ナナの結婚(6)

 翌朝、木村動物病院では、診察営業時間1時間前に、診察台の上にはタマがちょこんと座り、対面するようにナナもちょこんと座っている。タマには一応、事前に診察の目的を長谷川から聞いて知っている。

「タマ、診察の前にいくつか質問するね。ここに来た目的はわかる?」

「わかってる。俺が人間の言葉を理解しているかどうかを確認し。その上で体に異変がないか調べるんだろう!?」

「すごいね。そこまで人間の言葉を理解しているとは、もしタマが喋れたら、私と同じということね。ところで人間の言葉を理解できるって、どんな感じ?」

「どんな感じって、聞かれても、なんか不思議な感じかな」

「不思議な感じかー、ってどう不思議なの?」

「お前なー、言葉にできないから、不思議だろう!?」


 この後、いくつかタマに質問し、問診は終わった。体調は変わりなく、食欲も睡眠も特に変わりなく、問題はない。ただ、人間の言葉を理解することで、逆にそれがストレスになる可能性を鈴は心配していた。


「タマ、注射、大丈夫? そばにいてあげようか?」

「はぁ!? お前、俺をバカにしてるだろう? 俺が泣くとでも思ったのか?」

「……」

「だったら、そこで見とけ!?」

 その数分後、鈴は血液検査用の注射器を手に、タマに近づいて来る。その様子をナナはジッと見ていると。

「タマ、チックって痛くても、動いちゃダメだからね、我慢だからね」

「残念だったな。お前、院長の腕を知らないのか……!?」


 その結果、タマは痛みもなく、泣くはずもなく。ナナは、ちょっとタマをからかっただけで、院長の腕は日本一だと思っている。

 この後も、長谷川も立ち会い、CT、MRI、血液検査に異常はなかった。ただ、脳の一部が活性化している現象が見られ、特に問題はないと、鈴と角野教授は判断し。この件の問い合わせの返事をメールした。

 追記として、特に問題はないです、ご安心ください。しばらくこの環境になれるまで体調や行動の変化には十分に気をつけてください。飼い主様の声を聞いています。ただ、人間の言葉を理解するといって、調子に乗っての話しかけるのもいかがかと思います。動物たちにも都合というものがありますのでご注意をお願いします。


 このあと、この件に関してもう1匹診察を受ける猫がいる。それは、ナナがここに来て初めて友達になった、田中先生の飼い猫の雌猫のミミ。

 タマは、長谷川と一緒に鈴の家に行き、タマがナナに用事があるようで、ミミの検査が終わるのを待っている。


 診察台の上にはミミがちょこんと座り、対面するようにナナもちょこんと座っている。ミミには一応、事前に診察の目的を田中先生から聞き知っている。

「ミミ、久しぶりね。2ヶ月ぶりかな、診察の前にいくつか質問するね。ここに来た目的はわかる?」

「うん、わかるよ。私が人間の言葉を理解しているかどうかを確認して、その上で体に異変がないか調べるんでしょう?」

「ミミもすごいね。そこまで人間の言葉を理解しているとは、もしミミが喋れたら、私と同じということね。ところで人間の言葉を理解できるって、どんな感じ?」

「なんか不思議な感じだよね。私、もの凄くうれしいの、だって真奈美ちゃんの言葉がわかるんだよ、それって凄くない……? でも、どうやってそのことを伝えていいのか、わかんないの」


 これまでのケースでいえば、飼い主が質問すると、うなずいたり、首を横に振ったり、それで伝わった。日頃のそんなことはしないのにどうして、そんな疑問から今回の件が発覚した。


 しかし、ミミの場合は、田中先生が落ち込んでいると寄り添い、動物病院でのことを嬉しそうに話すと、黙ってそばに行き耳を傾け、何かしらリアクションを起こす。「ただいま、今日も元気だった」、「昨日は、ごめんね」、と声をかけると、うなずいたり、首を横に振ったりしても、ナナを毎日見ているせいか、カウセリングの猫や犬たちを見ているせいか、その行動に気にも留めず。だからといって、体調の変化や、そういったことは見逃してはいない。

 本当は一番に田中先生がこの件に気づくべきだったと、ミミのサインを見逃したことを反省し、ミミに謝った。


 この後、田中先生も立ち会い、CT、MRI、血液検査に異常はなかった。ただ、タマと同じように脳の一部が活性化している現象が見られた。

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