第4話 王都
コールマン伯爵は、シアに答えたくなければ答えなくてもいいと前置きをしてから、色々と質問をしてきた。
「シア君、君はカール様の息子だと名乗ったけど、フルネームを知らなかったよね?」
「はい。カールとしか聞いていませんでした」
「では、お父さんが冒険者だったことは知っていたのかい?」
「母さんに聞きました。30年前に森に父さんがやってきて、それから一緒にいたそうです」
「お母さんのお名前は?」
「マリアナです」
「マリアナさんは森に住んでいたのかな?」
「はい。古代龍です」
「……古代龍」
それから、シアはマリアナから教えてもらったように、自分がカールに拾われてから今までのことを説明した。
「信じられないことも多いが、何よりも昨日現れた古代龍とそのフェンリルが真実だと証明しているね。君が会いたいと言っているクレインという冒険者は、冒険者ギルドのグランドマスターだよ」
「グランドマスター?」
「まぁ、わからなければ、とりあえず偉い人だと思ってくれたらいいよ」
「はい。クレインさんは偉い人なのですね」
「クレインは王都にいるのだよ。明日馬車を出して一緒に王都に行こうか。今日は遅いからゆっくりと休んでくれるかな」
そう言って、コールマン伯爵は話を終わらせた。
次の日、シアはコールマン伯爵と小太郎と一緒に馬車に乗り王都への道を進んでいた。
馬車の周囲は警護隊が囲み万全の態勢であったが、突如小太郎が空を見上げて唸り出した。
シアも馬車を止めた方がいいとコールマン伯爵に告げたので、コールマン伯爵は平原にある街道の真ん中に馬車を止めて周囲の確認を警備隊に行わせた。すると、上空から3頭のワイバーンがシア達のいる馬車を狙って飛んできていることが確認された。
ワイバーンは翼竜とも言われる魔物で、知能と魔力を持つ龍種とは区別される。体長50メートルほどの蜥蜴状の体に長い首と大きな翼と長い尾をもつ。その口は大きく裂け強靭な顎と牙をもち、鋭い鉤爪を利用して空中から地上の獲物に襲い掛かる凶暴な魔物であった。
「このあたりにワイバーンが出るなど報告を受けていないぞ」
警備隊が慌てて臨戦態勢をとる。だが、ワイバーンの飛行速度が思いのほか早く、全く対応できない。一人の警備隊員がワイバーンに弾き飛ばされようとした時、馬車から飛び出た小太郎が元の大きさに戻るとワイバーンを逆に弾き飛ばした。シアも馬車から出ると小太郎の上にひらりとまたがり、二人は弾丸のように上空へ飛び出す。上空のワイバーンはシアの振るう剣であっという間に絶命し、地に落ちたのであった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
そう聞くシアに全員が頷くと、
「では、肉を集めてしまいますね」
と、シアはワイバーンの巨体を亜空間収納に次々と放り込んでいった。
その様子を見ていたコールマン伯爵がシアに尋ねる。
「シア君、あのワイバーンたちはどこにいったのだ?」
「はい。亜空間収納にいれてあります」
「……亜空間収納」
「えーと、お母さんが古代龍の秘儀だと言って教えてくれました」
「……古代龍の秘儀」
その日の夜はシアが切り分けたワイバーンの肉で豪快にバーベキューをした。
コールマン伯爵は何度か食べたことがあったようだが、警備隊員たちは初めてのワイバーンの肉の味に、
「こんな高級な肉を食べたことがない」
と、感動していた。
(収納の中に数百体のワイバーンがいるとか言えそうにないなぁ)
シアは内心そんなことを考えていた。
その後も何度か魔物たちが襲ってきたが、その大半は小型の狼であり、警備隊員たちが余裕で処理してくれたので、シアと小太郎はのんびりと馬車の旅を楽しんだのであった。
やがて、空高くそびえる大きな壁が見えてくる。若干古びた石造りの外壁には苔が生えツタが巻き付いたところもあったが、長年風雪に耐えたであろうその外壁は敵の侵入を防ぎ王都の安全を守る砦としてその巨大な存在を誇示していた。
正面に見える巨大な門に長蛇の列が出来ている。
その横を、コールマン伯爵をのせた馬車は通り過ぎ、巨大な門の隣にある馬車が一台通れる位の小さな入口につけられる。そこで衛兵が馬車の中を覗き込んだ。
「伯爵閣下、そちらの少年達は?」
「そちらの少年は私の知人の息子だ。身分は私が保証する。その横の狼はその少年の従魔だ」
「承知いたしました。それでは従魔には識別用にこちらのリボンを首に巻いてください。それから少年にはこちらの仮入門証をお渡しいたします」
「わかった。お役目ご苦労様」
簡単なやり取りのあと、シアと小太郎をのせた馬車は大通りを走っていた。
王都に入ると、シアと小太郎はその人口の多さに驚き、また建物の大きさと人々の活気溢れる姿に興味をそそられていた。やがて、大通りの先にひときわ大きい建物が現れる。コールマン伯爵によれば、あの十階建ての建物が冒険者ギルドの総本部らしく、そこにクレインがいるとのことであった。
その建物に馬車を横付けして、先に警備隊員がコールマン伯爵来訪をギルドの係員に告げに入っていった。シアが興味深そうにしているのを見てコールマン伯爵が下りようかと誘い建物の中に入ってみると、奥から見上げるほどの巨体の老人が現れて一直線にシアのもとにやってきた。そして、シアをじろじろと眺めまわす。
(この人、あぶない人なのかな……。いざとなったら小太郎頼むな)
そんなことを思っていると、その老人がシアの肩を掴んだ。
「……お前がカールの息子だな」
「……はい」
すると、みるみるうちに大粒の涙を流しながら、
「……畜生、その黒い髪に大きな瞳、お前カールの若い時そのままじゃねぇか」
そう言って、シアを万力のような馬鹿力で締め上げるように抱きしめてわんわん泣き始めた。
それからしばらく泣き止まず、数人がかりで離そうとしてもシアを離さないので、最後は小太郎が首筋を蹴って意識を刈り取り、ようやく騒ぎが収まったのであった。
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