六十七話


 ゴブリンの基本スタイルは奇襲。

 挟み撃ちや待ち伏せ、それに罠を仕掛けて相手を嵌める。

 ビル内部を進むとゴブリンから何度も襲撃を受ける。

 しかし全て撃退してみせた。


「右の店内に数……20体。 隠れて待ち伏せしています。 ベルゼさん」


「……おう」


 まぁ黒髪ロングの能力で、罠以外は看破できるからね。

 ちなみにモンスターハウスに突撃させられるくらい、戦力の信用はされている。

 捨て駒にしようとしている訳じゃないよね?

 先ほど失敗してしまった俺は、大人しく従うのである。


「ギャギャ!!」


 ビルに複数ある衣服のお店。 棚の位置が明らかにおかしい。 一人で店内に入ると、隠れていたゴブリンは奇声を上げ入口を塞いだ。


「……」


「ギャギャギャ!」


「ギャギャ!」


 罠に掛かって嬉しいのか、ゴブリンたちは姿を現し醜く嗤う。 

 汚らしい緑色の体皮、自己主張激しい鷲鼻、四角を歪に歪めた目は赤い。

 手に持つ武器を見せびらかせ、数の優位に酔いしれ罠に掛かった獲物を舌なめずり。 そして一斉に襲い掛かってきた。


「ふっ!」


 高そうな服ごと纏めて斬り捨てる。

 ビルの外では逃げに転じたゴブリンたちも、ここでは逃げない。

 味方がやられても構わず、取りつこうと襲い掛かってくる。


「ギャッ!?」


 こいつら背が低い。

 百五十センチほどの魚頭よりさらに小さく、百三十センチぐらいで小学生くらいの体躯をしている。 

武器も頼りない錆びたナイフ。 店から持ってきたであろうフライパンや割れたビール瓶の方がまだ痛そうだ。

 タキシードの防御力をゴブリンは突破できない。

 ちなみに大根は武器にならんぞ?

 

「はぁっ!」


 ヴォルフライザーを振り回し殲滅する。

 飛び刎ねるゴブリンの首。 凶悪な顔は舌を出し目は驚きに染まる。

 敵以外もめちゃくちゃだ。 大型武器を狭い店で使うのはダメだな。


「お疲れ様です。 この階のエネミーは殲滅しました。 上が慌ただしいです、急ぎましょう」


 手際が良い。

 黒髪ロングは的確に指示を飛ばし、フロアのゴブリンたちを駆逐した。

 うちのメンバーの扱いにはちょっと困っているようだが。


「出番が無いわね」


 玉木さんがロッドで肩をポンポンしている。

 精霊魔法ってビルの中でも使えるのだろうか?

 そもそも精霊とは一体……。



「う……」


 黒髪ロングは口元を押さえ顔を青くさせる。

 

「山木さん。 そちらをお願いしていいですか? ……犠牲者がいます」


「……了解」 


 自衛隊の三人は銃を撃たず槍のように使用していた。

 元々の戦闘技術にスキルも取っているのだろう。 ゴブリン程度には後れは取らないようだ。 

 

「……本当に、慣れませんね」


「……」


 見え過ぎるのも大変だな。

  


   

◇◆◇



 怪物の雄叫びは、六階レストランフロアに響き渡る。

 動かなくなったエスカレーターを駆けのぼる緑色の怪物。

 立て籠もっている人たちは地の利を活かし、なんとか防衛を続けてきたが、ついに防衛ラインを突破された。


「うああああああッ!?」


「なんだっ、……あのデカイ奴は!?」


 エスカレーターの上にバリケードを築き、モップを改良した槍で突きを落とすことで対処していたのだが。 そのバリケードは、大きな緑色の怪物の投擲により破壊された。 


「グギャギャギャッ!!」


 緑色の怪物が投げつけたのは、冷蔵庫。

 発達した両腕は二振りの棍棒を持ち、エスカレーターを登っていく。

 我先にと駆け上る同族を気にせず悠然と。

 

 この集団のリーダーは自分。

 手にした獲物はまず自分に権利がある。 急ぐ必要はないと、クツクツと嗤う。


『風の聖霊――』


 匂いがした。

 美味そうな、いい匂い。

 どこだ、どこだと、大きな緑色の怪物は辺りを見渡す。


『烈風の弾丸、疾駆する風波――エアリアルウェーブ!!』


 匂いの先から凛とした声が響き。

 無数の風の魔弾が飛来した。


「――ギッッ!?」


「吹き飛びなさい!」


 風の魔弾の一発一発に、化物の体躯は踊る。 エスカレーターから弾き出され落ちた先、死神が待ち構える。


「……ん」


「ギギィァゥ……!!」


「凄い怒ってますね……」


 死神は天使に供物を捧げる。

暴れる怪物の首根っこを掴み床に押さえつける。

 天使にヤレと、目で合図した。

 それに答え天使はメイスを振り下ろすが、なかなか殺せない。


「ふぇ! ふゃぁ! ふにゃぁ!!」


「ギギッ……ギィッ……ギッ……」


 撲殺する天使。

 勢いをつけメイスを振るうたびに揺れる天使の双丘。

 死神はニヤつくのを我慢し、さらに凶悪な表情へと変わる。

 まるで怪物が生殺しにあっているのが嬉しいかのように、邪悪な笑みを浮かべているのだ。


「流石っ、エルフっす!!」


「なんだか分からんが、今のうちだ! 救出するぞ」


 集団を率いてた大きい緑色の化物が倒され、怪物たちは困惑している。

 救助隊はその隙を逃さず一気に畳み掛けた。

 追い込まれて立て籠もっていた者たちも、反撃を開始する。


「自衛隊だ!!」


「よっし! 一気に押し返せッッ!!」


 血気盛んな料理人たちが吠えた。

 疲労の限界を超えた体をむち打って、チャンスに賭ける。

 はたして挟み撃ちを受けたゴブリンたちには、なすすべはなかった。

 


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