第24話激戦を終えて(2)
その言葉を最後に大きな画面が現れ、合格者の名前が映し出されていた。おぉ、なんだかこの自分の名前はどこだとか、合格しているのかなとか不安に思うこの感じは。
その画面を見つめ、名前を見つけ出したものは歓喜に包まれ、未だ名前がないものは焦りと不安に身を苛まれていた。俺の名前も無いぞ……、本当に俺は不合格なのか? 流石にあれはやりすぎたのか? いや、それならこの試験で死者を出しているこの学園もおかしいはずだ。
そして、俺やシャルルたちの名前すら目にすることなく、全ての合格者の発表が終わってしまった……。嘘だろ? 俺だけじゃなく、シャルルたちも不合格だと⁉
そんな事実に硬直している俺たちの前に、そしてと付け足されて発表があった。
「今年度新入生の選ばれし十人の生徒がこちらです」
新入生序列第十位、アルベルト・ドミニク。
第九位、セシル・ルチアーノ。
第八位、ルミナス・バレンシア。
第七位、イワン・アルモンド。
第六位、イズミ・ワカツキ。
第五位、キョウヤ・ナグモ。
第四位、ルイネ・クリストファー。
第三位、カイル・ローランド。
第二位次席、シャルル・クシャナス。
第一位主席、クロム・ジルキア。
「以上が今年度の名誉ある我が魔剣学園の十傑たちである」
その新たに映し出された画面を見て、思わず口が塞がらなかった。な、なんだと……。俺が主席だと⁉ 何故だ? やはり最後のあの試験がいけなかったのか……? まずい、これはまずい。俺のスローライフが遥か向こうに遠のいている気がした。
「やりましたね! 私たち十傑に選ばれたんですね!」
俺の心中とは真逆に喜びを露わにしている、シャルルたち。というか君たちこの制度知っていたのね……。できれば早めに教えておいて欲しかったです。はい。
「あ、あぁ。そうだな、やったな」
「ん? クロムあんまり嬉しそうじゃありませんね? あ! そういうことですか……、確かにクロムからするとあまり嬉しくは無いですね……。ですがあなたは強い! これは公平な結果だと思います。いつまでも隠し通せるほど甘いものではないのです!」
今も目をキラキラと輝かせてるシャルルの目が眩しくて、俺はこの変えられない結果を諦めて受け入れることにした。
「はぁ、そうだな。わかったよ」
「お前がクロム・ジルキアか?」
シャルルとの会話が終わりを迎えると、不意に見たことも無い男に話しかけられた。
「あぁ、そうだが。お前は誰だ?」
「挨拶が遅くなって申し訳ない。俺の名は、カイル・ローランドだ。まずは主席様がどれほどの力を持っているのか確認したくてね」
「そうか、お前が三位の奴か。これからよろしく頼む」
俺の見立てではルイネを含む五人で上位を独占できると思ったのだが、俺の知らない所で意外と活躍をしていた奴らが居たのだな。
合格発表も終わり、皆各々結果を受け止め、悔いる者も居れば、歓喜する者も居た。そんな彼等彼女等を横目に、俺はナグモとワカツキにある提案をした。
「お前たち二人、良ければ今晩家で晩飯を食べて行かないか? せっかく合格したんだし、お前たちも家で二人きりなんだろ?」
「ちょっと、クロムっち? 私たちは別々の家で暮らしてるから! ご飯はこの馬鹿は何も作れないから一緒に食べてるけど、ていうか、さっきの提案ほんと⁉ 行きたい行きたい!」
俺の提案にワカツキもナグモもテンションを上げて意気揚々としていた。何故だかわからないが、今晩はまだこの喧騒を感じていたいと思っている自分が居る。
そんなやり取りをしている中、俺の背後から物凄い、威圧を感じる。その威圧の凄さは計り知れず、つい、後ろを振り返ることを拒絶してしまいそうな程に嫌な感じがする。
後ろを振り返らずに居ると、ワカツキが丁度俺の向かいに居るためにその威圧の正体を見てしまったらしく、ワカツキの顔面が恐怖の色で染め上げられていた。え? 何? そんなに怖いものがあるの? ワカツキの顔がみるみる涙目に変わっていき、時には顔を横に全力で振っていた。そんなワカツキが慌てたように俺に向けて口を開いた。
「クロムっち! もう一人誘う相手忘れてない? きっと誘って欲しいと思ってるんじゃないかな?」
「ん? 誰かいたか? あー、そうか忘れていたよ。せっかく同じ十傑になっったんだしもう少し親睦を深めないとな。な! ルイネ、お前も家に来るか?」
ワカツキの言葉を受けて、すっかりルイネを誘うことを忘れていた。いかんいかん、いきなり仲間はずれにしては可哀想だからな。
俺がルイネを誘ったことに満足してワカツキの方に感謝の念を送ろうとしたのだが、ワカツキの顔は更に蒼白になり、次第に俺から距離を置くようになった。ん? なんなんだあいつは。ルイネを誘うんじゃないのか?
後ろから感じていた威圧は感じられなくなり、少しその正体が気になり後ろを振り返ると、何故かシャルルが泣いていた。
「え⁉ お、おい。シャルルどうした? 何か嫌な事でもあったのか?」
「……クロムにイジメられました。酷いです。悲しいです。もう知りません!」
シャルルは顔をふいっと背けてしまい、何やらいじけている様子だった。えー……、何でシャルルいじけてんの? 俺にイジメられた? いつ? どこで?
俺が答えを見いだせずにいると先程誘ったルイネが、はぁとため息を吐きながら答えを教えてくれた。
「貴様は馬鹿か、シャルル様はお前の家で一緒に晩ご飯を食べに行きたいのだ。全く、私の殺気を感じるくらい女心をもっと感じろ貴様は」
ルイネの言葉にワカツキも全力で首を縦に振り頷いていた。
「あ、そういうことか。悪い。王族はそういう庶民と晩ご飯を共にすることはできないと思っていたんだ。シャルル、決してお前を仲間外れにしようとは思っていないからな?」
「……本当に?」
「あぁ、本当だ。シャルルがもし、来れるのであればもちろん来て欲しい」
「是非! お願いします。ルイネ、大至急合格通知と、クロムの家に食事に出かけると伝えなさい」
俺の真意を聞いたシャルルは涙顔から一変、可愛らしい笑顔に変わりそれを見たワカツキも胸を撫で下ろしていた。先程から感じていた威圧はシャルルからのものだったのか、うん。俺はシャルルを怒らせてはいけないと改めて認識した。
皆が学園から出て行く間、俺たちは先程シャルルの命によりシャルルの父、このクシャナス王国の国王に伝言を伝えに行ったルイナを待っていた。
「クロムの家ってここからどれくらいかかるんだ?」
「歩いて行くと、大体一ヶ月くらいかな」
「「「……」」」
「ん? おいおい、まさか歩いて行くわけないだろ? 俺には転移があるんだから、一瞬だよ」
「そ、そうでしたね。クロムには転移がありましたからね。それより、あの失われた古のスキルをどこで覚えたのですか?」
「それ、私も思った! そもそも神の裁き(ラグナロク)をどうやって一人で行使しているの? あんな負担のかかる魔法一人で打てば体がもたないはずだよ」
転移ってそんな大層な代物になっているの? 俺の時代ではそこら辺に居る住人でも扱えたのに……。ふむ、まずいなこれはどう説明すればいいのやら。
「えと、なんかできた? というかできちゃった? みたいな?」
「なんかさクロムっちってクールな割に時々アホだよね」
酷い言われようだった。仕方ないだろ! 説明したくてもどうせわからないんだから。
それからしばらく、シャルルとワカツキからの質問の嵐に加え、最終的にはナグモまで加わりあたふたしている所に、タイミングよくルイネが戻ってきた。ナイス! ルイネ。
「シャルル様、国王様より、伝達です。「合格おめでとう、友達ができて何よりだ。その者たちとしっかり親睦を深めてくるように。本当にお友達だよね? 変な輩が居たら即刻処刑だからね?」だそうです」
ちょっと? 国王様? 個人的感情だだ漏れなんですけど? しかも即刻処刑て……。
国王の伝言のせいでシャルルはまたしても顔を赤らめて、下を向いていた。あー、なんとなくわかるよその気持ち。たぶん俺の両親も似た感じだから。
「ま、まあこれでシャルルも行けるんだし、行こうぜ。もういい時間だ。全員手を繋いでくれ」
俺の言葉を聞き皆は手を繋ぎ、一つの円を作り上げた。その最中ワカツキとシャルルとなんならルイネの三人が何やら争っていた。その争いを見届けていたナグモは俺の方に視線を送り、にんまり嫌な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
たかだか一つの円を作り上げるのに五分ほど時間がかかった。最終的には俺の右手側と左手側にはシャルルとルイネが居た。それを正面に居るワカツキが悔しそうに唇を噛み締めてこちらを睨んでいた。はぁ、やはり女の考えはわからん。何を争っているのやら。
「準備はいいな? 目的地に着くまで手を離すなよ?」
皆に忠告を入れて転移した。
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