第18話最終試験(3)

 中庭には大きなサイレンの音が鳴り響き、場内アナウンスが流れた。



「以上を持ちまして、第二試験終了とさせていただきます。通過者は以下の方々です」



 そうして、画面に張り出された名前を確認して気付いたことがあった。それは、俺たちのグループ以外全滅したにも関わらず、そこにはルイネの名前も映し出されていた。どうやら、あの試験は勝利することが条件と言いつつ、格上の冒険者にどう対応するのかを問われていたのかもしれない。



「引き続き第三試験を行います。ですが、その前に皆さまの体力を回復したいと思います、中庭の中央付近にお集まりください」



 試験でボロボロになっていた彼等彼女等は、言われるがまま中庭の中央付近に集まっていた。するとそこに、上空から癒しの雨(ヒールレイン)が降り注いでいた。



 その雨に打たれている彼等彼女等は、みるみる回復していき、生気が満ちていた。



「では、これより、第三試験の会場にご案内いたします。各グループの方は指定された闘技場まで移動をお願いします」



 今回の試験は転移による移動ではなく、学園の施設を使うらしく、皆指定された場所に赴いていた。ルイネとは別グループとなり、一度ここで別れることになった。



 暫く歩いていると、目的地に着いた。そこにはかなり大きなコロッセオがイメージできるような作りをしている闘技場が目の前にあった。



 この闘技場を見て今回の試験の内容を予想していた。第一試験は判断力、危機回避能力、基本的な戦闘能力が試された。第二試験では起点、戦闘力、統率力、順応性が試された。どの試験も多人数を想定された試験だ。これらから推測すると、おそらく第三試験は個人の能力を最大限に引き出す試験。それは、個人戦の可能性が高いだろう。



「第三試験の説明を致します。この第三試験を持ちまして、全入学試験を終了とさせて頂きます。長きに渡る試験、大変お疲れ様でした。第三試験の内容はこれから各グループの方は我らが誇る魔剣学園の教職員の方々と一騎打ちをしてもらいます。今回に限り勝利が合格条件ではありません。皆様の能力に応じて合否が分かれます。それでは第三試験開始と致します」



 やはり、俺の予想通り個人戦が最終試験の内容になっていた。そして、俺たちの相手をする教職員の人が出てきた。少し長い髪で隠れた左目、驚くほど静かな海のような魔力を放っている。手をポケットに突っ込んでその場に立っているだけなのに、一つの隙もない姿勢。間違いなくこの男は強いな。



 だが、その感想を抱いたのはどうやら俺だけらしく、皆その男を見ても先の魔獣や冒険者よりも見劣りするらしく、緊張感は一切感じられなかった。



「なあなあ、クロム。今回の試験ってもしかしてボーナスステージみたいなものなのか? あの先生全然強くなさそうだぜ?」


「私もあの先生からは強そうとか怖いって感じがしないね」


「私もそうなのですが、ですがこの学園の教職員の方ですからもしかしたら魔法がとんでもなく扱える方かもしれません。油断は禁物です」



 三人もあの男の力を測れていな様子だった。これまで仲良くしてくれた好として一つ忠告をしておこう。



「お前たち、一つ教えといてやる。あの男はかなりの使い手だぞ。俺の見立てではあの魔獣よりは確実に強い。そして、あの冒険者と同等かそれ以上の力を持っているぞ」


「「「……」」」



 忠告を聞いた三人は一気に絶望の色に顔を染め上げた。死の恐怖から解放されたと思いきや更なる死の恐怖が間近に迫ったことにより気持ちの整理が付いていないように見える。ふむ、恐怖を煽りすぎてしまったかな。



 三人の整理が纏まる前に、一人目の参加者が闘技場に現れた。まずは、どんなものかお手並み拝見といこうか。



 そして、戦いが始まった。その途端、会場内が凍てついた空気に覆われた。周囲が凍てついた空気に覆われたのを見て、参加者の男は火の魔法で応戦していた。教員の男が一体何をしたのか俺ですらわからなかったが、この戦いを見届ければある程度解析できるだろう。



 その戦いを見ていると驚愕の出来事が起きた。それは、参加者の男が炎中級魔法・ファイガを放ったのだが、威力、魔力共に申し分のない攻撃が教員の男に届く前にその魔法は氷漬けにされてしまった。ほぅ? あの炎を氷漬けにするほどの冷気か。教員の男は未だポケットに手を突っ込んだまま一歩も動かず、参加者の男を見ていた。すると辺りからちらほら声が聞こえてきた。



「お、おいあれって、元sランク冒険者最強の氷魔。スノウ・テオドールじゃないのか⁉」



 周囲からの声を聞いた俺は、納得していた。やはり俺の予想は的中だった。



 教員の男もとい、スノウは参加者の男に告げていた。



「このまま、降参をお勧めする。勝負は終わった」



 スノウが告げ終わると、男の体は足元から徐々に凍り付いていた。これでは流石に何もできることは無いと悟ったのか、呆気なく降参を宣言していた。



 そして、また一人、また一人とスノウを一歩も動かすことができずに全て同じやり方で負けていく参加者たち。なるほど、今回の試験を個人戦にしたのはどこのグループもほとんど同じ状況なのだろう。だからこうして、一人一人が戦っていてもスケジュール的にはなんの支障もないという訳か。



「クロム、頼む教えてくれ! 俺はどう戦ったらいいんだ?」


 突然ナグモが必死な表情で訪ねてくる。その言葉を聞いて俺は首を傾げながら問う。

「そもそもお前は剣術以外何ができるんだ?」


「う、えーと、身体強化くらいかな?」


「なら、一つだけわかっていることを教える。あのスノウとやらは開始直後簡易結界のようなものを創り出している、その結界内に入り込み数秒後に凍り付けになるという細工がされている。だからまずは奴の近くから離れるべきだろうな」



 俺の助言はあまり効果が見られなかったが、ナグモはその後もぶつぶつと一人で何かを口ずさんでいた。そんなナグモを他所に、俺は少しでも情報を得ようとスノウをスキル鑑定(スキャン)した。



 鑑定した結果は失敗に終わった。流石にこのレベルになると妨害をかなり緻密に作り上げていた。それにあの男、俺が鑑定したことに気付いていたな。鑑定のスキルが妨害されたのと同時にスノウは俺の方に視線を向けていたからである。



 そして、次はワカツキの番が回ってきた。



 開始直後、ワカツキは炎の魔法を会場内にばらまき、そこら中に火を着けていた。ほぅ、中々考えたな。だがこの程度ではほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。



 ワカツキの行動を見て、初めて簡易結界以外の攻撃を見せたスノウ。相も変わらずポケットに手を突っ込んだままだったが、ワカツキに目掛けて氷の槍が降り注いだ。



 ワカツキも驚いていたものの、それを炎防御魔法・フレアサークルできちんとガードしていた。その後もスノウに捉えられないように辺りを素早く移動しながら、ワカツキが自身の右腕に魔力を溜めている様子が見受けられる。



 スノウの攻撃を躱したタイミングで、炎上級魔法・イグナイトを放った。



 今試験始まって初めてスノウが防御したところを見させられた。



 ワカツキの放ったイグナイトはかなりの威力であったが、スノウの氷の壁を壊すことは出来てはいなかった。だが、ワカツキの狙いはそこではなかったらしく、炎によって溶かされた水を操り、水魔法・ウオーターランスをスノウの防御の内から攻めていた。これには会場内も歓声が上がっていた。ワカツキの狙いは確かによかったのだが、属性の相性が悪かった。スノウに向けられたウオーターランスはスノウが張り巡らした簡易結果の影響で凍らされていた。



 その攻撃が通じないことがわかってもワカツキは慌てることなく、様々な試みを試していた。一見防戦一方に見えるスノウには余裕が感じられる。そして、決着の時が訪れた。

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