聖女は遠隔操作されています



「聖女様ありがとうございます!」


たおやかに微笑む少女に、人々は感謝の言葉を述べる。中には、目の前で起きた奇跡に涙する者もいた。


「傷付いた方を癒すのが私の役目ですから」


感謝に対して、彼女は当然のことと返す。彼女の常套句であり、偽りのない言葉だ。

まさしく彼女は、聖女と呼ぶに相応しい。

そんな彼女の背後には、鎧に身を包んだ大柄な男が立っていた。常に追従する鎧の男は寡黙に彼女を守っていた。

男と話したことがある者はいない。顔を見た者もいない。

国の垣根なく傷付いた者を癒すために旅をする聖女とその護衛は、一時の宿の施しも、貴族や富豪の屋敷より教会や簡素な宿屋を選んだ。その日も管理者のいなくなった町外れの古びた教会を一夜の宿にしていた。

人気のない教会の一室で、眠れるように整えられた寝台に座り、男は向かい合うように椅子に座る。二人きりとなり、男はかぶとを外し、素顔を晒した。


「いやぁ、ほんと聖女様々さまさまだな」


嬉しそうに笑う武骨な男に、聖女はただ微笑むだけだった。


「おかげで人を癒せる」


俺じゃこうはいかない、と男は言った。

聖女はただ微笑む。喋らないのではなく喋れずに。

癒しの力を持つのは男の方だった。

生まれながらに癒しの力を持つ彼は、人が傷付くことに心を痛める優しい青年だった。しかし、癒しの力を持つのは女性が通例の世界で、彼の力は誰にも信じてもらえなかった。

せめて、傷付く人を減らそうと冒険者になり、タンク役に就いた。自身は癒せるので次第に屈強な重装兵になったが、一人でパーティーを守りきるのは困難だった。無傷で帰せないことを悔やむ日々が続いた。

失意のうちに冒険者を辞めようかと思っていた矢先、森で遺体を見つけた。魔物に食い荒らされ、骨と肉塊を残すだけのそれは、どうにか人間と判るものだった。

むごい有様に、せめて人の姿で埋葬してやろうと、男は癒しの力を使い身体の再生を試みた。すると、人の形を取り戻した彼女は生き返った。

しかし、魂はすでに輪廻転生していたようで、ただ彼女はただ生きているだけだった。

魂がなくとも生きている人間を埋葬できない、と男は困った。そうして気付く、彼女が自分の意思で動かせることに。

驚くとともに、男はひらめいた。彼女ごしになら人を癒せるのではないか、と。

その考えは当たっていた。

そうして、現在に至る。男は聖女をベッドに横たえ、自分はドアを背に座り込む。


「今日もありがとう、聖女様」


男は聖女に感謝した。


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