第396話 祝福の儀

 今日は祝福の儀のため教会に向かっている。本当はツムギだけを連れて行く予定だったのだが、リヒト男爵に急ぎの仕事が入ったようで、付き添いをお願いされたので婚約者の四人も一緒だ。


 元々婚約者四人で行く予定だったらしく、エリー以外の三人もついて来ている。


「ツムギは欲しい能力はありますか?」


「ロゼ様、もちろん、エドワード様の役に立てる能力で、【ニンジュツ】や【シノビ】といった能力です!」


 忍術と忍びの能力の違いが気になるな。


「どちらも初めて聞く能力ですが、アシハラ国ではよくある能力なのかしら?」


「そうですね、諜報などに優れた能力になります」


「授かるといいわね」


「頑張ります!」


 女性陣五人は仲良く能力の話をしているが、エリーの【ぬいぐるみ探知】は絶対に違うと思うよ。



 ◆



 王都の教会はとても大きいが、豪華絢爛というよりは質素な感じだった。それでも三柱の女神像はとても大きく目立つ。

 

 中に入ると貴族席に案内される。貴族とその関係者は平民とは別に儀式を行うようだ。


 順番は家格の高い貴族から行うのは同じだが、関係者も貴族と一緒に受けられるため、エリーは大公家の関係者扱いで申し込んであるので、今回はトップバッターになる。


 『それでは、行ってまいります!』


 そう言ってエリーは楽しそうに神父の所に向かった。


「エリー様はこちらへ」


 エリーは祭壇の前に行き。三神の女神像の前に跪いて祈りを捧げる。


「――! エリー・リヒト様の能力は【アウラ】です。エリー様はステータスボードを確認してください」


 神父は初めて見る能力に驚いているようだが、エリーはすでにオーラの能力に目覚めていただけに想定内の名前だな。


 オーラはギリシャ語のアウラーやラテン語のアウラに由来している。地球ではオーラよりアウラと発音する国も多かったはずだ。


 ん? ステータスを確認するエリーの顔から血の気が引いて絶望的な表情になった。一体何が書かれているのか気になるな。


 ステータスを確認したエリーが帰ってくるが、ここでは話さない方がいいだろう。


「次は、私が行ってきます!」


 今度はツムギの番だな。ツムギも祭壇の前に行き。三神の女神像の前に跪いて祈りを捧げる。


「――! ツムギ・コウサキ様の能力は【ホウジョウ】です。ツムギ様はステータスボードを確認してください」


 神父はまた驚いているが、今回は僕も驚いている。ホウジョウって北条のことかな? 確か北条家に風魔一族が仕えていたけど、世界が違うから関係ないか。この世界で有名な忍者の名前なのかもしれないな。


 ツムギはステータスボードを確認しているが、さっきのエリー同様、絶望的な顔をして帰って来る。


「二人とも、とりあえず屋敷に帰ってから話そうね」


 ショックを隠し切れない二人を馬車に乗せて屋敷に急いで帰るが、行きと違い、重苦しい空気の帰りだった。



 ◆



 屋敷に帰った僕たちは六人だけで話をすることにした。


「まずは、祝福の儀を受けた順で話を聞くね。エリーの能力は問題なさそうだから、ステータスに何か出ていたのかな? もちろん、言いづらかったら後でノワールに相談してもいいんだよ?」


『能力が【ぬいぐるみ探知】でなかったのです!』


「「……」」


 エリーの声が聞こえる僕とノワールは思わず目が点になった。これはどう慰めて良いのか分からないぞ!


「エリー、さすがに【ぬいぐるみ探知】という能力はないのじゃないかしら?」


 ノワールの言う通りだと思う。


「エリーはすでに能力を使いこなしていたから【アウラ】は妥当なんじゃないかな」


「エドワード様は【アウラ】という能力をご存じなんですか?」


 すかさずロゼが食いついてきた。弱ったな……エリーの能力を勝手に教えるわけにいかないしな。


「エリー、ここにいる人にはエリーの能力を話してもいい? エドワード様が困っているわ」


『ノワールに任せるのです』


 ノワールがみんなにエリーの能力を簡単に説明した。


「なるほど、感情などが分かる能力ですか……エリーはすごい能力を持っているのですね」


『すごいのですか?』


「ええ、わたくしの能力は【水】の属性魔術ですから、ヴァッセル公爵家としては普通です。少しだけフラムやエリーが羨ましいわ」


『ロゼの魔術もすごいのです!』


 エリーがロゼに抱きついた。エリーの声が聞こえなくても、ある程度会話できてしまうロゼの洞察力もすごいけどね。


「エ、エリーはステータスに珍しい記述はありませんでしたか?」


 フラムがエリーに尋ねる。きっと【加護】のことを気にしているのだろう。


『珍しいですか? よく分からないのでノワールに教えます』


 エリーがステータスの値をノワールに説明して、それをノワールがメモしているけど、エリーもそうだったのか……。

 

「……エリー、みんなに教えても良いのね?」


『大丈夫です』


「これが、エリーのステータスの値よ」


 【名前】エリー・リヒト

 【種族】人間【性別】女【年齢】7歳

 【LV】1

 【HP】8

 【MP】60

 【ATK】6

 【DEF】5

 【INT】15

 【AGL】8

 【能力】アウラ

 【加護】モイラ(クロートー)の加護


「エリーにも加護があるのですね」


「『フラムにもあるのですか?』」


「私のは【モイラ(アトロポス)の加護】となっています」


「モイラは同じですのね。エドワード様のモイライ商会に名前が似てますわね」


「ロゼは鋭いね。モイライというのはモイラの複数形のことらしいよ」


「複数形……つまり、エドワード様はクロートーとアトロポスの加護を持っているということでしょうか?」


「そうだね。モイライとは運命を司るクロートー、ラケシス、アトロポスの三姉妹の女神を指す言葉で、僕はラケシス様の加護も持っていることになるね」


 ――!


 ウルスから聞いたことにして、簡単に説明しておく。


「運命の三姉妹の女神ですか? 三柱の女神様以外に女神様がいたなんて……」


「この世界にいる女神様なのか分からないから内緒にしておいてね。ノワール、エリーの家族に上手く説明してもらえるかな?」


「畏まりました」


「加護について現段階で分かっているのは、ステータスの値に影響するってことかな。エリーの【MP】が多いのは加護のせいだね」


「なるほど、確かにエリーの【MP】は多いですね。しかし、モイライの加護を持つエドワード様の婚約者のうち二人が同じ加護を持っているのは偶然なのでしょうか……それよりも、あと一人ラケシス様の加護を持った人が存在する可能性が高いということになりますわね」


 みんながツムギちゃんを見る。


「残念ながら、私ではありません」


 どんよりムードのツムギが答えた。


「ラケシス様の加護を持っているのは私です」


 ――!


 突然のノワールの告白に、みんな驚くのだった。

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