼやける。

「ぐっ？　がっ！」

　目と手と腕の痛みが混じり、獣じみた悲鳴を漏らす。

　その瞬きの合間、歪んだ視界の端が光った。

　……なんだ？　とは考えない。

　考えたら死ぬのだから。

　俺は庇（ひさし）の上を無様に転がり落ちて、受け身もそこそこに地面へと激突した。

「ぐぎぃ！！」

　その衝撃に任せ、嵌まり切っていなかった右肩を強引に捻じ込んだ。目の前に火花が飛び、全身に電流が駆け抜ける。

　死ぬ程痛いッッッ！！

　痛いが生きてる！　それで良いと思えるのは、転がり落ちる直前に背後で響いた金属音。

　放たれたのは恐らくナイフ。俺を追うように庇の上から転がり落ちたそれが今、右肩を抱き蹲る俺の真横にカランと落ちて来たからだ。

　もし庇の上から動かなければ、投げつけられたコイツが突き刺さったに違いない。

　痛みの余り、目から湧き出した涙が血を流れ落とし、瞬きを三回。戻った視界に映るのは、ローグ隊長だった。

　衛兵に混じり、とっくに逃げたと思っていた。

　しかし、それはフェイク。

　鎧すら脱ぎ捨て、衛兵に紛れ、攻撃に転ずる機会を窺っていたのだ！

「外したか……」

　人殺しの冷たい声。

　ゾッとする。どんな時でも殺す事を考えている人間の声！

　ヤッガラン隊長の死、そして田中の死。

　復讐に狂い、殺意がみなぎる俺が、それでも気圧されて、後ずさる。

　その時、逃げずにいた衛兵がローグに気が付いた。

「おい？　なんだ？　お前は！」

「今、何をした？」

　逃げずに堪えていた二人の衛兵が、無造作にローグへと近づく。衛兵になりすますローグに気付かずに。

　警告しようにも俺は声が出せなかった。

　もし、この衛兵が居なければ、庇から落ちて満身創痍な俺は死んでいただろう。

「はぁ、鬱陶しい」

　涙に滲む視界で、ローグ隊長は腰の剣を引き抜き、無造作に二回振った。

「え？」

「あ？　ぐげ？」

　それだけで二人の衛兵が死んだ。

　他の衛兵は逃げた騎士を追って既にこの場に居ない。

　こんどこそ、逃げ場はない。

「あー被害甚大ですよ、こうなりゃ死ぬ気でお土産作らなきゃ逃げるに逃げられません」

　常に薄目で薄ら笑いを作っていたローグ隊長。しかし今は目を見開き、爛々と光る眼光がこちらを射貫いていた。