第8話【水魔法】

 とは言えそれについて心当たりは無い事も無い。この自分が魔物をほとんど討伐してしまったのか、最近魔物にあまり出くわさない。森の中の魔物は以前とは桁違いに少なくなっている可能性はある。だがしかし、魔物の方がこの自分を避けている可能性もあるわけで、実際のところはどうだかよくは解らない。

 少なくともこんな女の子を魔物が出る森で独りにしておくのは良くないような気がする。


 『わたしならだいじょうぶです』などと言われてはしまったが、

「あんまりそうは見えないけど」と反応する他ない。

 そう言ったがラムネさんに〝翻意〟の兆し無し。

「なんであの二人がわざわざわたしを森の中まで連れ回しているか解りますか? わたしで愉しむ他にもうひとつ理由があるんです」

 〝わたしで愉しむ〟って……

「わたしは〝水魔法〟が使えるんです」

「みずまほう?」

「やってみせれば解ります」

 そう言うやラムネさんは両手の平を開き空に向け開いた。その瞬間周辺の樹々から朝露なのか、小さな水滴がどんどんどんどん飛んでくる。あっという間に直径30センチくらいの水の球がラムネさんの両手の平の上に浮いていた。


「こういうカンジにできます」と言いながら高々と掲げる形で浮いていた水の球を目線の高さまで降ろしてきた。無重力状態の中での水のようだ。

「で、これが飲み水にできます」

 そう言うとラムネさんはキスするように水の球に唇をつけた。〝ちゅうちゅう〟と吸い込む音。

「ロクヘータさんも飲んでみます?」

 え? コレ、同じコップで回し飲みするようなもんだけど、とか思いつつやっていた。〝ちゅうちゅう〟と。

 ぷはっ!

「確かに水だ」

「人は水が無いと生きていけませんから冒険者パーティーには必ず水魔法の使い手が必要です。ただ、砂漠みたいな所ではどうにもなりませんけど、植物の生えているところならどこでも使えます」

 まあ、確かに砂漠じゃな、

「でもこの能力でどう魔物から身を守るの?」

「凍らせることもできます」

 ラムネさんがそう言うや水の球はあっという間にコッチコチの氷の球に。しかし空中に浮かび続けている状態はそのまんま。

「これを出てきた魔物にぶつけます」ラムネさんは言った。

「ぶつけられたら痛いとは思うけど、普通に割られない?」

「割られます」

「……」

「でもこれをいくつか造ったら囮で目くらましをしつつ後ろから〝どかん〟と行きます。逃げるくらいの時間は稼げます」

 なるほど、

「でも逃げてここから動いちゃったらまた会えるの?」


 と言ったが一応〝目印〟はある。そこに倒れている二つの死体だ。しかし『死体を目印にしよう』などと、どの顔をして言える?


「会えますよ。そのための水魔法でもあるんです。この水って周りの樹々から少しずつ分けてもらった水ですから、余ったり残ったり使わなくなったりしたら返すんです」

 そうラムネさんが言うや氷の球は水の球に戻り、さらに小さな水滴に分解し樹々の方へと向かってゆらゆら飛んでいく。

「この水の粒の後を追っていけば自然に元の場所に戻れますから」

 んー、優しいというのかエコというのか……じゃあこの葉っぱをちぎって食べまくっている僕の立場というのは……


 ともかく「分かった」と返事をした。取り敢えず隠したきんをちょっとだけ持ち出すとしようか。

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