無双転生者と24人の女奴隷たち。そこへ悪役令嬢が突っ込んだ!

齋藤 龍彦

第1話【無双転生者、美少女に助けを求められ、ならず者に絡まれる】

『紹介文』(796文字・第30回電撃小説大賞応募用)


 主人公鹿路六平太(ロクロ・ロクヘータ)は、いかにも〝ナーロッパ〟な異世界に〝無双〟状態で転生を果たしてしまう。普通なら周囲にチヤホヤされる〝無双ライフ〟を謳歌するところである。

 が、彼は転生後、異世界の森の中、襲い掛かってくる怪物(魔物)と戦いながらソロでずうっと活動を続けていた。主人公は無双故に連戦連勝、その上樹々生い茂る森の中では〝食べる物に困らない〟という特殊能力持ちであった。

 『特別困らなければ現状維持でいいや』、という感覚を持つ主人公は〝無双でチヤホヤされよう〟という発想の、まるで湧かない人物であった。

 こうして無双転生者であるにも関わらずソロ活動を続けてきた主人公に、或る日転機が訪れる。少女を悪漢たちから救い出したことをきっかけにソロ活動に終止符を打ち、少女とともに街へ出ることにしたのだ。ここでその少女は主人公に提案する。『必要なのは仲間です』と。

 ところが提案されたその具体的仲間集めの方法は『できる限り女奴隷を買うこと』であった。『そのうち半分でも恩を感じてくれればそれが仲間になる』と、そうした思惑である。それに乗った主人公、持ち金の大半をはたき女奴隷を買いも買ったり都合二十四人。

 これが主人公つまづきの元だった。女奴隷たちは主人公に依存しおおよそ仲間とは程遠い。その上誰一人去る者がいなかった。さらに悪いことは続くもので主人公はギルドから『魔物をしてきた』として多額の金銭的要求をされてしまう。だがここでホワイト・ナイトが登場する。だがそれは一見『悪役令嬢風』にしか見えない少女である。しかし女奴隷もろとも主人公を雇ってくれるという。

 かくして〝トラブル状態が通常〟な主人公の異世界日常生活が始まっていく。

 とは言え日常生活の中ではその類いまれな無双能力も宝の持ち腐れ。発揮する場が訪れそうにない。果たしてその持てる能力を全解放するXデーが主人公に来るのか来ないのか——



===============(以下本編)===============


 ガサガサガサガサと茂みをかき分ける音で目覚めた。まだ夜が明けたばかりの極早朝で空を直接拝めないこの辺りは闇が少しマシになった程度の明度しかない。

 どこだか知らない森の中へさっぱり解らないまま飛ばされた。アニメ的に言うのならきっと〝異世界〟とかいうのだろう。そこからかれこれ一年近く経っている、で間違いない。これだけこんな生活を続けていたら寝ていても僅かな音で目を覚ます事ができるようになる。柄にもなくすっかり野生化してしまったという〝自覚〟を改めて思い知らされた。この世界が日常になってしまうともう普段はそんな事すっかり忘れているから。

 おっと、今は〝集中〟だ。集中っ。

 あれは……にんげん、なのか?


 それも一人じゃない、数名いる。


 いや、人間であるわけがない。これまでここ(森)では人間など見ていない。と、すると〝人間に見えるもの〟という事になる。


 嫌だな、


 この森を〝異世界〟と思ったのは、ここには怪物が棲み、そうして訳もなくそうした怪物に襲われるのが日常になっているから。襲われているのにこうして死なずに生きているのは怪物を殺せるだけの〝異能〟がこの自分の身体に備わっているから。

 なぜ備わっているのかは解らない。ともかく百戦百勝だ。いや、そんな程度じゃない。既にその回数、百回を優に超えているから。

 そうした怪物は、あくまで怪物の形をしていて間違っても〝人間〟とは思えない外見だ。

 だが今目の前にいる存在は人間に見える……


 こいつはヤバいんじゃないか——


 人間の形をしているものには知性がある。知性があるものは〝上級〟に違いない。


 今のところ襲われてはいない。気づかれていないって事だ。ならばこちらも息を潜めに違いない。

 その時だ、

 ガサガサガサガサガサガサガサと茂みをかき分ける音がだんだんと大きくなってくる。なんでこっちに近づいて来る⁉

「助けてくださーい!」という女の大きな声がしたかと思ったら「待てっ! お前は俺らのモンだろうが」今度は男の大きな声。「ちげーだろっ!」ともう一人の男の声。

 なにをどう判断し行動するか考える前にもう目の前に女が姿を現している。この自分の目はマイナス6EVでも対象物を鮮明に捕らえる。〝美少女〟としか表現のしようがなかった。そして髪は長い。なにかを訴えかけるような目をしている、と思った側から美少女が前のめりにコケた。

 そこで思わず「あっ」と声が出て知らず立ち上がっていた。

 しまった! やり過ごすつもりだったのに。

 必然人間の男の顔が二つ、遠目真っ正面に。凶悪そのものの顔をしている。戦うつもりなどハナから無かったが状況は既に戦わざるを得ない方向へまっしぐら。こちらが何かを言う前に一方が喋り出していた。


「間違いねー、奴だ。声、聞こえたぜ」


 それはこちらの台詞だ。お前らも喋ってる。その上学芸会みたいな服着てなにしてやがる。だがその直後、判断に決定的な影響をあたえることばが耳に飛び込んできた。


きんのありかを全部吐けよ」


 この人間の形をしたものはこの自分を〝〟を鮮明にした。こうしている間にもだんだんと夜が明けつつあり、じき物の輪郭だけは薄ぼんやりとだが判別がつくようになる。

 なるほど、〝好機〟というわけか。この時間帯を狙っての襲撃だな。やられた仲間(怪物)の敵討ち兼強盗という目的すらはっきりしてる。行動に理屈があり間違いなく〝知性〟がある。

 どういう訳か襲ってくる怪物を倒すとその死体は必ず〝砂金状〟になる。一応それは放置する事なく回収し〝或る所〟にひとまとめにしてある。『物的証拠&金目の物の所へと案内しろ』というわけか。

 再びここで「助けてくださいっ」という美少女の声だけが前方下の方から。さらにもう一方の「吐けば命だけは助けてやる」という男の声が今度は前方正面から。


 全ての状況は背中を押しつつある。しかし非後悔のためには判断はまだ早い。この自分が本当に無双なのかどうか確証が持てないし、こっちから仕掛けて殺られたら最悪のアホだ。

「そっちこそ直ちにこの場を立ち去れ。立ち去ったら追わない!」

 戦わずに状況を切り抜けられるならそれに超したことはないんだ!

 だが、

「無双は言うことが違うね〜」とよく解らない反応が戻ってくる。こっちを〝無双〟と認定している割に立ち去るつもりなど無さそう。もう片割れも喋り始める。

「ヲイヲイ、その女は『助けてください』って言ってるけど」

 これを受けさらにもう一方に話しが戻る。

「女を見殺しにして自分だけ逃げようってか?」


 マイナス6EVでも対象物を鮮明に捕らえられるこの目によって、限りなく闇に近い状況でも人の表情など手に取るように解る。コイツら本当に悪人面してやがる。

 待てよ、女の方もグルって可能性はないか? いわゆる美人局。怪物の美人局というのも変だが油断を誘う役という可能性も。視線を僅かに下ろす。地面に突っ伏したままの美少女はこちらをじっと見上げている。その表情は変わらない。目も相変わらず訴えかけるような目。


 ——目など見て解るわけなどない。


 確実に言える事。『金を出せば命だけは助けてやる』と言う奴は、その約束(?)を破る確率もかなり高い。悪意は確認済み。まして戦える手段が無いのならともかく、こちらには戦える能力がある。

 今や全ての状況は完全に背中を押した。

 やるしかない! 相手は怪物だ!

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