第6話【こんどは美少女がお話しをしてくれる】

「まずロクヘータさんが一番気になっていること。そこに倒れている二人とわたしの関係についてお話しします」


 ラムネさんはいきなり本題から切り出してきた。気にはなるけどとても面と向かっては訊けない疑問。もちろんうなづく以外の反応などはできるはずがない。

 〝確かに確認をしてから〟ということなのか、間違いなく自分の反応を見てからラムネさんは続きを語り出した。

「——わたしは女奴隷。あそこに倒れているうちのどちらか一人が〝いわゆるご主人様〟ということになります」


 声が出ねえ。声にならねえ。〝奴隷〟なんてものが実際いるのか⁉ 正に〝異世界〟としか言いようがない!

 しかし、当然ひとつの疑問が出てくる。ラムネさんの言ったことはどこかおかしいのだ。

「一人がご主人様だとして、残りの一人は何者です?」

「自称ご主人様です」

「ご主人様と自称ご主人様の関係は?」

「ならず者冒険者仲間です」

 おかしい。


「あの、ラ、ムネさん」

「なんでしょうか?」

「気を悪くするかもしれないけど……」

「今さら少しくらいのことはだいじょうぶ、って言っておきます」

 気丈に振る舞っているようだけど、絶対なんかつらいことあったよね。


「あの、ラムネさんみたいな女の子だったら普通男は独り占めしたくなるもんだと思うけど。ほらなんというか、他の男と仲良くしているのが許せない、的な?」

「ふつうはそうなんですよねえ」

「なのに二人でってのはどういうこと?」

「奴隷なんかに愛情は無いんでしょう」

 ラムネさんは淡々と答えているように見えた。


「まあそれは……っていうか」いかん何を言ってるんだ。「あの、普通は一人しかいない〝ご主人〟とかいうのがなんで二人もいるのかなって、」

「奴隷商人を騙したんです。本当は一人の奴隷を複数人で所有してはいけないんです——」

 〝奴隷商人〟という衝撃的なことばがラムネさんの口から出てきた。

「—あっ、でも。わたしを買うとき半ば脅すような感じで交渉していましたから、怖くて敢えて見て見ぬふりをして〝騙された〟のかもしれない……」

「なんでわざわざそんな〝買い方〟を」

 〝買い方〟などと言っているこの自分も大概だが——

「わたしの値段が高いせいです」



 ……えー

 すっごいこと言われちゃったけど、どー反応してみたらいいんだよ————


「すみません。おかしなことを言って」


 一応おかしなこと言ってる自覚はあるんだ——


「で、でもラムネさんはちょっと話しただけだけど、そんなに育ちが悪そうな感じがしないけど……」

「ロクヘータさんにそう言ってもらえると、気分がふわっとする、じゃなくて軽くなります」

 お礼を言われるのはいいが、知りたいトコロを外している。

「生まれついての奴隷とか、そんなんじゃないよね?」

 そうあって欲しい、いや、そうあるべきと思って訊いた。

「はい。でも今は奴隷ですから」



「……」

 生まれつき奴隷じゃないのに自分で自分のこと奴隷、奴隷って、ココまで言えるもん?


「そこで奴隷なわたしからひとつご提案があります」


 〝奴隷なわたし〟……


「——ロクヘータさん、わたしを買いませんか?」


「へ?」

 〝買春〟とか〝売春〟とか、言われた瞬間そんな文字が頭の中を躍る。立ちつくしているのか勃ちつくしているのか固まったままでいるとラムネさんが喋りだしている。

「わたしはあそこに倒れているふたりのどちらかの所有物ということになっています」

「しょっ、しょゆぶつ?」ことばがまともに出てこない!

「ちゃんと書類も作ってあって、そんなわたしをロクヘータさんが連れていたらロクヘータさんが強盗殺人をしてわたしを奪ったことにされます」

「えーっっっ⁈」

「だいじょうぶです。わたしに考えがあります」

「考え?」

「あのふたり、わたしの代金をまだ全額払い終えていないんです。だから書類もあくまで〝仮〟」

「かり?」

「はい。仮所有の状態です。そこでロクヘータさんが残金を奴隷商人に支払っていただければ晴れてわたしはロクヘータさんの所有物になります」


「……」

 買春なんてたった一回ポッキリの権利(?)だ。しかしこれは〝永久買春〟じゃないのか⁉

 しかしそんな不埒なことを考えていたのがラムネさんに見透かされていたのだろうか、

「だけどしばらくの間は、わたしを我慢してください」

 ほんの極一瞬頭がぽかんとしたが、意味はすぐ解る。

「そそ、それは〝抱く〟とか〝交わる〟とかいうこと?」

 あまりにあまりな動名詞の名はとても口には出せない。

「はい」とやけにはっきり明瞭なご返事。恥じらうとか照れるとか、そうした仕草がどこにも現れない。

「あの、ごめんなさい。ロクヘータさんにその気があればとっくに襲われているはずで、今の時点で襲われていないのだから、こんなことは本当なら言うべきじゃないんだけど……」となぜかラムネさんこの時だけしどろもどろに。


「——決してロクヘータさんとのがイヤってわけじゃないから」


「は、まあ……」

 女の子にこーゆーこと言われるとかなり微妙な気分になってくる。

「今わたしと交わると、もし生まれた時に誰の赤ちゃんか分からなくなっちゃいます」



「……」

 そりゃね、この状況じゃあ〝処女〟じゃないとは思っていたけどさ。

「だからあと何ヶ月か待っていてください。その後ならどんな期待にも応えられると思います」

「……」

「あの、ロクヘータさん?」

「あ、いや、異世界なんかに馴染めるのかなって、ふとそんなこと思っちゃって、」

「だいじょうぶです。わたしがついています」

「あ、ありがと」

「はい。それで次のご提案があります」

 まだラムネさんはまだ何かを考えてくれている、らしい。しかし、頼もしいが半分、不安が半分。

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