ナナの結婚(8)
猫犬兼用の手話作りが始まって3週間が経ち。鈴と同じ大学に通う、獣医学部1年の長谷川は、この3週間、通学途中に鈴の自宅に寄り、タマを下してから大学に通う日々が続き。タマたち3匹を見ていると、もはや人間に思えてきてならない。
猫犬兼用の手話は、人間が使っている手話か基本になっているが、さすがに人間ように指の動きはできない。そこで、指を使わずに2本の前足だけを使い、手話ができないか考え。まるでジェスチャーのような気もするが、手旗信号の要素も取り入れ、複雑にならないように、とりあえず50の単語を完成させ。ナナがメインとなって猫犬兼用の手話を作り、それをミミとタマが検証する。
そんな中、ナナ以上にタマは熱心に手話を作り取り組み、ナナに鋭い意見を連発していた。そうなると、ミミとしては、ナナとタマ2人で手話を作っているように思え、2人に負けじと意見を出していた。
完成した猫犬兼用の手話単語50を鈴たちにも確認してもらうために、2階のスタッフルームにみんな集まり。そこには、角野教授と長谷川も参加し。文句のつけようもない猫犬兼用の手話になっていた。
このあと、猫犬兼用の手話用アプリを作り、特別会員制度を設け。タマがモデルとなり、手話単語50の動画を長谷川が撮影し、手話マニュアルを作成し。この件の元になった問い合わせのメールの飼い主たちに、特別会場にて猫犬兼用の手話セミナーの案内状をメールで送った。
ナナを知る人たちは、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。ナナが話しかけた猫や犬たちが、ここまで人間の言葉を理解するとは想定外の出来事が起こり。鈴は、この先のことを心配し、手話説明会の案内状のメールに、こんな文章が追記されていた。
今回の件で、大変ご迷惑をおかけしています、本当に申し訳ありません。そこで、ご家族のワンちゃん、猫ちゃんたちをできる限りお守りします。何かありましたら当動物病院までご連絡ください。
もしこの件が世間に知れ渡ると、生物研究者たちが研究材料として、研究依頼をお願いに来るかもしれません。大事な家族を研究材料にさせる訳には行きません。
極端な例ですが、宝くじ1等、5億円が当たったとします。このことを他人に話しますか。私だったら絶対に話しません。なぜなら、そのお金を狙って来る連中が現れるかも知れないからです。
想像して見てください。大事な家族が奪われたりするんですよ。そこでお願いがあります。この件は、絶対に口外しないでください。
なぜ猫や犬たちが人間の言葉を理解するのか、私はこう解釈します。動物と人間との密接度が大きいということです。
古来より、動物と人間がどれだけ長く接してきたか。その時間が長い動物ほど人間よりになって行き、人間の環境に触れている時間が長いほど密接度が大きくなる。そして、そのDNAが受け継がれ、無意識のうちにいろんな情報が蓄積され、人間の環境そのものが大きく影響します。
猫も犬も人間と密接し生きている。毎日のように人間の言葉を聞き、時にはテレビを見たりする。いろんな情報と言葉が定着したと思われ。極端な言い方をすれば、人間化しているということです。
以上のことが追記され。この日、この件に関してすべてのメールの返事が届いていた。
全員、猫犬兼用の手話セミナーに出席し。喜ばしいことに、みんなこの件に関して、絶対に口外しないと書いてあり。院長のメッセージに納得したと。そして、この件のことは謝らないでくださいと書いてあった。
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