第4話【事情通の美少女】
「でもどうしてわざわざ異世界から人をよんで無双にするの? 無双って、無双じゃない人からしたら危なくない?」浮かんだ当然の疑問をちょっと訊いてみた。
「無双にする理由は簡単です。代わりに戦わせるためには無双じゃないと」
「それは〝魔物〟と?」
「そうです」
「……でもわざわざ召還しなくても元からこの世界にいる人を無双にしてあげた方が事情を知ってる分マジメにやってくれるんじゃないかなぁ」
「元からこの世界にいる人では無双にならないみたいです。無双化できないと言った方がいいのかな。召還士ではないのでその辺の事情はわたしのような者にはあやふやですけど……」
いや待て、しなければならないのは〝そんな話し〟じゃないはずだ。この後の自分の身の振り方だろう。自分がここに居ることを知られているのなら、このままここにいたら良くないんじゃあ……
「訊きたいんだけど、僕はこの後どうすればいいと思う?」
「それは、もしかしてわたしの助言を聞きたい、ということですか?」
なぜか美少女、いや美少女ラムネさんが嬉しそうな顔をしている。しかし早くもそう察してくれるならこれこそ渡りに船ではないか。
「聞きたい」とあっさりその提案に乗った。
「じゃあわたしからあとひとつ。助言のためにはいつも近くに居ないと助言できません。わたしが近くに居ることを認めてくれますか?」
これは望外の誘いと言っていい。改めてラムネさんの半裸姿を意識してしまう。いいや、いやいや、何を妄想している。これは〝その手〟のお誘いではない。あくまで助言者としてだ。
「こっちからお願いしたいくらいだ」と快諾の意志を示した。
「ではさっそくひとつ、助言をいいですか?」
「もちろん」
「この先も今日出会った二人みたいな人間があなたのところにやって来るっていう話しをしましたね」
「あっ、……」
あまりの理不尽さに話しをあらぬ方向へ飛ばしてしまったのは他ならぬこの自分だ。
「なぜだと思います?」
「恨まれる覚えが無いけど、」
「あなたが黄金をいっぱい持っているからです」
「ええーっ!」
「驚くのはほどほどに。でもこれは簡単なお話しです。魔物を倒した後、魔物の遺骸は金の粒になってしまいます。あなたは相当の期間、魔物を退治してきたはずですから、黄金の量も相当なものになっているはずです」
「金目当てで殺されかけたの⁈」
「そうです」
「でもおかしいじゃないか! こっちの世界に僕が居ることが知られているとしてもどうして持ち金の量まで!」
「あなたの存在はこの世界に既に知れているという話しをしましたね?」
「うん、した」
「つまりいつ召還したかその時期も知れ渡っているわけです。普通無双転生者は転生した後そう間を置かずに意気揚々と街へ乗り込むものなのですが、召還したのにいっこうに街に姿を現さない」
「街があるなんて知らなかったから」
「でもこれまでの間、食べ物とか飲み物とかどうしていたんです?」
「葉っぱ」
「はい?」
「葉っぱがね、どういう訳かなんでも食べられる体質になってるの」
「なんというか、本当に冒険者向きの異能が備わっているんですね。ある意味本物の無双です」
「いや、どうなんだろう?」
「あっ、すみません。話しが逸れてしまって。それで召還日から今日までひたすら魔物退治にいそしんでいたら貯まった黄金の量もかなりのものになるという想像は簡単に出てきます」
「……そうかぁ、そういう、いやそんなことで命を狙われるのか……」
「はい、黄金は人を狂わせます」
「しかしこの広い森の中で一人の人間の元にどうしてたどり着けるんだ?」
「詳しいことは解りません。たぶん〝ステータス・オープン〟じゃないかと思うんです」
「すてーたす・おーぷん?」
「魔物と言わず人間と言わずあらゆる対象の力を瞬時に数値化してしまう魔法です。冒険者なら誰でも使わせてくれます。かなりの遠方からでもその存在の察知は可能です」
対人レーダーか……
「やっかいな魔法だな。まさか僕を見つけるために——?」
「いえ、今回はそういう使い方をされただけだと思います。本来は冒険者が危険な敵を回避するために使っているとか」
「安全志向の冒険者ね……」
「そこでわたしからの助言です。どうせ見つけられてしまうのならこの際思い切って街へ出ませんか?」
「街⁉」
「そうです。あなたと話していて気づいたことがあります」
「なにに?」
「あなたは情報を知らなさすぎる。でも無理もありません、異世界から来たのですから。そう言うわたしも知らないことは多いです。なにかを判断して決めようと思ったら情報を集めるところから始めないと間違った判断をしてしまいます。情報を集めようと思ったらまず情報の集まる所、つまり街へ行くのが一番いいんじゃないかって思います」
なんと的確な、いや的確に聞こえる〝助言〟だろうか。これはただの半裸姿の美少女ではない。なんていうか、ナビゲーターとして申し分ない。いや、ナビゲーターは失礼かもしれない。もしかして『異世界の羅針盤』かもしれない。
だが一方でどこか人が悪いのもこの自分。
ことば巧みに街へ誘い込もうとしているのでは、と思えなくもない。しかしすぐそこに転がっている二人の悪漢の死体は、この僕の今後について『現状維持もまた上策ではない』と言えるだけの何よりの物的証拠でもある。
「よし行こう」何が待っているのかよく解らないがそう返事をすると決めた。だから言った。取りあえず今は後悔は無い。
「あの、それでですね、」とまだ美少女ラムネさんは言いたいことがありそう。
「なんでしょう?」
「もっとも身近な情報をわたしたち知らないと思うんです」
なにを言われているのかさっぱりピンと来ない。
「と言うと?」
「お互いに〝自分自身について〟の情報の交換をしませんか?」美少女ラムネさんは、あまりに真顔で迫ってきた。
なんというか、あまりになんというのかという出来事が始まっている。死体が二つ、転がっている側でうきうきしてるってのも大概だが——
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