第7話 エドワード・ヴァルハーレン
部屋に移動して、メグ姉が用意してくれた夕食を食べた。食事の後、紅茶を飲みながらゆっくりと話し始める。
「僕がメグ姉の部屋に入るのも久しぶりだね」
「そうね、5歳まではこの部屋で生活してたから、2年ぶりね。お姉ちゃん、凄く寂しかったわ」
本来この世界の孤児院では、生存率の低い3歳以下の子は引き取らない決まりとなっている。
赤ん坊で孤児となった僕を、メグ姉が神父様に頼み込んで引き取り大切に育ててくれたことを、神父様が亡くなる直前に、こっそり教えてもらったのだ。
今、僕がここで生きているのはメグ姉のおかげで、メグ姉には一生頭が上がらないし感謝しかない。
しかし、5歳の時に、アレンたちに揶揄われたのが原因で孤児院の方で皆と暮らすようになったのだが、前世の記憶が混ざった今なら分かる! あれは僕のことが羨ましくて揶揄ったんだな。
「エディは気絶してまだステータスボードを見てないから、まずはステータスボードの確認からね。一度見てしまえば次から頭の中に浮かぶから」
そう言って、メグ姉が石板を取り出したので確認してみる。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】1
【HP】10
【MP】300
【ATK】10
【DEF】10
【INT】300
【AGL】10
【能力】糸
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
「……」
なんだ、このツッコミどころ満載のステータス。全てが気になるじゃん!
「エディが気を失ってた間に教会の資料室で色々調べたから、まず解ったことから話すわね」
メグ姉が女神様に見えてきた……まぁ元から美人なんだけど。
「まず、能力の『糸』なんだけど教会にある資料を調べてみたのだけど、どこにも載って無かったわ。世界で一人だけの能力の可能性があるわね。
【MP】と【INT】の値だけど、ステータスを貰った直後の数値は10前後が普通だから最初から300あるのはとてつもなく異常よ!
ちなみに【LV】はレベルと呼んで魔物とかを倒して1つ上がるごとに他の数値が上昇するの。
【HP】は体力を表していて無くなると死んじゃうから注意してね、【MP】は魔力を表して数値が高いと能力や魔術をいっぱい扱えると言われているわ。
【ATK】は攻撃力、【DEF】は防御力を表していて、【INT】と【AGL】については何についての値かは謎とされてるの。
【AGL】については素早さを表しているという学者もいるけど、今のところまだ解明されてないの」
賢さと素早さはまだ解明されてないんかい!
「ここまでの話は解ったかしら?」
僕は頷く。
メグ姉は紅茶を一口飲んでから話を続ける。
「次に問題なのが【加護】ね!」
問題だらけらしい。
「教会の資料では【加護】なんて言葉自体存在してないし、その中身も問題ね! 【加護】とつくからには普通に考えれば神様のことだと思うのだけど『モイライ』や『ミネルヴァ』なんて神様もいないし言葉も存在してないから、絶対誰にも言っちゃダメよ! 特に教会関係は危険だから覚えておくのよ!」
僕はさらに頷き、気になったことを聞いてみる。
「メグ姉は教会のシスターだけど大丈夫なの?」
「私? 私は大丈夫よ。だって正式なシスターじゃないから」
爆弾発言だった。
「元々親が死んで育ててくれた神父様に、少しでも恩返ししたくて手伝ってただけだし。そもそも、ハーフエルフの私がこの国で正式なシスターになれるわけないじゃない」
ぶっちゃけ発言だった。
「そんな訳で、加護のことも絶対誰にも言っちゃダメだからね!」
「わかったよ。気をつけるようにするね」
「それじゃあ、最後の問題ね」
「えっ、加護の話が最後じゃないの?」
「何言ってるの。一番の大問題が残ってるじゃない!」
「もしかして名前のこと? 捨てられてたんだから、本当の名前が分かったぐらいなんじゃないの? 家名があったのはちょっと驚いたけど」
「エディ、違うの。本当に要らなくなって捨てられてた場合、家名はステータスから消えちゃうのよ。もちろん、捨てたらすぐ消えるわけじゃないんだけど。ある程度時間が経って、その子のことを知ってる人の記憶から薄れると、普通は消えちゃうの。エディは産まれて間もない感じだったから。7年も経ったら普通は消えちゃうはずなのよ」
「そうなんだ」
「それが消えてないってことは、何らかの理由があるのは間違いなさそうね。たとえば攫われたから探し回ってるとかね。ちょっとこれを見て」
そう言ってメグ姉は赤ん坊を入れる籠を取り出した。
「赤ん坊を入れる籠だね。それに僕が入ったまま捨てられてたの?」
「そう、このエディはこの籠に入ってたのよ。但し捨てられてたんじゃなくて、魔の森で3メートルぐらいの大きな白い狼がこれを咥えていたのを見て、私が『下ろしなさい!』って木の枝を振り回したら置いていったのよ」
メグ姉は勇者だった。よく木の枝だけで立ち向かったな。
「今考えると、私の前に優しく籠を下ろしたり。籠の持ち手の所を咥えてたから、悪い狼ではないのかもね。籠のここに名前を刻んだプレートが付いてるでしょ。これを見てエディって呼ぶことにしたのよ」
籠に付いているプレートにはエドワードと刻んである。
「それでヴァルハーレンって家名なんだけど」
「知ってるの?」
「知ってるどころか結構有名な貴族で、この国では英雄的な感じよ」
そう言ってメグ姉は簡単に描かれた地図を取り出した。
「この町は王都から見れば最南端にある辺境の町だけど、ヴァルハーレン領は王都からさらに遥か北側だからかなり遠いわね。捨てるにしても、攫うにしてもかなり遠すぎるわ。でも西にある魔の森は繋がってるのよね。ヴァルハーレン領と」
地図に描かれている魔の森を指さすとコラビの町とヴァルハーレン領を往復する。
「いったい誰がって。白い狼が?」
「その可能性も考えられるけど、こんなに遠い道のりを大きいとはいえ狼が何日も咥えたまま? 考えれば考えるほど謎ばかりね。少し調べてみたんだけどこんな辺境の町じゃ遠すぎてヴァルハーレン領の情報は得られなかったわ。どうする? エディが望むなら手紙を出してみるのも1つの手段だけど……」
メグ姉が言い淀む。
「僕を暗殺することが目的だった場合は、相手に居場所を知らせることになるし。 メグ姉や孤児院の皆にも迷惑がかかるかもしれないから、手紙は出さなくていいよ。まずは冒険者になってヴァルハーレン領に行くのを1つの目標にしてみようかな」
僕がそう言うとメグ姉は困った様子で。
「そうね、でも一緒にパーティー組む予定だったアレン君たちは……」
「僕の代わりに町長のところのユルゲンを入れたってことを、メグ姉も知っていたんだね。でも結果的に言えない隠し事が多すぎるから良かったのかな?」
「確かにそれはそうだけど、1人でヴァルハーレン領まで行くのはとても危険よ」
「それについてもちょっと考えてることがあるから、明日から色々試してみるよ」
「糸の能力のこと? 私も裁縫とか生産系の能力だと思ってたのだけど違うのかしら?」
「肝心の糸も出なかったしまだ分からないかな……」
そういえば、メグ姉に蜘蛛のアメコミヒーローポーズを見られたんだった。思い出しただけで恥ずかしさが込みあげてくる。
僕が恥ずかしがっていることに気がついたメグ姉は。
「ふふっ。すごく可愛かったわよ、お姉ちゃんの脳裏にしっかり焼き付けたから大丈夫よ!」
全然大丈夫ではなかった。
「今日は疲れたでしょ? せっかくだから久しぶりに一緒に寝ましょう」
嬉しそうに服を脱ぐメグ姉を前に僕は、2年ぶりの抱き枕になる決心をするのであった。
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