第247話 ぬいぐるみの完成と配達(上)
ノワール嬢とエリー嬢のぬいぐるみが完成したとの報せを受け、工房に行く。
「ぬいぐるみが完成したんですね?」
「これよ!」
セリーヌさんがドンと置いたぬいぐるみは、確かにノワール嬢とエリー嬢の姿をしていて、とても完成度が高い。
「服を着てないじゃないですか!?」
そう、二人のぬいぐるみは服を着てなかった。ドロワーズと肌着のような服は着ているが、それ以外は無い。肌着を着ていなかったらお仕置き決定なのだが、これはギリセーフという事にしておこう。
「服はこれよ」
「なんだ、ちゃんと用意してあるんじゃないですか、着せた状態でもらえますか?」
「エドワード様が着せてみない?」
「どうして僕が?」
「エドワード様にも着せ替えする感覚を体験してもらおうと思って、それとも脱がせる方が良かったかしら?」
この人はいったい僕に何をさせたいんだ!? やっぱりエリー嬢に毎日浄化してもらおうかな……。
「そういうのは必要ないですから……カトリーヌさん申し訳ありませんが、ぬいぐるみに服を着せてあげてもらえますか?」
「分かったわよ。姉さん? そういう事をしているから、浄化されちゃうのよ」
僕が頷いていると。
「浄化と毒キノコはイヤァ――――ッ!」
そう叫んでどこかに走り去ってしまった。
「……一応それなりの効果はあったようですね?」
「そうみたいね、月に1度はエリー様にお願いしたいわね」
「僕は週1でお願いしたいです」
カトリーヌさんに服を着せてもらい、木箱に入れたので、後は届けるだけだ。
◆
エリー嬢の拠点に二人はいるとのことなので、馬車で向かっている最中だ。
先触れを出してあるので、二人が屋敷にいることは分かっている。ちなみに雪が降っているので歩いて行こうとしたら、馬車で行けるよう屋敷までの道のりを完璧に除雪されてしまったので、馬車で向かうことになった。
「みんなには悪い事をしてしまったね?」
「除雪作業の事でしょうか? 優先順位が変わっただけなので問題ありませんね。この時期に外出するのは、貴族とお金のない冒険者ぐらいですから問題ありません」
ヴァルハーレン領ではバーランスの町以外、雪が積もるとほとんどの機能がストップする。ほとんどの人は春から秋まで働いて、冬は家に籠るのが通常の流れらしい。そのせいか翌年の夏から秋にかけての出生率が他領に比べて高いのだとか。
そういえば前回、友達が訪ねてきて遊ぶというイベントがあった訳なのだが、今回のこれは友達の家へ遊びに行くイベントといっても過言ではないだろうと、軽い気持ちでぬいぐるみを届けるつもりだったのだが、その目論見が外れたのを到着した瞬間に発覚する。
◆
馬車が屋敷に到着すると、リヒト男爵家一同から使用人に至るまで外で出迎えていた。
アレっ? おかしいな。
『エリー、ノワール遊びに来たよ!』
『エディ様、いらっしゃい! 何して遊びます?』
みたいな流れを期待していたのだが、なんか違う……。
「ねぇ、ジョセフィーナ。リヒト男爵家がみんな出迎えているんだけど?」
「大公家嫡男で現侯爵であるエドワード様が訪ねるのですから、当然ですね!」
どうやら当然らしい……リヒト男爵家のみなさん、軽い気持ちで来てごめんなさい。
馬車から降りると。
「これは、フィレール侯爵。我が娘へわざわざ会いに来てくださり、ありがとうございます」
「出迎えありがとう。ノワール嬢とエリー嬢に頼まれていたぬいぐるみが完成したので、届けに来ました」
「雪の中を娘のためにありがとうございます。外は冷えますので中へどうぞ」
中に案内されるが非常に居心地が悪い、だってみんな凄く見てるんだもん。
『エディ様、いらっしゃいです!』
「ああ、エリー嬢。こんにちは、雪が積もりましたが寒くはないですか?」
『朝と夜は凄く寒いので、ノワールと一緒に寝ています!』
「ノワールもエリーと一緒なら寒くないのかな?」
「そうですね、エリーは温かいので助かってます」
ノワール嬢やエリー嬢と会話していると。
「エドワード様、少しいいですか? 今、うちのエリーと会話してませんでしたか?」
「あなたもそう思います?
リヒト男爵と奥さんのラシュルさんが質問してきた……アレっ? エリー嬢と会話出来るの知らないの?
「えっと、ノワールと同じで、エリーの喋っていることが分かるようになったのって聞いてないですか?」
「初めて聞きましたわ、ノワール?」
「申し訳ございません。報告するのを忘れていました!」
『ノワールは悪くありません! エディ様と会話しているのを無理やり引き離したのはお父様なんですから!』
しょんぼりしているノワールを見て、エリー嬢が一生懸命かばっている。
「エリー、そうでしたね。リヒト男爵、エリーと会話出来るようになったのは異形の時の話です。あの時ノワールは僕とエリーが会話出来るようになったのを、みんなに説明していたので、少なくともあの場に居た人は知っているはずです。あの時エリーとの会話しているのを強制終了させたのは、リヒト男爵だったと思うのですがいかがでしょうか?」
「……確かに」
「あなたっ! どういう事かしら?」
「いやっ、あの時はエリーとの距離が近かったので……」
「エドワード様、ちょっと主人と話すことができたので席を外しますわ。エリー? エドワード様をしっかりおもてなししてね?」
『分かりました!』
エリー嬢が頷くと、リヒト男爵はラシュルさんに連れて行かれた。
『エディ様、邪魔者は去りました。遊びましょう!』
リヒト男爵、邪魔者扱いされてますよ!
「その前に二人にはこれを渡さないと」
そう言って空間収納庫からぬいぐるみの入った箱を二つ取り出す。
「こっちがノワールで、こっちがエリーですね」
「開けてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ」
二人は箱を開けてビックリした。
『ノワール大変です! エリーがいます!』
「これが私?」
『ノワールにそっくりで可愛いのです!』
「エリーの方がそっくりで可愛いわ!」
二人共気に入ったようでホッとした。
「大切にしてくださいね?」
「『はいっ!』」
「そういえばエドワード様、シュトゥルムヴェヒター君を販売する予定はないのでしょうか?」
『エリーも気になるのです!』
「あれはかなり大きいので、今のところ販売するつもりはないですね」
「そうなんですか……」
『ガッカリです……』
二人の落胆ぶりが凄くて、何だか悪いことをしてしまった気分だ……シュトゥルムヴェヒター君は能力で登録してあるので、出すことができるのだがどうする……。
「今のところ販売はしませんが、二人が気に入っていた様なので、用意してきました」
そう言って能力を使いシュトゥルムヴェヒター君2号とV3を作り、二人に渡す。
「よろしいのですか!?」
『エディ様、ありがとう!』
二人の顔に笑顔が戻り、エリー嬢がダイブしてくるのだが……。
「あらあら、エリーったら」
「エリー! 離れなさい!」
タイミング悪く、エリーの両親が戻ってきたのだ。
『離れません!』
エリー嬢は、さらにしがみついて来るので、赤鬼が降臨しかけたが、ラシュルさんがリヒト男爵を睨むと鎮静化する。
「エリー、いつも言っているように、みだりに殿方に抱きついてはいけませんよ?」
ラシュルさんがエリーに話しかけると、リヒト男爵が大きく頷く。
『エディ様とノワールとお母様以外には抱きつかないので、みだりではありません!』
ノワールが夫妻に通訳すると、リヒト男爵が崩れ落ちた! 抱きつくリストに入ってなかったからだな。僕を睨んでもリストに入る訳ではないので、止めてもらいたい。
「確かにそれならみだりではありませんが……」
ラシュルさんはリストに自分が当選して、男爵が落選したせいか若干嬉しそうだな。しかし、言い淀むとエリー嬢の発言を肯定したことになるんじゃないかなと思うのだった。
――――――――――
近況ノートにてエドワードイメージ画像公開中です。
https://kakuyomu.jp/users/ru-an/news/16817330655590930438
サポーター様向け追加イメージ画像
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます