第9話第一試験・サバイバル(4)
意識が朦朧としている中、回復魔法・リストアを使い完全に元の体に復元した。今のは危なかった。いや、本当にやばかった。死の予感なんてもう何十年も感じてはいなかったからな、かなりひやひやしたがこれも転生しなければ味わうことの無い経験だったな。だが、回復はしても事態は何一つとして解決はしていない。まだ戦い始めてほんの僅かだし、この時間ではあの一団はこの魔獣から逃げ切るのはほぼ、不可能と言ってもいい。次はあの速さを気にしつつ魔法で攻撃をするしかないか。武具による攻撃はどうしても武器は通っても俺の筋力では決定打に欠けてしまう、それならまだ魔法による攻撃なら昔とは程遠くとも少しは奴にダメージを与えられるだろう。
俺は自身の魔力に意識を向けた。全属性の魔力を体内に充満させ、俺の体から七色の魔力を放出した。
「モード七つの大罪(トリニティセブン)」
昔の俺の最強に近いモードの一つ、七つの大罪(トリニティセブン)自身の周りに全属性の魔力の球体が浮かび上がり、この状態から放つ魔法は今までの数十倍にも威力が上がる状態だ。この体では以て数分が良い所だが、こちらも奥の手を隠していては本当に殺されてしまうかもしれない。
「喜べ、魔獣よ、この姿は且つての勇者と魔王クラスでしか拝むことのできなかった姿だ」
俺の姿が変わったことに警戒しているのかまたもや、こちらを窺っている様子の魔獣。こちらとしては時間も無いので早々に攻撃させてもらうとするか。
俺は右手を前に差し出し、周りに浮かび上がっている球体の火、光属性の球体が俺の右手の前に集結した。そして、炎、光融合魔法・メテオフォールを放った。
上空から無数の隕石が降り注ぎ魔獣に炸裂した。流石の魔獣も全ては避けきることはできなかったようで、ようやく外傷によるダメージが確認できた。だが、魔獣もすぐさま反撃に出てきた。またしてもスピードを急激に上げ、今度は俺の背後から攻撃を繰り出そうとしていたが、この状態の俺なら魔眼の未来予知の情報からすぐさまに行動に移すことが可能になり、背後にはすでに仕掛けとして魔法を仕込んである。
俺の背後に周り攻撃をしようとした魔獣の足からは大量の血が噴き出ていた。それは風魔法・ウィンドンブレードが発動したからだ。見えざる無数の風の刃が魔獣を襲った。魔獣もそれに反応して距離を置きに来ていた。だが、その隙を逃す俺ではなかった。立て続けに今度は氷属性の球体を前に出し、俺の右掌の上で激しく膨れ上がった。
氷魔法・エターナルブリザード。掌の上で激しく膨れ上がる魔力の球を魔獣目掛けて思いっきり投げ飛ばした。俺の放った一撃は見事命中し、魔獣は辺りの木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいた。くっ、まずい、もう時間がない……。
吹き飛ばされた魔獣は未だ致命傷には至っていない様子。そして、怒り狂ったのか高々と俺にめがけて咆哮を飛ばしていた。なんてタフな野郎だ、次で決めなければおそらく俺たちは皆殺しに遭ってしまう。次がこの状態での最後の魔法になる。だから俺は自身の一番得意である闇魔法を選択した。俺の大技を繰り出すことを察知したのか、魔獣もそれに対抗するように魔力砲の準備をしていた。
自身の更なる強化をするためにスキル影の王による権能の一つ、王の領域を展開した。辺りを黒い影のサークルが広がり俺自身を強化していく。本来これは影の戦士たちに使うものなのだが、この領域内では俺自身も能力が向上する。
闇の力を身に纏い、両腕を前にかざし前方の魔獣に集中した。
闇魔法・カオス・ノヴァ。溢れ出る魔力を一点に集中させそれを魔獣に向けて放った。魔獣も俺の攻撃に合わせて先よりも威力の増した魔力砲を放ってきた。
俺と魔獣の攻撃がぶつかり合い、その衝撃により辺りは原型を留めないほどに荒れ果てた荒野と化している。魔力同士の押し合い、これは完全に俺に分があった。無限の魔力、俺に長期戦を挑み勝った者は一人も居ない。今も拮抗している魔力のぶつかり合いが徐々に俺の放ったカオス・ノヴァが優勢になり始めている。そしてその好機に一気に畳みかけにいった。
一気に魔力を押し流し、魔獣の魔力砲を打ち消し、命中した。流石にこれで動けなくなってくれるといいのだがな……。
カオス・ノヴァが地面を抉ったことにより、地面はクレーターのように陥没していた。その穴より、魔獣がよろよろと立ち上がろうとしていた。だが、先程の攻撃により魔獣は全身がボロボロになり、立ち上がるのが精一杯という感じに見えた。まあ、あれを喰らって立ち上がれるだけこいつはバケモノだよ。
そして、見事魔獣を行動不能に追い込んだことに安堵している俺の目の前で恐ろしい光景が広がった。
今もよろよろと立ち上がっている魔獣の体内から回復魔法の痕跡が見えた。何⁉ こいつ回復も出来たのか。安堵による、油断。魔獣から意識を外した瞬間を狙われたのだ。一度発動してしまっては、破壊は使えない。あれはそもそも発動による術式を瞬時に解析して発動による魔法式を一文字破壊することにより魔法を使えなくするスキルなのだ。
回復魔法により、みるみる回復をしていく。俺も影の王の状態に戻ってしまい、このままでは振り出しに戻ってしまう。残り時間を確認すると、残り三十分を示していた。くそっ、結局十五分しかこいつを足止めできていない。俺の作戦では残り時間が最低でも十五分は必要だった。仕方ない、俺の我儘で他のメンバーを危険に晒すくらいなら、あまり使いたくはなかったが、やむを得んか。
「来い、リューキ」
影の戦士、十影雄の一人リューキを召還した。リューキは昔、東洋辺りで活躍した英雄だ。俺の影の王は基本的に死者に干渉し、死者と語り、分かち合うことで影の戦士として扱うことができるスキルだ。
そして、この影の戦士たちを束ねるのがこいつらだ。
十影雄。
十番隊隊長・リューキ。
九番隊隊長・アモン。
八番隊隊長・ソルス。
七番隊隊長・アギト。
六番隊隊長・ゼノン。
五番隊隊長・ロキ。
四番隊隊長・インドラ。
三番隊隊長・アシュラ。
二番隊隊長・ローグ。
一番隊隊長兼全隊統率・ウラノス。以上十名による指揮官で形成されている。
「お呼びでしょうか、王よ」
召還に応じ参上したリューキは片膝を地面に着きながら頭を下げて、俺からの指示を待っていた。
「すまない、今の俺ではあの魔獣を食い止めることができそうにない。だからお前がこいつの足止めをしろ」
「はは、よくおっしゃられます。その気になればこんな魔獣如き簡単に屠れるでしょうに、まあ、王の目立たず穏便に過ごすという目的がある以上はこの魔獣を倒してしまうのは些か目立ちすぎてしまいますからな」
「いや、そうでもない。今の俺にはあれくらいが限界だ。だが今後はもう少し修練のペースを上げれば早々にあんな魔獣に遅れは取らない」
「今はそういうことにしておきましょう」
そこで会話を止め、今も俺とリューキの前に完全に回復した魔獣が姿を現していた。
俺は一歩後ろに下がり、選手交代を魔獣にもわかるようにした。リューキは腰に添えている一本の長い太刀のような刀を抜き、魔獣に向けて構えていた。
リューキと魔獣がお互いの間合いを測るように、一歩、二歩と横に移動しつつ互いの動きを見計らっていたが、不意に魔獣がリューキに襲い掛かった。
その動きに慌てることも無く、リューキは魔獣の両足を一刀両断した。魔獣は自身が切られた事も気付いていないのか、再び攻撃しようとして、倒れこんだ。リューキの鮮やかな洗練された剣技を見た俺は、思わず笑みを浮かばせていた。
魔獣はまたしても回復魔法で自身を回復して、またリューキの前に立った。こいつ、さっきよりも回復のスピードが上がっている。
速さが通じないとわかると、次は大規模の魔力砲による攻撃だった。魔力を一点に集めてリューキに向けてそれを放った。
「龍心流一の型霞一文字」
リューキの扱う流派の技、霞一文字。超高速で間合いを詰め、流れに逆らわず鞘から刀身を抜刀する技。あまりの速さに間合いを詰めた場所までの残像が霞がかっていることからこの技の名前が付けられたそうだ。
魔獣の魔力砲はリューキの抜刀術により美しくまさに一文字の如く横一列に切り裂かれていた。このままいきたいものだが、今まさに俺の限界が迎えようとしていた。理由は今の俺の未熟な体では無限(インフィニティ)の魔眼を行使できるタイムリミットがあるのだ。魔眼の権能が無ければ、俺自身の魔力はとっくに切れている。そうなると、影の王も維持することができなくなる。残り時間を確認すると、残り十七分を示していた。ぎりぎりなんとか間に合いそうだな。
俺は最後の作戦を伝えるべく王女様にスキル通信(テレパシー)を使った。
「聞こえますか?」
「は、はい! あなたは先程の……、今こうして連絡ができるということは、もしかしてあのバケモノを倒したということですか⁉」
「申し訳ありません、俺の力では少しの時間足止めすることが限界でした。これが最後の伝令です、間もなく俺の魔力はほぼ空になります、残り時間が十五分になるのと同時に俺が反魔法(アンチマジック)の結界を残り全ての魔力と引き換えにこの島全体に展開します。ですから、どうにか逃げ切ってください。それでは検討を祈ります」
その会話を最後にリューキが消える間際に魔獣の両足を切り落として影の世界に戻って行った。魔力を使い果たした俺は途轍もない倦怠感に晒されていた。魔力欠乏症になってしまっているのだろう。だが、俺はそれも計算の内に入れておいたため、非常用の魔力を残しておいたのだ。それを自身の魔力に戻し、今度こそ残りの魔力を使い切り島全体に反魔法の結界を展開して、……俺は力尽きた。
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