こくいのけんし(棒)

 エルフなんて居ない。

 そんな物はファンタジーの産物だ。


 ましてや異世界。

 エルフなんて概念もありゃしない。

 エルフだ何だってのは俺が勝手にそう言っていただけ。


 じゃあ俺が生まれた種族はなんなのか?


 確かに俺達は耳が長い。


 でも、地球だって民族が違えばその程度の身体的特徴は当たり前にあったろ?


 人間にしてみりゃ、森に住む耳長族みたいなもの。奇妙な野蛮人って扱いよ。

 逆に俺達にとっては、森の外の人間こそが蛮族だったんだからお互いさま。


 そんで、この世界は国が違えど言葉は共通。

 だから自分達こそが『人間』で、蔑む相手にあだ名を付ける。


 人間が俺達に付けるあだ名の中で比較的穏当なのが、『森に棲む者ザバ』だ。

 森に棲息する人型のモンスター扱いと言った所で純粋に恐怖の対象だ。

 魔法を使う耳長種族。

 日本で言うと、鬼みたいなモノと思えば理解が早いのではないだろうか?


 対して大森林に住む『人間』は……面倒臭いな、エルフでいいや。


 エルフは大森林の外に住む人間を『無能』とか『這いつくばる者』とか散々に呼んでいた。


 脆弱な生き物とハッキリ見下していて、本を読んでも、エルフと話しても、その優越感が鼻についたほど。


 その優生思想はエルフ同士でも蔓延していて、魔力が高いエルフの戦士こそが本当のエルフだと、勇ましく魔獣を狩る者こそが森の民としての在り方と主張して憚らぬ輩が多かった。

 戦士は戦士以外を、王都に住む民は外の民を、都の外に住むエルフはハーフエルフを見下していた。


 そんな中、英雄エリプス王と人間の間に生まれた俺は、差別の撤廃を訴える少なくないエルフの希望となった。


 平等を訴える為の神輿みこしの様な扱いを受けそうになっていたらしい。

 思えば俺の本当の敵は俺を殺そうとする長老じゃなくて、俺を担いでエルフの世界を壊そうとする『平等派』の連中だったのかもしれない。


 日本人の感覚として主張は正しい。

 しかし、俺は生きるのだけで精一杯だったのだ。関係無い戦いに担ぎ上げるのは辞めて頂きたい。


 だってさ、俺は虐げられる側じゃなくて王制側の人間なんだから、弱き者の代表をやる必要なんてない。平等論は支配体制を揺るがす論理だ。匙加減一つで俺の家族すら傷つける事態になりかねないのだから。


 でも、もう良いだろう。

 もう壊しちゃいけない物は全て壊れた。


 俺は全てを利用する。

 ああ、全てを壊すんだ。

 今度は俺が壊すんだ、全部全部全部全部。


 まず人間を利用するなら『平等派』に乗っかるべきだ。そうじゃないと人間と協力なんて出来ないからな。


 更に言えば、人間と共に生きるなら『俺たちの名前』が必要だ。俺たちは協力的な異邦人として存在を訴えて行かなくてはならない。

 だから俺たちはもう『人間』じゃない。ましてや恐ろしいモンスター『森に棲む者ザバ』じゃない。それどころか帝国に蹂躙された悲劇の民でなくてはならないのだ。


 だったら、新しい名前が必要だろう?


 森に住む者ビジャそれが俺達の名前だ。


 エルフには森に住む者ビジャの名に誇りを持ち、結束して貰う。

 人間には森に住む者ビジャは悲劇の民であり、打倒帝国の切り札としても頼りに思って貰おう。


 さぁ、たった一人で世界を壊す冒険を始めよう!


 村長との話し合いの中。それぐらいの覚悟を一人で固めていたのだが……


「た、田中?」


 いや? え? 田中じゃん、どう見ても!


 村長室で護衛の選定が終わるまでソファーにちょこんとお座りして待っていた俺の目の前。

 ついに現れた護衛は、どう見てもあの田中だった。


 俺は村長室に居ながらにして、村長の本音を探るべく、収音の魔法で盗み聞きを繰り返していた。


 だから、男の声が聞こえた時点で「似てるなぁ」ぐらいには思っていたのだ。

 でも、まさか本人とは思わないだろう?


 なんてったって世界が違うのだ。


 仮にアレが本当に田中として、どうやってこの世界に転生したと言うのだ?


 いや、そもそも転生なんざして居ないんじゃ?


 なにせ、目の前の田中は黒尽くめの中二病を拗らせた様な出で立ちだが、見た目の印象は殆ど前世のままだ。


 違うのは年齢と、なによりその大きさだ。


 デカい。

 ただただデカい。


 身長190㎝を越え、2メーター近いんじゃないか? 地球基準でもデカいが、平均身長の低いこの世界の農民と比べると規格外のデカさだ。


 年齢に関してはどうだ?

 死んだ時は俺たちはピチピチの中三男子、十五歳だったハズ。

 だが目の前の男は三十前の歴戦の戦士の気配を漂わせている。


 流石に印象は違っている。

 ……それでもコイツは田中だ、間違いない。



 なんせこいつは『メガネ』を付けている。



 しかもダテ眼鏡。

 一見して、レンズが嵌まっていないのだ。


 眼鏡に似たアクセサリーなんて聞いたことも無い。


 そうで無くてもこの独特の雰囲気、語り口、見間違うハズがない。


 じゃあなぜ、田中は田中のままなのか?

 普通は転生しても記憶なんざ引き継がない、神はそう言っていた。魂はIPアドレスみたいなものだと、記憶は脳に有ると。


 じゃあその脳みそまるごと、異世界こっちに来たとしたらどうなんだ?


 そうだ、小説でよくあったもう一つのパターン。異世界転生じゃなく『異世界転移』。肉体はそのままに異世界に転移するパターン。


 ひ弱な俺は異世界に転移したって特殊能力の一つや二つで活躍出来るビジョンが浮かばず、どうにも好きに成れなかったジャンルである。



 あいつが転移して来たとすれば、その理由は何か?



 アリがちな所で言うと、神様のミスの補填だったり勇者の召喚だったりするが……


 あ、俺の『偶然』の巻き添え死の補填か? 俺の死が予想の範囲外なら、あいつの死はそれこそイレギュラーも良いところ。


 俺に巻き込まれての異世界転生なのか?

 ……ん? だ、だとしたら!


 異世界モノ小説で最強の代名詞

 『神のミスで』

 『巻き込まれて』

 『苗字は田中』

 全部揃ってるじゃねーかコイツ!


 『妖獣殺し』なんて大層な二つ名でどんな奴が来るかと思ったらオイ、チートか?

 おまえチートで無双しとるんか?


 やってられねー!


 こちとらお前の弔い合戦のつもりで転生してからの十二年間、不健康な体を引き摺って、歯を食いしばって異世界転生の主人公の辛さを噛み締めてたのに、まさかの弔う相手が主役で俺は脇役疑惑ですわ。


 あ、死んだと思われてるけど実は生きてたってパターンもかなりパワー感あるな。


 あー勇者としてわざわざ呼ばれたのに間違って呼ばれた奴にボコられる勇者ってこんな気持ちなのかなー。


「た、田中?」


 思わずもう一度呼んじゃう。

 なんか向こうもガン見してるし、まさか俺に気が付いたのか?


 いや待て、田中と違って俺は前世の面影なんざ無し、ナッシング! 世界を揺るがす予定の美少女だよ?


 でもだったらなんで俺をガン見してるんだよコイツはよー


「あの……あなたは?」


 早く名乗れよ。こちとら姫だよ?

 そしたら田中の奴、やたら良い笑顔を返しやがる。


「ああ、俺は黒衣の剣士田中。『妖獣殺し』って二つ名で呼ばれている、冒険者とでも言うべきかな」


「コ、黒衣の剣士ですか……」



 KO☆KU☆I☆NO☆KE☆N☆SHI!!


 こっちはDON☆引きだよ!


 黒衣の剣士って真顔で言えるのが逆に凄い! 死んで欲しい!


「あの、あなたはどうして? えと……どうしてここに?」

「チッチッチッ」


 田中が舌を鳴らしながら指を振る。


 ウザいです、とても。


 ってか、そのジャスチャーこの世界にあるんか? 初めて見たんですけど?

 その上キメ顔でウィンクを一つ。


「まずは自己紹介、そうだろ?」


 ふぁーーーーー!

 ウザさの大渋滞やーーーーー!

 殺してぇ!


 言わせて貰えば俺、魔法の力で聞いてるからね?


 お前が村長の自己紹介をガン無視して本題を急かした所から、聞いてるからね?


「……そうですね、私はあなた達が言うところの森に棲む者ザバ改め、森に住む者ビジャの国の姫、ユマ・ガーシェント、よろしくお願いします」


 俺の顔や言葉が引き攣っていたのも仕方が無いだろう。言いたい事は山ほど有るが、今は我慢だ。


 それなのに田中の奴は言いたい放題でイライラする、向う脛蹴り飛ばしたい。

 田中の脛を守る為じゃ無いだろうが、そこに村長が割って入って来た。


「今、ビジャと言ったがそれは?」


 流石村長、ソコだよソコ!

 良い所に食いついてくれた。


「ビジャは森に住む者と言う意味です、森に棲む者ザバは蔑称として人間が付けた物でしょう? 我々はそんな恐ろしげな名前で呼ばれたくはありません。我々は自らを森に住む者ビジャと呼称します」



 昨日一晩で考えた設定です。



 言い回しとしては一応は前からあるんだけどね、「我々森に住む者として一丸と成って――」みたいなの、特に平等派の口癖みたいなものだ。


 だからそれなりに説得力があるだろう? 少なくとも村長は納得してくれた。


「なるほど、そう言う事ですか」

「つまり、エルフだろ?」


 はーーー? 田中さん? お前それ日本語だよね? いや英語か? この世界の言葉を使えや!


 コイツは俺を試してるの? 村長達を前に「オッス、オラ地球人」みたいのやらんからね?

 ただでさえ疑われてるのに完全にキチキチ路線だと思われちゃうでしょ。


「える、ふ?」


 ほらー村長とか困ってるだろコレ、この空気どうすんの?


「なんですか? そのエルフと言うのは? 我々の新たな蔑称と考えても?」


 咄嗟に知らんぷり出来る俺。マジで凄いと思うよ、アカデミー賞候補。


「あ、いや違うんだ、むしろ逆、敬意を表する言い方と言うか……スマン忘れてくれ」


 そんで、ワザとらしく頭を搔いて、舌を出す田中殺したい。

 テヘペロのつもりか?

 2メーター近い男がそれやって可愛いとか思ってんのか?


「あなたが適当な事を言って誤魔化す様な人だと言う事は解りました」


 見てると殺意しか沸かないので見ない事に。


「それでな、彼女が王都まで行きたいと言うので護衛して欲しいと思っていたんじゃが……」


 村長はその髭をぶるぶる振りながら俺と田中を見比べて困っている。

 村長に罪は無い、無いどころか相当良い仕事してる。


「私としては、厄介になっている身ですから、その失礼な男が護衛でも構いませんが」


 実際問題、信用出来る奴なんて殆ど居ない中で田中の存在は大きい。


 黒尽くめで経歴不詳、普通に考えたらこれ以上怪しい奴は居ないが、俺はコイツが悪い奴じゃないって知っている。

 強さの方だってもしチートが無かったとしても、この身長だ。剣の腕だってそれなりなんじゃないかと思う。


 とは言え、二回も俺の『偶然』に巻き込まれて死んだら申し訳ない。

 ……とチラリと見やるとなぜかニヤニヤしてる。


 ――もうコイツは積極的に巻き込んで行こう。


 死んだらまた異世界に転移して貰えよな!

 次は針山とか血の池とか名所が豊富で賑やかな所が良いんじゃないか? 地獄とか。


「俺も構わねぇぜ、ただ王都までってなると長いぜ? この村で報酬は出せんのか? 俺は安い男じゃないぜ」


 お前はすぐに地獄へ行け。

 ポーズをキメるな!

 まさか俺をウザ殺そうとしてるの?


 そしてお前、王都までの護衛費用なんて何か月分だよ、この村が出せる訳ねーだろ。

 ほら村長困ってるだろ。


「いんや、村ではそれほどの予算は出せませぬ、まずはスフィールにまで届けて頂ければと」


「おい、スフィールは俺も寄ってきたばかりだがよ、国境付近の都市じゃねーか、帝国に追われた嬢ちゃんは大丈夫なのかよ?」


「しかし、王都までは遠すぎる。そこまでの旅費は出せんし、この辺りで大都市と言えばスフィールじゃろ? それに前線だけに帝国の恐ろしさを知っているハズじゃ、力になってくれる可能性が高いのでは?」


 村長は正しい。

 伊達に髭生やしてない。


 ココは俺も乗っかって行こう。


「私としても、前線の都市で帝国の恐ろしさを語る事に意味はあると考えています、彼らにも相手にされない様では王都に行っても意味がありません」


 すまし顔で答えると、俺の言葉に流石の田中も思案顔で考え込んでいる。


 確かに危ないのは解ってる。でも俺に安全地帯なんてどこにも無いんだよ!


 だったら味方を増やすなり、因果律と言うのか知らんけど、箔を付けると言うか、死ねない理由を積み重ねるのが神曰く唯一の解決策になりうる……らしい。


「オイ、お嬢ちゃん」


 田中の呼びかけに俺は睨む様に見上げる。


「何ですか?」


「解ってて言ってるのか? スフィールは国境の都市、この世界の中心とも言える場所だ、言うなればこの世界のあらゆる危険が渦巻いてるって事だぞ?」


「理解しているつもりです」


 ツーンとしたおすまし顔で答える。

 正直、心配して貰って嬉しいのだがこいつにだけは顔がニヤケる所を見られたくない。そもそもお前の為に転生したんだからね!


「じゃあ帝国の人間だってゾロゾロ居るのが解るだろ? ガラが悪いのだってウヨウヨ居る。エルフ、いや森に住む者ビジャだったか? そのお姫様が居るってなれば帝国だって狙ってくるに決まってるだろ」


「なっ!」


 田中の言葉に、サンドラのおいちゃんが慌てるがまぁ気付いて無かったよな。


「むしろ……」


 言うぞ!

 良いのか?


 オメー、そこまで言わせておいて「やっぱ警護ムズイからやーめた」とか言わないだろうなあぁん?


「私は襲って欲しいとすら思っていますが」

「な!? なんじゃと?」


 村長も流石にビックリ。

 唖然として大きく開いた髭の中から口と歯がハッキリ見えた! モジャモジャしまくってるから、髭じゃなくて毛皮でも張り付けてるのかと思ってた。


「へぇ……」


 ただ、田中の方は予想していたのか目を細めてこちらを窺う様子だ。田中は馬鹿っぽいが馬鹿じゃない、言いたい事は解るだろうよ。


「気に食わねぇな」

「……そうですか」



 俺は命懸けの博打を打とうとしている。



 田中にとってみりゃ年端も行かない少女がだ、そりゃ面白く無いだろう。


「姫様が、何番目の姫なのか、あるいは影武者だかは知らねーし、姫に生まれた義務だかはもっと知らねぇけどよ、嬢ちゃんみたいな女の子が命を張らなきゃ存続出来ねぇ国なんざ、滅んじまったほうが良いとしか思えねぇ」

「……なるほど」


 思わずつぶやいた。

 確かにそう考えるのが普通か、覚えておこう。


「では良かったです」

「良か……った?」



 俺は、笑顔が戻るのを感じた。

 王宮が襲われてから、ずっと俺の顔に張り付いていた笑顔だ。


 もっと言うと、その瞬間に気が付いた。


 俺は田中に会った瞬間にこの笑顔から解放されていたのだと。

 でも、俺はこの仮面と生きて行かなくてはならない。


 ……俺は笑顔を貼り付ける。



「もう滅んでますから」


「なに?」

「王都が落とされ、父も母も、兄も妹も全員死にました、エンディアン王家は滅んだと言って良いでしょう。何番目の姫ですかって? 私が最後の生き残りです」


「……嘘だろ?」


「それに森に住む者ビジャの王都が落とされてから一月も経っていないのです。未だ暫定政権どころかレジスタンスの組織すらなされていないのではないかと思います」


 あり得ないよな?

 さしもの田中もガリガリ頭を引っ掻いて考え込んだ。

 その様子を見ていると、いっそう笑える。


「だ、だったら何か? 帝国に国を攻められてからお前は誰の指示でも無く、自分一人でこの村までやって来たって事か?」


「勿論、そうですが?」


 本当は一人では無かった。

 セレナが居た。


 村の人も付いて来てくれた……でもみんな死んだ。


「だとしたら、まずはエ……ビジャを纏めて再起を図るのが筋だろ? なぜいきなり人間の村に来た? そんな有様で助けを求めたって求められた方も困るだろ」


 そうだよ、こっちは困らせに来てるんだよ!


「そもそも、私は王都奪還が目標とも、エンディアン王家の再興を目指すとも言っていませんが?」

「……は?」


 田中よ、お前に俺の気持ちが解るか? お前が魔獣に無双してる時、俺は一族郎党を無双されてたんだぞ。


 得意気に微笑む俺、田中はいよいよ腹が立ったらしい。


「つまり、あんたはただ引っ掻き回すためだけに、王都ビルダールに行こうってんだな」


「引っ掻き回すなんてそんなつもりはありません」


 そんな穏当に済ますつもりは毛頭無い。全員死んで貰いたい。


「じゃ、じゃあ何のために王都に行こうと言うんじゃね?」


 慌てたように髭の村長が尋ねて来るが、大量虐殺ですなんて言える筈が無い、思い切り髭を引っ張ってやりたいね。


「イタタタタッ! 何するんじゃ!」


 既に田中が引っ張っていた。流石田中さんですわ、頼れる男である。


「私は、人質になりに行くのです」

「ひ、人質かね? うへぇ!?」


 俺の言葉に村長がひっくり返る……。

 気に食わないと田中は舌打つ。


「人質か……」


「はい……、今まで国交も無かった国に助けを求めるのですから人質は必要でしょう? そして生き残った王族は私一人です」


「それじゃあ、結局国はどうにもならねーじゃねぇか。人質ってのは王様本人がやるもんじゃねぇ、その家族とかがやるもんだろ? 唯一の王族の嬢ちゃんが人質じゃ国が纏まらないぜ」


 そっちは知らんよ。

 そもそも王制が維持できるかも知らん、どっちにしろ俺はお飾りの王になるんじゃないか?


 どうせなら最高に輝く舞台で飾られようじゃ無いの。


「ですからエンディアン王家の再興が目的では無いのです、誰が中心に再興し、どんな王家が生まれても構わない。ですが森に住む者ビジャとビルダール王国の同盟には時間は掛けられないのです」

「どういう事だ?」


 そこで俺はパンっと乾いた音一つ、柏手を打って部屋に放っていた照明の魔法を解除する。


「オ、オイ!?」


 急に暗くなった部屋に驚く田中。


 この明かりが俺の魔法だと気が付いて居なかったんじゃないかな?


 凄腕の傭兵が現れたと聞いて、高度な魔法に度肝を抜かせてやろうと画策した照明だった。


 凄腕ならば見破るだろうと思ったが、むしろ俺が田中に度肝を抜かれる始末。

 会話も終盤。ようやく仕込みが実った格好だ。


 やはり魔法の造詣は一流の戦士でも深く無いのか? それとも田中が無知なのか? 後者っぽいのが悲しい。


 だったらもっと驚かせてやろうじゃないか。


「『我、望む、この手より放たれたる光珠達よ』」


 幼少期、最初の頃に使った光の魔法。


 しかし、今となってはアレンジにアレンジを加えて別物だ。

 回路を複雑に組み合わせ、色もサイズも、光球の動きも自由自在。


 部屋に光の奔流が溢れ、七色に輝く無数の光球が俺の指の動きをなぞる。最後には螺旋を描いて駆け巡り、天井に張り付いた。


 村に似合わぬネオンの輝き。

 ゲーミング村長室。完成である。


 俺はドヤった。



森に住む者ビジャの魔法、これが帝国の手に渡り、そして帝国にはそれすら打倒した魔法を無効化する兵器が有る。この二つが揃う意味が解らないでは無いでしょう?」


 いや、そう言えば魔法を無効化する兵器の事、田中に話したかな?

 まぁ良いや。

 俺は立ち上がり、片手を広げ声高に大立ち回り。


「私は王都に向かい、ビルダール王国と森に住む者ビジャの間に同盟を結びます、そして……」


 みんな揃って間抜け面。

 これ俺がDON引きされてる奴か?


 いやここはやり切る。


「帝国を打倒し! その野望を打ち砕く!」


 ポーズを決めて遠くを見つめる俺は、皆と目を合わせられなかった。


 やり過ぎた。

 正直ちょっと恥ずかしい。

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