第5話 卒業式の日に小竹勇司に告白される
卒業式の後、クラスで仲の良かった女子たちと寄せ書きをし合っていると、小竹君が近付いて来た。
「平塚さん、ちょっと良い?」と廊下に連れ出され、一緒にいた女子たちは唖然としていた。
「卒業したら高校も違うし、会えなくなると思って。受験が終わってから、ずっと言おうと思っていたけど、今日まで勇気がなくて言えなくて…僕と付き合ってほしい!」
「いいけど…私なんかで良いの?高校行ったら、もっと素敵な子が見つかるよ!」と言ってみたが、嬉しさで跳び上がりたい気持ちだった。「友だちとしてなら」と付け加えて申し出を受けた。
亜季は私立百合丘女子高校に合格し、中学校の卒業式を迎えていた。小竹勇司とは修学旅行から今日まで特別な事はなく、亜季自身も同級生以上の関係を望んでいなかった。小竹は初めて好きになった男子だったが、心の中で別れを告げていた。一方の小竹は都立の進学校である多摩東高校に合格したが、卒業式の日に亜季への思いを告白した。
平塚さんが百合丘女子高校に合格したと聞いた時に、「おめでとう」とすぐに声を掛けたかったが、出来なかった。修学旅行の時は旅先という事もあって、勢いで声を掛ける事が出来た。それから何回も機会はあったが、断られたらどうしようという気が先行して勇気が出なかった。
今日、思い切って告白して良かった。「友だちとしてなら」と言っていたが、それだけで十分だ。好きな子と会って話をするだけで良く、それ以上の事は考えていない。念願の志望校に受かったものの、この後は大学受験が控えている。女の子に現を抜かしている暇はないが、平塚さんならお互いを高め合う事もできる。母にも紹介するつもりでいるし、純粋な交際になれば良いと思っている。
亜季が教室に戻って報告すると皆に冷やかされたが、仲の良い夏奈と千晴は自分の事のように喜んでいた。そして、馴れ初めが修学旅行だと聞き、同じ班だったのに知らなかった事に驚いていた。
夏奈にも千晴にも、あの時に小竹君と四条大橋に行った事は話さなかった。それ以上に発展するとは考えられなかったので報告の必要もないと思っていたが、今日こんな風に告白されるとは思ってもみなかった。夏奈には散々恋愛を教授していたのに、自分の事となるとどうして良いのか分からない事だらけだ。千晴に聞くのも変だし、ましてや姉の美希には絶対話すまいと心に決めた。
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