二話:鬼頭神駆
俺は笑っていた。
昔から喋るのが苦手で、笑ってごまかしていた。
成長と共に変化する体型と顔立ち。
いつしか無口で常に笑う俺は不気味がられ恐れられた。
クラス内のイジメや、名も知らない先輩からのイビリもたくさんあった。 デカイ図体が気に入らない。 金色の髪が気に入らない。 目つきが気に入らない。 どれも自分ではどうしようもないことだ。
残念なことに助けてくれる友人などいない。 喋るのも苦手。 助けてと誰かに懇願することもできなかった。
『神駆。 戦え。 叩きのめせ』
祖父・ジェイソンは元軍人である。
家に引きこもっていた俺に祖父の問答無用な特訓が始まる。
両親も祖父には何も言えない。
神駆と名付けた祖父。 優しく厳しい婿養子な祖父は鬼教官だった。
苛烈な特訓の日々。
イジメやイビリなど、児戯としか思えないほどの苛烈を極める特訓が俺を襲う。 思えば祖父も何故か笑っていた。 孫と遊んでいる感覚なのだろうか?
俺が特訓が嫌で学校に通い出してからも特訓は続いた。
その頃からさらに俺の無口キャラは進んでいった気がする。
体格差。 祖父から授かったCQC。 理不尽な特訓を受ける羽目になった原因に容赦するはずもなく、イジメっこや不良の先輩方もまとめてストレス発散の道具となる。
俺は笑っていた。
【笑いオーガ】と呼ばれてしまうほどに、俺は笑っていた。
◇◆◇
>>>無料ガチャを一回引けます。
頭が痛い……。
「く……」
変な声で目を覚ます。 頭の中で響く無機質な通知音。
ガチャの禁断症状だろうか?
俺は重い瞼を開けチカチカする視界を無理矢理開く。
真っ先に確認したのは窓の外。
すでにそこにはあの時のナニカはいなかった。 ただただ真っ暗な雲が覆っていた。
「ふぅ……」
溜息を一つ。
そして辺りを見渡すとクラスメイトたちも起き上がり始めていることに気づいた。 時刻を確認しようと壁に掛けられた時計に目をやるが、壊れてしまったのか八時十五分で止まっていた。
「んん……」
「え、えっ?」
「どうしたんだ?」
起き上がり始めたクラスメイト。
床で倒れている者、机に伏している者、教壇の上で倒れたままの新垣先生を見て、何かが起きたことを感じたようだ。
「――っ!」
爆発音。
カタカタと窓は揺れ、クラスメイト達の悲鳴が響く。
「うわっ!?」
「キャ!」
この教室は三階の六組。 西校舎の一番上であり右端。
その窓から外を見ると、真っ黒な空へと昇る黒い煙が見えた。
そこは大きな自動車道があった場所。
玉突き事故で爆発? 先ほどのブラックアウトがなんだったのか分からないが、車に乗っている状態で起こればかなり危険だろう。
「痛たた……。 頭痛いです……鬼頭君、何かしました?」
起き上がった教師は頭を押さえ、俺を疑う。
何故、俺を疑うのか? ちょっとイラっとした。
「……」
「嘘です!! ごめんなさいぃいーー」
土下座する新垣先生。
春も終わりの季節。 薄手のブラウスと長めのスカートをはいた大人の女性である女教師をひと睨みしただけで土下座させてしまうとは。
新垣先生が情けないのか、俺の顔が怖すぎるのか……。
「ひゃ!?」
二度目の爆発音。 新垣先生が小さく悲鳴を上げる。
近い。 得体のしれない状況に皆が状況を探ろうとする。 窓から外を見る者、スマホを取り出す者、廊下の外へと出る者。
「スマホが……」
「壊れた!?」
時計も壊れている。
見れば電気もついていない。
磁気嵐でも直撃したのか? それとも、近くのイカレタ国がついに核爆弾を上空で爆発させたのだろうか? 電磁パルスの脅威についてやっていたニュース特番を思い返す。
けれど、ブラックアウトする前に見たあのナニカ。
この現象はもっと不可思議な事の前奏に過ぎないと、俺のカンが囁く。
「みんな! 落ち着いて。 すぐに放送が入ると思うから! 私はちょっと職員室に行ってくるけど、みんなはここで待ってて!!」
土下座から起き上がると新垣先生は急いで教室から出ていった。
取り残された俺たち生徒は呆然とその姿を見つめ、そして騒ぎ出す。
「ど、どうしたらいいんだよ!?」
「っしらねぇよ!」
「わけわかんない……」
俺は木実ちゃんを探した。
不安な表情で、友人二人と肩を寄せ合う彼女。
俺はそれを見て「これはチャンスじゃないか?」などと邪なことを考えてしまう。 非常事態を利用し彼女に近づこう、そんな浅はかで不純な考えが俺の頭の中を巡るも、実際に何かできるようなそんな行動力は俺にはないのだが。
「はぁ……」
最近溜息が多いな。
これが恋煩いってやつかな。
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